表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

日常の転換

お待たせしました、リメイク第二話でございます。

 夏休みが明けてから数日が経過し、九月中旬に入った。


 この地域にある高校の夏季休暇は、七月下旬から八月の末日となっていた。

 成績不振や出席日数の不足などが理由で補習がない限り、登校するのは出校日のたった一日のみ。無論、人によっては所属する部活動などの都合で登校することもあるだろうが、各自が長き休日を思い思いに過ごしたことだろう。


 しかし、この時期ともなれば、どの生徒も夏休み気分が抜けて心なしか落ち着きを取り戻している。長期休暇明けの実力考査が実施されたことも、新学期の始まりを実感させる一因となっているのだろう。


 もう秋分ということもあってか、夏の猛暑と比べれば幾分か過ごし易い気温にまで下がっている。雲の影から覗く太陽は心地よい日差しを放ち大地を照らす。


 教室内はエアコンという人類の英知によって、暑くなく高湿度からくる不快感もない、生活するのに快適な環境となっていた。加えて、温かい陽の光が窓から差し込むことにより、うとうとと舟を漕ぎはじめる生徒が何名か現れる。


 この少年も、その一人。柏木かしわぎれんは、頭を揺らして夢の国へ旅立とうとしていた。


「寝るなよ、れい君」


 それに対して何の因果か、それを起こそうとする生真面目な者も、まるで予定調和のように現れる。眠りにつこうとしていた蓮には残念なことに、今回の標的は彼だった。


 そんな無駄に真面目なクラスメートの正体は、蓮の良く見知った相手──幼馴染であり、親友の仲でもある一村いちむら幸輝こうきだった。


 幸輝は事情を知らない人間が聞けば誰を指しているのか判らない名前で蓮を呼び、意識を覚醒させようと体を揺さぶる。


 蓮は経験則からか、最初から抵抗を無意味だと放棄し素直に目を覚ました。


「おはようコウちゃん。……で?」


 しかし、素直には起きたが納得している訳ではない。不機嫌であることを隠さずその鋭い目で睨み付け、「要件はなんだ」と手短に尋ねる。


「眠そうだったから、起こそうと思ってさ」


 無理やり起こされた人間特有の不機嫌な様子も、いつものことだと飄々と流す幸輝。そこは付き合いからくる対応か、それとも絵に描いた好青年のような性格から来るものなのか悩むところだ。


 しかし、優良物件であることに違いない。

 顔は良いし野球部のレギュラー組でスポーツ万能、さらには成績優秀の秀才。背も一七〇センチ後半とそれなりに高く、部活動で常日頃から鍛えられた体格はがっしりとしている。性格もこんな感じで気配りができる。……といった具合にスーパーマンなのだ。

 なので幸輝は随分とモテる。告白しようと行動に出る者は今のところいないが、幸輝を相手にしたときの態度や仕草の端々から好意が漏れ出ている女子連中が一定数存在している。


 そんなリア充のため、蓮は偶にだが「爆ぜればいいのに」なんて思っていたりする。もちろん本気ではない。


「また夜遅くまでゲームやってた?」

「残念だったな、不正解だ。昨日はネトゲだったが今回はネット小説。ちなみに寝たのは朝の四時くらい? だった」

「そうなの? 眠いのも当然だよ」

「……授業中じゃないんだから寝させろよ」


 そんな文句を唱えても、幸輝は未だに笑顔なまま。質の悪いことに、うんうん、と心の底から共感するように頷く始末である。


 さらに残念なことに、幸輝の趣味は蓮のそれとあまり変わらない──アニメ、漫画、小説、ゲーム──なのでそれなりに理解はあるのだ。


 しかしながら。平々凡々な蓮とスポーツ系美少年の幸輝では、与える印象が全く異なるのが実情だ。……現実は非情である。



 ▲▽▲▽ ▲▽▲▽ ▲▽▲▽



 そうして談議に花を咲かせていた頃、異変は前触れもなく唐突に訪れた。


「……コレは?」

「魔法陣だね」


 そうとしか言えない、幾何学的な模様が足元で鈍く発光している。その模様は淡い青色を放ち、その様相はまさに『魔法陣』だった。


 急な事態に戸惑い泣き叫ぶ者、意味もなく無秩序に騒ぎ出す者が出るクラスは、まさに阿鼻叫喚といった有様。開いていた廊下へと通じる扉はどちらもホラー映画のように閉ざされ、それによってより騒めきが巻き起こっている。


 蓮と幸輝の二人は冷静に流したが、この状況は至って真面目に異常事態だ。


「だよな──」

「うん──」


 蓮と幸輝は互いに目を見合わせる。それから、二人の行動は速かった。


 時点の二人の立つ位置は、蓮の方が窓に近く幸輝の方が離れている。二人はそれを瞬時に理解し役割を分担、幸輝は近くにあった椅子を蓮へとパス、蓮はそれを受け取って。


「せいっ!」


──窓ガラスに叩き込むように思いっ切り投げつけた。


 普段ならば、呆気ないほど容易に砕け散る透明な障壁は、


「……やっぱりか」

「だよねー……」


──割れるどころか、なにか硬いものにぶつかったときのように甲高い音を響かせ飛来した椅子を撥ね返した。


 『転移魔法陣発生時の周囲の物体の不可能破壊オブジェクト化』は、この手の物語では最早テンプレと言えるもの。二人にとっても、それは想定の内だったために即座に次の行動へと移行する。


 幸輝はその身を翻し、固く閉ざされている扉に向けて助走をつけた飛び蹴りを放つ。


「……うん、ダメだよね」


 その結果は言わずもがなだ。


 岩のように強固な扉は、幸輝の体を弾き飛ばして傷一つない。いつもなら蹴破れる威力であったにもかかわらず、だ。


 強い反発を受けた幸輝は宙を舞うが、難なく受け身を取り着地した。さすがはスポーツ少年というべきか、身のこなしが並みを軽く超えている。


 いっぽう蓮は、幸輝の様子を視界の端に収めながらその手に握られた刃──偶然近くにあった筆箱から頂戴した鋏を、現在も輝きを増し続ける『魔法陣』へと振り下ろした。


 電力とはまた違うだろうが、なんらかのエネルギーが通う光の道筋に異常・・が生じたならば、『魔法陣』はその効力を失い、目的を遂行できず不発に終わるだろう──そう思っての行動だった。

……アニメや小説といった創作物をソースにした知識であることは否定できない事実ではあるが。


 そんな空虚な自信とは裏腹に、刃物の切っ先は『謎の力』とでも言うべきナニカに阻まれ光り輝く地面に刺ささることはなかった。






 青白い極光が、その場にいた全員の視界を埋め尽くした。

誤字や脱字、おかしな表現等あればご報告お願いします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ