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光をつかむ

始めましての方は、初めまして。

それ以外の方は、お久しぶりです。


どちらかと言うと、リメイクを楽しみにしてくれた方が多いのかな? と思っていますが。


それでは、『ある日』をお楽しみ下さい。

 衝撃すら伴っていそうな観客達の大歓声が、闘技場内に轟く。


 それは、今闘技場の舞台であるフィールドや観客席がある空間からある程度距離があるはずの控室にまで届くほど。もしかすると、療養のために比較的防音対策が施されている治療室にまで響いているのかも知れなかった。


 控室の一室であるここも、その例に漏れず、未だ観客達の絶叫が絶えず聞こえてきている。それだけで、本日行われている戦闘の注目度と熱狂具合が伺えるというものだ。



 『スキル』や『魔法』といった超常的な力が実在してモンスターなんて怪物共が闊歩する、<地球>とは異なるファンタジーな世界<イデア>。


 <地球>で見られるような人間種のことを『人族』と呼称し、それ以外にも『魔族』、『神族』、『竜族』と、総じて四つの種族がこの世界では暮らしている。「異世界の定番」とも言え、ここでは魔族に分類されるケモノミミの生えた『獣人』達も生活している、ある種の理想郷。


「今日で、全部終わる」


 そんな創作物のような世界でも物珍しい黒髪黒眼を持った少年──レンは、誰に向けるでもなく呟く。


 超えることが到底無理な壁を相手に何度も敗北を喫し、その度に大切なものを奪われた自分が、総てを懸けて──文字通り「命」すら賭してでも足掻かなければならない、決戦の日。


 求める幸福を、その手で掴み取るのか。それとも絶望暮れ、嘆き苦しむのか──未来を左右する、選定の日。


 『運命の日』


 まさに、そんな表現が相応しい。


「やれることはやった。あとは──障害を排除して、勝つだけだ」


 まるで、自分に言い聞かせるようにレンは淡々と語る。もし、彼に近しいものがこれを聞けば、積年の想いが言葉の端々から滲み出ていることを感じ取れただろう。そして──僅かばかりの「迷い」があることも。


「──大丈夫よ。カレン(・・・)に、出来ない事なんてないもの」


 幸いなことに、この世界でのレンは孤独ではなかった。


 その気弱な呟きを拾ったのか、魔族の少女は自信に満ちた言葉をかけた。それは確信のようであり、決定事項(ことわり)を告げているようにも聞こえる。


 紫がかった黒髪と、魔族特有の一対の角が特徴的なフィオナは、<魔界>にある大国【魔国・ディガンド】の王女にして、≪魔界の魔刃≫(公式には「魔刃」)という各界にも轟く異名を持ち恐れられる、世界的にも数少ないSSダブルエスランクの冒険者でもある。


 フィオナはレンに向け、人懐っこい……というより、甘えるような表情を浮かべている。つり目から来る彼女の強気な雰囲気も今では完全に霧散して、主人に甘えるペットのようにしか見えない。


「レンお兄さんなら問題ないよー!」


「ですね。レンくんなら、なにも問題ありません」


 フィオナに賛同するように元気溌剌(はつらつ)な声を発したのは、赤い髪と種族特有の獣耳が特徴的な竜族の少女──ティア。彼女は<竜界>の【竜国・アウロラ】の王女で、≪竜界の赤鱗≫(こちらは、公式でも「竜界の赤鱗」)の異名を持つSランク冒険者。幼い顔立ちで小柄な体型だが、その身体に秘めている力は、世界でもトップクラスだ。


 それに便乗したのは、銀に似た白髪はくはつが特徴的な神族の少女──レオナだ。レオナは<神界>の【神国・シャルクロン】の王女で、≪神界の神剣≫(公式には「神剣」)の異名を持つSランク冒険者だ。


 穏やかな表情を浮かべ、優しさと信頼に満ちた瞳でレンを見つめている。


 彼女たち三人を筆頭に、大勢の仲間が様々な場面でレンをサポートしている。


 今回も、レンは彼女たちにその背中を押されたのだった。


 レンは周囲を軽く見回す。多少の緊張で強張ってはいても、諦めや悲壮感漂う表情を浮かべている者は、誰一人としていない。


(目標の達成は近い。もう、すぐそこにある)


 <イデア>に勇者として召喚された時から、目標は『自分や己の周囲に降りかかる理不尽を撥ね除ける』こと。なに一つ誰一人失うことなく切り抜け、守り抜くことだ。


 目指す先は──文句なしの『ハッピーエンド』。


 レンは俯き気味だった顔を上げた。その顔に、先ほどまであった迷いなどは微塵も存在しない。普段通りの不敵な笑みが浮かんでいた。


 目を瞑り、息を軽く吐いて数秒間息を止める。これまで何十何百と行ってきた、集中し本気を出すための儀式(ルーティン)


 頭が空白と爽快感に満たされたところで、レンは目を開く。


「──じゃぁ、始めようか」


 相手は≪世界≫。


 しかし、レンは気負った様子もなく、まず間違いなくこの世界史上最大規模であろう戦場に足を踏み出した。




 そんな時でも、何時だろうとレンは不意に思う。


 俺……僕の日常は、いつ壊れてしまったのだろうか───と。

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