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サイハテの旅団  作者: こん
コリュート寒村編
9/80

少女と旅団(3)

 無言で頷きつつもその目は若干ながら輝いており、かなりアウリオンの探検に興味があるようだ。そこで、まずはこのアウリオンを操作している操舵室を案内することにした。

 はじめこそルーチェの歩幅に合わせようとしていたが、意外にもルーチェの歩く速度は早く、むしろシオンを急かすように軽く引っ張ってくる状態である。アウリオンの内部はとてもわかりやすい造りをしているため、ルーチェもなんとなくアウリオンの前面に向かって歩いているのだろう。

 2階の先頭にあたる部分にある操舵室にはすぐに到着した。


「ようコロル姉弟、しっかりやってるか?」


 操舵室ではレコンが操舵輪を操作し、メランは先ほど頼んだ調整を行うために、操舵輪の横の底板を外し、上半身を潜り込ませて作業を行っていた。シオンが来るとともにレコンは肩ごしに振り返り、メランは服が引っかかったようで、レコンの足元で体を捻っている。


「あれ、シオンだ。まだ作業は終わってないよ?」


「今はルーチェの案内中だよ。手始めにこの操舵室を見せてやろうと思ってさ」


 なるほどと納得したレコンは、やっとの思いで抜け出したメランの肩をつついた。


「メラン、僕は操舵中だから手が離せないからね。ここの説明と案内を頼むよ」


 頬に煤の汚れのような跡をつけて座り込んでいたメランは、ルーチェを見つけるなり道具をしまいつつルーチェに飛びついた。


「さっきぶりだね、操舵室の案内は私に任せろ!まずはこれが船内の花紺結晶と紅花結晶の稼働値の計器で、こっちが動力にかかってる圧力の数値。それでこっちが船外と船内の温度を測ってる機材でこれが……」


 一気にまくし立てるように怒涛の用語攻めを受けたルーチェは、心なしかフラフラしておりシオンに助けを求めるような視線を向けてきた。軽くため息を吐いてから、シオンは今も各機材の説明を続けているメランの頭頂部を軽く小突いた。

 説明を中断されたことに対する不満を隠そうともせず、口先を尖らせながらメランはゆっくり振り向いた。


「なにするのさシオン、説明しろって言ったのはシオンなのに」


「確かに説明しろとは言ったが、できればルーチェの理解できる説明をしてあげて欲しいかな」


 振り向いたメランの頬の汚れを拭いつつ、シオンはメランの暴走を止めることに成功した。

むず痒そうに頬を拭われていたメランも少し反省したのか、ルーチェを横に招いて一つずつ、ルーチェの様子を伺いながらの説明が再開された。


 ルーチェが予想以上に各部の機材に興味を示したことと、それが嬉しかったのかメランとレコンが操舵を交代しつつの説明が長引き、結局午前中のアウリオンの探索は操舵室のみで終わってしまった。

 午後はキャロの研究室でも見に行こうかと考えていると、階段を登っていくうちに3階からいい香りが漂っていることに気づいた。


「今日の昼はなんのスープだろうな」


「……スープってわかる?」


 小さく鼻をひくつかせるシオンに、料理を見ていないのに品名を当てることを不思議に思ったのか、ルーチェはシオンを見上げながら尋ねた。

 階段を上りきって3階に着くと、そこにはシオンの予想通りスープの入った大鍋をかき混ぜるディグと、その横で焼きあがったパンを窯から取り出しているメルの姿があった。


「今日は寒いだろ?それなら体を温めるにはスープが一番だ。パンの香りもしたから穀物を使った料理でもないだろうし。あ、穀物ってのは豆とか稲とかな」


 なるほど、と頷くルーチェは配膳を手伝うつもりなのかメルの足元に近づき、焼きあがったパンを眺めている。

 そっと手を伸ばそうとしたルーチェの手を慌ててメルが止め、代わりに自分が少し鉄板に指が触れてしまい、その指を涙目で口に含んだ。


「焼きたてのパンと鉄板は、すっごい熱いから絶対に触っちゃダメ。わかった?」


「……ごめんなさい、メルは熱かった?」


 大丈夫よ、とルーチェの頭を撫でているメルを横目に、シオンはディグの横まで近づき大鍋を覗き込んだ。


「おお、今日の昼はジャガイモと玉ねぎのスープにソーダブレッドか。随分と具材が多いな」


「少し芽が出ていた物を全て使ってしまったので、具材は少し多いかもしれませんね。発酵を行う菌もなかったため、スープに合うソーダブレッドになっています。そろそろ皆さんも集まってくるでしょうし、配膳の用意をお願いします」


 シオンは鍋から離れてスープのために深皿を、ルーチェはパンの為に平皿を人数分棚から取り出し、4人でテーブルに料理を運んでいるとアウリオンが停止した。

 それからまもなく香りにつられるように、旅団の面々が揃い始めシオンの号令で食事が始まった。


「初めて焼いたパンだったけどどうかな、私も本で読んだだけだから味まではよく知らないのよね」


「普通に美味しいなこれ。食感がケーキみたいにふわふわだけどな」


「そうですね、むしろスープにはこちらのパンのほうが合っているのかもしれません」


「すごいスープを吸うよこのパン、水気を全部取られたからおかわりしてくる!」


「あっという間に具材だけになっちゃった、スープ足りないからおかわりしてくる!」


 初めて焼いたパンということで不安だったようだが、お碗を手に走っていく双子を見ながら、メルはほっとしたように息をつく。

 ルーチェも昨晩とは違うパンが気になるのか、指で少し潰してみたりちぎってスープにつけてみたりと色々な食べ方を試していた。

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