二話
※誤字が有りましたので修正しました。
『ウォルター二二一三便、こちらレスティアーナ宇宙港管制。貴船の出港を確認。通信周波数をレスティアーナ軌道管制局へ変更してください。グッデイ』
と、男性管制官の声がセシリアたち各々のヘッドセットのスピーカーに出力される。レフトシートに座っているアリシアが応答する。
「レスティアーナ宇宙港管制、こちらウォルター二二一三便。通信周波数をレスティアーナ軌道管制局へ変更します。グッデイ」
宇宙港から出港してすぐに、レスティアーナ宇宙港管制から通信先変更の指示が来たので、アリシアが応答し、通信周波数をレスティアーナ宇宙港管制からレスティアーナ軌道管制局へ変更するとそのままレスティアーナ軌道管制へ呼びかけた。
「レスティアーナ軌道管制、こちらウォルター二二一三便。現在レスティアーナ宇宙港を出港。ポイントR0453へ航行中」
『ウォルター二二一三便、こちらレスティアーナ軌道管制。レーダーで貴船を確認しました。R0453ポイントは現在三隻のシャトルが航行中です。速度〇.五五で向かってください』
と舌足らずな声の女性管制官。無線で舌足らずな声だと聞き取りにくくなるため、アリシアが顔をしかめながらアリシアは応答する。
「レスティアーナ軌道管制、こちらウォルター二二一三便。R0453ポイント現在三隻が航行中、了解。速度〇.五五で向かいます」
ちなみにこの女性管制官、名をエリザベス・マーティンといい、舌足らずな声はではあるのだが実はセシリアとは王立メルフィア女学院の同級生だったりする。またかなりのドジっ子な猫族の獣人で軌道管制の中でも結構なトラブルメーカーだったりするのだが、しかもその愛らしいルックスから人気も高い。かなり得する人との声も高かったりもする。
「セシリアさん、速度〇.五五でお願いします」
「了解です、アシリアちゃん」
通信の通り、操縦桿を握るセシリアが速度〇.五五でポイントR0453へのナビゲーションラインに向けてシャトルを右旋回させる。
さて宇宙航行シャトルだが、管制との通信によって定められた航路で運行されている。そしてこの航行はレーダーによって確認されており、このレーダーを発信しているのがトランスポンダーという装置である。このトランスポンダー、惑星内上空を航行する航空機にも、連絡シャトルにも搭載されており、航行する場合はこのトランスポンダーにて管制により指示された信号を出すように義務付けられている。むしろこのトランスポンダーを切って航行する船は違法船であり、拿捕された場合、その航行責任者及びクルーは星間航行法に基づく罰則により処罰されることになる。では航行中にトランスポンダーが故障した場合はどうなるのかというと、そもそもこのトランスポンダー装置はシャトルや航空機にプライマリ装置とセカンダリ装置の二つが搭載されており、操縦室で設定されたトランスポンダーのコードはプライマリとセカンダリの両方にセットされる。信号の発信はプライマリ優先で行われるのだが、プライマリ装置に何らかの故障が生じて信号発信が行えなくなった場合は自動的にセカンダリ装置に切り替わり、プライマリ装置が故障した旨を戦隊管理コンピュータが操縦室に警告を発するようになっている。ちなみにこのトランスポンダ装置は船内や機内から交換可能であり、故障した場合に備えて予備装置が搭載されている。そしてプライマリ装置が故障してセカンダリ装置が起動、信号発信するようになるとセカンダリ装置がプライマリ装置になり、故障した旧プライマリ装置を予備装置に交換すると交換された装置はセカンダリ装置として新プライマリ装置からのデータをリビルドしてミラーリングを行ないその出番に向けて待機するという仕組みになっている。
宇宙港を出港し管制との通信をしていると、船内コンピュータ用モニタに「ブースター切り離し警告」が表示され、同時にコンピューターの合成音声がブースターの切り離し実行を告げ、シャトルからブースターが切り離された。
ちなみにこのブースター、船体より切り離されると宇宙港に戻るようプログラムされていたりする。つまりブースターもリサイクルしているのだ。このブースターは汎用品であり、基本的にはどの宇宙航行シャトルにも搭載可能になっている。
出港から八分三四秒。ラゼリオ共和国宇宙港行きウォルター二二一三便は最初の航行ポイントR0453を通過。そしてすぐに管制から通信が入る。
『ウォルター二二一三便、こちらレスティアーナ軌道管制。貴船のR0453ポイントの通過を確認しました。以後はフライトプランに従い航行してください』
管制官は再びエリザベス・マーティン嬢。応対するアリシアの表情はかなり苛ついていてその手がプルプルと震えている。
「レスティアーナ軌道管制、こちらウォルター二二一三便。フライトプランでの航行に移行します」
なんとかキレずに通信を終えたアリシアは、ヘッドセットを外すと――
「ウガー! なんなのよあの舌足らずな管制官! よく聞き取れないじゃないのよ!」
キレた。そんなアリシアをアランが「ドードー」となだめるが、
「ゔー」
「まああの子はあの子なりに一生懸命だから許してあげて?」
まだくすぶっているアリシアにセシリアが更になだめに入った。
「あの子、エリザベス・マーティンっていって私のメルフィ女学院の時の同級生なの。悪い子じゃないからお願い」
「うー……セシリアさんにそんなふうに言われたらなんか怒ってる私がバカみたいです」
セシリアのなだめが効きすぎたのかアリシアがシュンと小さくなった。
そんなアリシアに苦笑いしながらセシリアは操縦桿を微調整してND上のフライトプランのラインに機体を乗せる。
「さて、この後はフライトプラン通りに最初のゲートまでいくから、そろそろオートパイロットにきりかえましょう」
「あ、そっか。まだオートパイロットじゃなかったんだっけ」
「俺も忘れてた」
「アリシアちゃん、アランくん……仕事は真面目にしましょうね」
とセシリアがアリシアとアランをニッコリ笑いながらちょっとキツめに言う。
「セ、セシリアさん、目が笑ってないです!」
「ごめんなさい。これからは真面目にやります!」
怯えるアランとアリシアにクスクス笑いながら、アランに最初の亜光速航行ゲート入口の座標の固定を、アリシアにオートパイロット開始前のチェックリスト実施を指示した。
指示された二人は早速作業に取り掛かる。
アランは最初に使用するHG12亜光速航行ゲートの入口への座標をコンピュータに入力していく。
アリシアは投げ出していたヘッドセットを耳にかけた後、サブディスプレイにチェックリスト表を出してチェックリストを読み上げセシリアと共にダブルチェックを実施していく。
入力を終え、コンピュータとのチェックも終えたアランが「座標固定完了」とセシリア、アリシアに報告。セシリアもチェックリスト実施完了の旨をセシリア、アランに報告した。
「準備完了ね。それじゃオートパイロット、オン」
「オートパイロット、オン」
アリシアが復唱してオートパイロットスイッチをオンにする。オートパイロットスイッチがオンになったことを確認したセシリアは操縦桿からほんの少しだけの距離で手を離す。フリーとなった操縦桿は少しだけ左右に動いてオートパイロットがセットされた事を表す。その動きを確認したセシリアは操縦桿とスロットルから完全に手を離した。
「オートパイロットは順調みたいね。では次に太陽電池パネルのと遠距離通信アンテナの展開を行ないます」
セシリアの指示にアリシアとアランは同時に「了解」と返事をする。
「まずは、太陽電池パネルを展開」
「了解」
返答したアランは、予備モニターに左右の主翼に設置されているカメラ映像を映し出す。映像が出たことを三人で確認する。
「では、まず右舷の太陽電池パネル展開実施」
セシリアの指示を復唱したアランが右舷体調電池パネルのスイッチを展開側へ倒すと、右舷カメラの映像に太陽電池パネルが展開される映像が表示される。パネルはゆっくり展開いて全開となる。
「右舷太陽光電池パネル展開完了」
展開が完了したことをアランが報告する。その報告を受けて、セシリアが左舷の太陽電池パネル展開の指示を出す。指示を復唱したアランが左舷太陽電池パネルのスイッチを展開側に倒す。左舷側の映像にゆっくり太陽電池パネルが展開される映像が表示される。左舷のパネルは右舷よりもほんの少しだけ早く展開が完了したようだ。展開が完了していることを確認したアランが左舷の展開完了を報告した。アランの報告にセシリアとアリシアも両舷のモニタ映像で両舷の太陽電池パネルの展開が無事完了していることを確認した。
「では次に遠距離通信アンテナを展開」
アリシアが復唱して遠距離通信アンテナの展開スイッチを押す。赤く点灯していた遠距離通信アンテナのランプが点滅を開始してしばらくするとランプが緑色に変わり点滅が点灯に変わった。遠距離通信アンテナの展開完了の合図である。
「遠距離通信アンテナ展開完了」
アリシアの報告を受けてセシリアとアランが円郷里通信アンテナの表示ランプが緑色点灯であることを確認し、セシリアは太陽電池パネルと遠距離通信アンテナの展開完了をレスティアーナ軌道管制へ報告した。
『ウォルター二二一三便、こちらレスティアーナ軌道管制。了解しました。良い旅を』
再び聞こえてくるエリザベスの舌足らずな声。エリザベスがセシリアの元クラスメイトであることを聞いていたアリシアは、なぜかエリザベスの舌足らずな声に親近感を感じていた。
今オートパイロットで向かっているゲートは、第三惑星レスティから第四惑星バンジェロ軌道上まで亜光速でジャンプできるゲートである。しかし、惑星は太陽の周りを公転しているので、ただ第四惑星軌道上までジャンプしたとしてもそこにバンジェロがあるわけでない。またこのHG12ゲートはレスティに少し遅れてレスティと同じ軌道を通っており、レスティやレスティの周囲を回っている第一衛星ホロと第二衛星ラウガの重力干渉地帯から離れている場所をレスティと同じ軌道速度で太陽を公転しているのでレスティやホロ、ラウガの重力干渉を受けることはない。
今回はHG12ゲートを使用してバンジェロ軌道上まで行き、今度は現在のバンジェロ公転位置近くまでジャンプできるRD07亜光速航行ゲートを使用しバンジェロ付近までジャンプした後バンジェロの重力を利用した減速スイングバイも使用して減速した後、第三衛星ラゼリオの周回軌道に乗ってラゼリオ宇宙港にランデブーして着港するというのが、今回のウォルター二二一三便のフライトプランである。
「さて、オートパイロットも落ち着いているしコースにも乗ったから、アランくん休憩に入ってくれる?」
「了解。じゃあ何かあったら起こしてください」
「ごゆっくり~」
アランは手を振りながら操縦室から出て操縦室下にある仮眠室に向かう。
仮眠室はパイロット用、パーサー用、客室乗務員用とは別になっているが、どの仮眠室にも備え付けのロッカーに冷蔵庫、ベッドが置かれてある。このベッドは体の大きな獣人にももちろん適応している。そのためヒト族にはかなり広いベッドであるといえる。パイロット用と客室乗務員用途の違いというとベッドの数と仮眠室の広さだけである。客室乗務員用仮眠室には二段ベッドが3つおいてあり、最大六人までが一緒に仮眠できるようになっており、ロッカーも最大三五人分が備えられているので六人が一緒に出入りするとかなり狭くなる。対してパイロット用、パーサー用はベッドは一つであり、パーサー用はパイロット用より少しだけ狭いもののあまり大差はない。
操縦室からキャビンに目を移そう――
すでにシートベルトサインが消えているキャビンでは客室乗務員がドリンクサービスや機内グッズ販売で通路を回っている。このシャトルのキャビンは二階の前側にファーストクラス、二階後方にビジネスクラス、一階のエコノミークラスと三つのクラスに分かれていて、ファーストクラスはシングル二四席とツイン一八席、ビジネスクラスは八四席、エコノミークラスは前方右側のA区画六四席、後方右側のB区画六〇席、前方左側のC区画六二席、後方左側のD区画六四席の計三七三席であり、今回のフライトは満席であるので、客も三七三人なのである。
因みにそれぞれのクラスだが、ファーストクラスはすべて個室になっており、シートも広く完全リクライニングのフカフカベッドにもなり食事面、待遇面ともに最高クラスでお値段も最高値。ビジネスクラスは完全個室とまでは行かないがビジネスだけあってちょっとしたオフィスルームになっているので、外部パソコンをつないで作業をすることも可能。また印刷サービスも行なっており、印刷をすると客室乗務員がクリアファイルにまとめて持ってきてくれたりもする。お値段はファーストクラスまではいかないがお高い。最後にエコノミークラス。シートはとりあえず獣人でも座れる仕様になっておりリクライニングもできるものの完全とはいかない。ファーストクラス、ビジネスクラス同様に目の前のモニターで映画鑑賞やゲーム、インターネットができるものの、やはり周りに気を使うのは今も昔も変わらない。ただヒト種と獣人では体躯が違うため、ヒト種がシートに座るとまるで大人シートに子供が座っているような感じにもなる。そのため、これをどうにかしてほしいという要望は獣人側からもヒト種側からもあるので、現在ウォルター宇宙航空ではこれに対する対応をどうするのかを検討中である。
エコノミークラスB区画前方の三列シートにキャッキャとはしゃぐ三人組の女の子達がいた。三人ともエコノミークラスには似つかわしくない雰囲気で、その場所だけ何か別空間のような雰囲気さえ醸し出していたりして周囲からはかなり浮いた存在となっていた。そして彼女たちに狙いを定めた肉食獣のような目があることに未だ周囲は誰も気付いていなかった。そうSAAPから派遣されているルーシーでさえも――
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