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3話 変な先輩はやっぱり変

 昨日の雨が嘘のよう。澄んだ青空が広がり、軽そうな白い雲が優雅に泳いでいる。

 朝まで雨が降り続いて、大雨警報が出て学校が休みになることを予想していたのに、見事に外れた。

 詩乃先輩と顔を合わせるのが怖い。詩乃先輩は何も悪くないのに、私の興味本位な質問で、辛くさせてしまった。

 部活休もうかな……。


 ――物語は、おいしいのよ。


 ――言葉は人を殺めるのよ。


 本を食べて、おいしいとか、ここ酸っぱいとか味わって、その作品のうんちくを垂れているおかしな先輩。いつも笑って、太陽のような人で。

 それが昨日は、違った。

 

 詩乃先輩は一体なにを知っているのだろう。友達も行方不明なのだろうか。その友達を思い出して苦しそうな顔をしていたのだろうか。

 詩乃先輩、今日部活に来るかな。私のこと嫌いになってないかな。

 どっちにしろ、詩乃先輩を苦しめてしまったのだから、謝ろう。部活も、行こう。

 小さく頷いて、席を立った。二年一組に向かう。登校してくる生徒に紛れて、階段を登った。いつまでたっても上級生というものは怖く感じる。

 

 二年生の視線を浴びながら、一組のドアの前に着いた。二年生に紛れようにも、セーラー服のネクタイの色が違うからバレてしまう。

 ドアからそっと顔を覗かせて、教室の中を見回した。生徒が数人いるだけで、詩乃先輩は見当たらない。まだ登校していないのだろうか。それともトイレかな。

 放課後まで待つべきだったと後悔した。


「結依ちゃん?」


 その時、詩乃先輩の声が聞こえて振り向いた。詩乃先輩と、噂の久遠先輩だ。久遠先輩、私と背の高さ変わらないんだな……。ちっちゃい。


「あー、この子が詩乃の大好きな後輩ちゃんね。おはよう」


 可愛らしいアニメ声。


「おはようございます」

「二年生の教室まできてどうしたの?」


 きょとんとする詩乃先輩。昨日のことはもう気にしていないのだろうか。私だけがいろんな想像を巡らせていただけなのだろうか。

 詩乃先輩は寝たら昨日のことは忘れるタイプなのか?

 私の考えすぎだったかも知れないと思ったら、頬がボッと熱くなった。二人に背を向けて、「教室を間違えただけです」と苦しい言い訳をする。


「そうなのね、半年も経ったのに間違えるだなんて可愛い」


 心底そう思っているの? 言い訳だと気づかず、本気でそう思っているの?

 詩乃先輩は、やわらかな笑い声を漏らした。

 背を向けたまま、


「失礼します」


 結局、謝らずに自分の教室に戻った。



「もーどこにいたんだよ! トイレ覗いてもいないし、探したんだぞ」


 椅子に腰を下ろすとナズナが私の肩を叩いた。叩かれたところがジンと鈍く痛む。


「見てこれ!」


 ピンク色のスマホを私に突き出す。画面には、ツーショットの画像が映っている。爽やかな笑みを浮かべるナズナと隣にいるのは……。

 久遠先輩だ。

 微かに頬を赤らめ、可愛らしい笑顔をしている。


「いいと思うだろう?」


 目を細めニヤニヤした顔で私に同意を求める。


「そうね、いいと思う」


 ナズナは、ふふんと嬉しそうに鼻を鳴らして、一緒に写真を撮った経緯を話し始めた。

 生き生きと話すものだから、相づちも打たず、じっとナズナの声に耳を傾けた。風がポニーテールを揺らして、ナズナの笑顔が輝いて見える。


「あたし、いろんな先輩にお世話になってるけど、ヒナ先輩に可愛がられるのが一番好きなんだ」

「どうして?」

「年下にお世話されてる気分になって面白いから」

 

 予想外すぎる答えでぽかんをした。

 ナズナは白い歯を見せてにっこり笑うと、「じゃあな」と私の肩を軽く叩き、自分の席へ帰っていった。

 私の部活の先輩は一人しかいないけど、詩乃先輩以外にもしほかの先輩がいたら、今頃部活はどうなっていたのだろう。もっと賑やかで、たったひとりの後輩である私をちやほやしてくれてたのかな。


 入部してから、部活という部活をしたことがないと思う。詩乃先輩はいっつも本を食べてるし、私はずっと詩乃先輩に渡された本を読む日々だし。私の想像する文芸部は、小説を書いて、本を読んで、小説を部員で読み合ってっていうことをするものかと思っていた。

 一度提案してみようかな。

 その前にまず、謝らないと……。

行間あけてみました。

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