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事のあらまし

今回は、二話連続投稿になります。

「最新」で飛んできた方はご注意を。

「≪選定者≫として様々な未来を体験してもらっている訳じゃが」

「ああ、そうだな。何故か、いつの間にかそうなってたな」



選定者せんていしゃ


 数多に分岐する未来を体験し定める、世界に選ばれし存在──≪選定者≫。分岐点より後の世を選定、あるいは枝分かれした未来を剪定せんていする者の呼び名だ。


 ≪選定者≫が世に現れる──もしくは、世界の意思によって担わされた──少し後には、後世の歴史に名を残すような重大な出来事が起こることが多い。

 ≪選定者≫にとって、この『出来事』が分岐点となる。


 仮に、その『出来事』が戦争だったとして、戦争を回避するのか嬉々として開戦すのかで、取り敢えず二つのルートができる。この二つは本当に大雑把な区別で、採る方法次第で未来の可能性は際限なく広がっていくのだ。

 他にどんな問題が提示されたとしても、選択肢は変わらず〝無限〟である。


 「過去にある」ということは、当時の≪選定者≫がそう決めたからか、≪選定者≫が任命されるほどではない些末事と判断されその成り行きが定着した結果であるのか……そのどちらかということになる。



 そして今代の≪選定者≫が<地球>出身の柏木蓮こと、<イデア>に召喚された(今回の時系列的には「される」が正しい)≪勇者≫の一人、レン・カシワギという訳である。


「実はその原因……もとい、切っ掛けの≪世界の意思≫こと〝神〟、エスレビヌ様がお主に用があるらしくての」


 ネイシスは憂鬱そうな表情で語った後、深い、それはそれは深い溜息を吐いた。その仕草からは、中間管理職の人間のような苦労が見え隠れしている。

 実際、似たようなものなのだろう。上には絶対的な〝神〟、下には数多の神々。会社の意向と、預かる部下達。


「来ちゃった♪」


 そんなお気楽な声と共に発生するレンとネイシスの二人以外の気配。


 その気配の主は飄々とした態度で、ニコニコと笑顔浮かべている少年……に見える『ナニカ』だった。

 発する気配が希薄で、いま浮かべている笑顔でさえ薄っぺらい作り物めいた印象を受ける。


 なにより。気まぐれに姿勢は変化しているが、重心には一切ブレがない。隙があるように見えて、実はないという達人の領域に『ソレ』はいた。


……『似たようなもの』以上に厄介な上司のようだ。南無。


「やぁ。初めまして、レン・カシワギくん。僕の名はエスレビヌ。君を≪選定者≫に任命し、理不尽極まりない試練を課し、さらには世界<イデア>担当の≪管理者≫──つまりは〝神様〟をやっている存在だ」


 服装はいたって普通。街中で見かけるような、ごく一般的なもの。冒険者や騎士といった戦闘に身を置く者のように軽装・重装備である、という訳でもない。

 そもそも、防具どころか、武器の類すら見られないのだ。


 そこら辺にいるゴロツキのほうがまだ迫力があり、目の前の少年が一世界を統べる存在と言われても、レンは首を傾げるを得ない──のだが、レンの意識はそんな些細な違和感を認識するより、挨拶のついでようにされた自己紹介なんかよりも、「自身が理不尽を課した存在である」という告白に占有されていた。


「いまのレンくんなら、薄々察してると思う。いまのところ君が経験している『神剣』と『赤鱗』の未来。そこで降りかかる理不尽を、≪使徒≫を使ってより複雑化させているのは……他でもない、僕だ」


 まるで何でもない事実を告げるかのように事も無げに、それでいて誇るかのように自慢気にエスレビヌは言った。


「……ほぅ?」


 告白されたレンはというと、短い声を上げただけだった。

 言葉だけでみれば、なにを言っているのかと表現する疑問の声だ。しかし、聞いてしまえばそんなものは微笑ましいとさえ思えてくる、様々な激情といっていい感情が入り乱れた有無を言わせない言の葉。


──チリンチリン──


 そんなレンの声と共に、鈴のような涼やかな音色が木霊する。


「〝神〟に刃向かう……いいね。それでこそだ」


 鈴の音の残響とそれを塗りつぶすかのような硬質な音、エスレビヌの歓喜に満ちた余裕そうな呟きが、三人しかいない静かな空間に響き渡った。


 もしも、「殺気」というものを視覚で捉えることが出来る者がこの場にいたのなら、視界に映る広大な範囲すべてが殺気に満たされているように見えただろう。……そんな危険地帯に飛び込みたいという物好きは現れないだろうが。


 幸か不幸か。この場にいる全員が殺気を知覚できるほどの実力者であり、同時にその膨大な殺気がレンから吹き荒れていること認識していた。

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