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閑話 幸輝side

久々な投稿なのに閑話です。

レンくん視点は近日中に上げる予定でいます、暫しお待ちを。

 代わり映えしない授業風景、親友との普段通りなバカ騒ぎ。一般人の生活に命に関わるような脅威などはそうそうある筈もなく、一村いちむら幸輝こうきは平和そのものといっていい毎日を送っていた。


 日常で起きる物事はすべて特出すべき掛け替えのないものであると同時に、起伏に乏しい味気ない一コマでもある。


 それでも幸輝はいまの生活に満足し、充分に楽しんで過ごしていたのだ。

 

 しかし無情にも、そんな平穏な日常は青白い輝きによって唐突な終幕を迎えることとなる。




 視界を覆っていた極光が徐々に納まっていき──飛び込んできた光景に幸輝は息を吞んだ。


 最初に目にしたのは、近所で見かけることのない西洋風の豪華絢爛な広い一室。生憎なことに、バロックやらロココやら……様式の名前くらい耳にしたことはあっても、その知識が素人同然どころか皆無なためにこれといって評することなはい。無駄に豪華だな、くらいの感想を抱くのが精々といったところか。


 幸輝には辺りを分析する余裕が少なからず存在したが、一クラス三十人余りの皆が皆同じ……という訳である筈もなかった。


──ここは、先ほどまでいた教室ではない


 そのような想像を絶する事態に、やっぱりというかパニックに陥ったクラスメイト達。泣き叫ぶほかに呆然と立ち尽くしたり、口にすれば当人の沽券に関わるほどの醜態を晒していたりと、そのバラエティは実に富んでいる。

 混乱していない者達は、辺りを観察し理解しようと試みている者が数名と……意識を手放し未だ魔法陣が輝き続ける床へと倒れ伏している者が若干名。


 急すぎる展開に戸惑うクラスメイトを見渡し、ある一点で目を留める。比較的平静でいる者達のなかでも目立つその集団の中心にいたのは、幸輝の知っている顔だった。

 佐島さとうつかさ。中肉中背・高身長の好青年であり、幸輝とは幼き頃からの付き合いのある友人だ。女子生徒内でに密かに行われたアンケート調査では見事「彼氏にしたい男子一位」に輝いた男子にとっての憧憬と嫉妬の的である。最近では典型的なハーレム主人公染みてきている真のリア充である。

 最初は軽い動揺を見せたものの、周囲を気遣うように声を掛ける姿はさすがというほかない。やはり『こういったこと』に耐性があるのか、親しい友人達と会話を交わしつつも状況の把握に努めているようだった。


 もう一人の古い友人枠の零君は~~~と探し始め……そして捜し人は直ぐに見つかった。その身体を大地に預け、安らかに眠っている。死んではいない……時折口から言葉が、寝言が漏れている故に。

 こんな非常時に寝ていられる神経はまったく理解できないが、記憶にある昔と一切変わらない〝らしい〟と感じる部分に些か安堵を覚えた。


 最後に、あえて意識の外に追いやっていた外野へと視線を向ける。

 杖を携えローブを纏う、それこそ「魔法使い」のような格好をした数人の男女。彼ら彼女らは、俺達を囲むようにして立っていた。いや、この場合、俺達の足下にある魔法陣を中心にして、といったほうが正しいか。

 その誰もが額に脂汗を滲ませ息は荒く、顔色も青褪めるを通り越し白に近い。杖を支えに立っているのがやっとといった有様だ。

 儀式でも行うかのようなローブの集団。

 この時点で胡散臭さは全開、日常で見かけたならあまりの異質さにSNS行きは確実。だが、だからこそ透き通るような水色髪の女性はひときわ異彩を放っていた。白を基調とした豪奢なドレスという装いは、周囲とは趣が明らかに異なっており、そのせいか纏う雰囲気の違いをより強く感じる。テンプレに照らすならば、王女クラスの子である可能性が濃厚か。



 降って湧いた理不尽にも思える超常に見舞われた、現状を認識しこの先への不安に苛まれる者達。絶望のなか希望に縋り見事掴み取った、疲れを見せつつも満ち足りた表情を見せる者達。


 いま目前に広がる惨状は、教室で行った零君との抵抗がただただ無意味なものであったと非情にも告げていた。


「……失敗、しちゃったかー」


 人生で培った知識が役に立つのなら。

 他の策がことごとく散っていったのは仕方がない。

 しかし、最後の零君の一手だけは、確実に最善の手立てだった。完璧な対処だった……、そのはずなのに。



 周囲に佇むどの顔立ちも明らかに日本人ではなく、それぞれの色鮮やかな髪色は偽物の与える違和感をまったく抱かせることはなく、教室から見知らぬ部屋へ一瞬の間で移動させ、止めに魔法陣。

 多少であれサブカルチャーに触れた者がこの立場になったなら、全員が全員、口を揃えて「異世界召喚」と音を発するだろう。


 そう、『異世界』。地球とは異なる常識から成る世界だ。


「根本から、違うのか…?」


 十数年程度の人生で、すべての知識を網羅している……なんて自惚れはないつもりだ。

 しかし、だ。この世界の『超常を起こす術』が、自身の知るものとはまったく違っているのではないか──そう思えてならない。


 もし的を射ていた場合これ以上ないほど最悪な考察が浮かぶ。が、ふと光に埋もれる直前の光景が脳裏に浮かんだ。


──刻々と光量を増していく魔法陣。


──勢い良く振りかざされる銀色の煌めき。


──紋様に突き刺さる寸前、刃の先に位置する空間が陽炎の如く歪み………………


 そこで、ようやく確信に至った。


「あぁ……邪魔、されたのか」


 ひどく単純であり、なにより得心がいく方法。それを口にすると同時、湧き出た満足感から緊張が緩む。

 思い出したかのように主張してくる疲労感からか、『日常』からの凄まじい乖離を見せる現実にか。幸輝は深く、それはもう深く嘆息した。



     *



  一村幸輝いちむらこうき。少々特殊な家庭に生まれ紆余曲折を経て現在に至る。多少の事情は抱えているものの、私立とはいえ至って一般の高校に通っている──、彼の十数年分の人生を文字に起こそうと試みれば、きっとこのようになるだろう。

 彼にとって大変不本意なことに、自身が「ラノベ主人公」と評した男子生徒並みか、それ以上に難儀な人生を歩んでいた。その呪いにも似た宿命は、たとえ異世界という常軌を逸した環境に変わろうと彼を逃すことはない。


 異世界召喚など、〝事情〟を抱える幸輝にとっては目の光を失うくらいの面倒な出来事のひとつでしかなかった。

レンくんより主人公っぽい幸輝くんです。


……この作品、布石やら裏話やらがありすぎて中々にカオスですよねー。

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