少女と旅団(2)
レコンが使用した捕獲用の網を発射する装置や、ディグやアルマが周囲を探索したが何も成果がなかったこと。キャロが開発した新しい薬の話など、様々な話題で盛り上がった朝食も終わり、みんな片付けを済ませるなり行動を開始した。
嵐の間動くことのできなかったアウリオンが、目的地であるコリュート村に向けて動き始めるのである。
「よし、コロル姉弟。しばらく動かしていなかったから、試運転も兼ねて今日の午前の操舵は任せていいか」
シオンに頼まれた姉弟は、示し合わせたように同時に頷き合意した。
「任せてよシオン、お昼までに確認と微調整を済ませるから」
「少し動力部分もいじったから、そこの調整もしておくよ」
承諾するなり操舵室に向かって走っていく姉弟を見送ったシオンは、団長として全員の仕事と場所を把握するため、各団員に聞いて回ることにした。
朝食の時に聞いておけばよかったと思いつつ、集会室から出ようとするシオンは、小さく服の裾を引っ張られていることに気づいた。
振り返ってみると、そこにはルーチェがじっとこちらを見上げており、何かを訴えようとしているが、どう言葉にすればいいのかわからないという風に、シオンを見つめて服の裾を指の間でこすっている。
「そうだな、ルーチェも一緒にアウリオンの中を探検するか。まだ知らない場所がほとんどだろ?」
シオンの提案に大きく頷いたルーチェは、服の裾から手を離しその代わりにとシオンの人差し指を掴んだ。意外そうな顔をしたシオンに対し、ルーチェはさも当然のように人差し指を握って厨房へとシオンを連れて行く。
「ディグ、料理作ってくれる。ここは料理つくるところ」
空いている方の手でディグを指差し、次にディグが先程まで調理をしていた調理台や石窯へと指を向け、シオンに説明をしてくれる。
「あとレコンとメランは物を作る。キャロは綺麗な水くれた。メルはすぐ怒る」
思ったよりも旅団に馴染むのが早かったルーチェに感心する反面、メルの評価については苦笑いをせざるを得なかった。
すぐ怒ると言われた当の本人が、後ろで運んでいたお皿を落としそうになって必死で支えているのだから、無邪気というのは恐ろしい。
大鍋を洗っているディグも小さく肩を震わせ、読書に戻っていたキャロに至っては本に顔を埋めている。
お皿をなんとか持ち直してディグの元へと運ぶことができたメルは、急いでルーチェの元に駆け寄り、印象の訂正を要求した。
「あの、ルーチェちゃん?私はいつも怒ってるわけじゃないし、理由もなしに叱ったりしないからね?」
膝を落としてルーチェの目線に合わせ、必死で誤解を解こうとするだけで十分に面白かったのだが、それに対してルーチェは自分なりの答えを出した。
「じゃあメルはちょっと怒る」
怒るところは変わらないじゃないと肩を落とすメルに、シオンは今度こそ笑いをこらえきれずに吹き出してしまった。涙目で睨まれごめんと謝罪をしつつ、少しかわいそうになってきたためメルに助け舟を出すことにした。
「ルーチェ、メルは普段は怒ってることが多いいかもしれないけど、メルがいないとこの旅団のお金とか倉庫の中身が大変なことになるんだ」
「……メル、すごい?」
「うん、メルはすごいぞ。計算も早いし色んな物を管理するのもうまいしな。料理だって作れるんだぞ」
シオンの説明を聞いている間は彼に向けていた視線を、説明を聞き終えるとともにメルに戻し、先程より少し顔が赤くなっているメルに対して、少し申し訳なさそうに眉を下げた。
「メル、怒ってるだけじゃなかった。ちゃんと色々できた」
ちゃんと、という部分に微妙に引っ掛かりを覚えつつ、苦笑しながらメルはルーチェの頭を撫でながら今日の行き先を訪ねた。
「ありがと、ルーチェ。それで、今日はどのあたりまで進むつもり?」
「そうだな、コリュート村まであと3日くらいで着きたい。今日は山頂付近まで登って、そこで夜を明かそう。山を降りるのは明日からかな」
「それならば、今夜は山頂近くで景色を楽しみながらの夕食も良さそうですね。それに合わせた料理を用意しておきましょう」
大人の胴ほどもある鍋を軽々運びつつ、ディグは昼食の支度と夕食の仕込みに取り掛かった。それもいいなとシオンが頷いていると、シオンの人差し指をルーチェが軽く引いた。
「おっと、悪かったなルーチェ。よし、アウリオンの探検を始めようか」