少女と旅団(1)
アウリオンに到着した面々は、戻るなりそれぞれの行動を開始した。
メランとレコンの姉弟は、使った仕掛けの補充と検証。メルは糸だらけになってしまった服の洗濯と、ついでに浴場へと向かった。ディグは朝食の準備を行い、従ってルーチェはすることがなくなったため、昨晩の会議を行った時と同じシオンの席に座り、ディグが調理をする様子を眺めていた。
相変わらず床に足がつかないため、足をふらふらさせたままぼんやりしていると、引きずりそうなほど長いローブをまとった、淡い紫色の髪の女性が階段を登ってくるのが見えた。
なんとなく視線を向けると、その女性と目が合いお互いに動きを止めた。
女性は少し悩むような顔をしたあと、思い出したように手を打ち、ルーチェに向かって歩きだした。
「君は昨日の少女だね、名前はルーチェといったか。もう体調は大丈夫なのかな」
「……大丈夫。あなたの名前……知らない」
「おっとこれは失礼、私はキャロル・ラヴァイン。皆はキャロと呼んでいるがね。一応この旅団には医者として所属しているが、専門は結晶の研究だ。まぁ、その…なんだ。短い付き合いだがよろしく頼むよ」
差し出された手をルーチェが握り返すと、キャロもその手を握り返し、握手をしていない方の手をローブの中に入れると、小さな小瓶を取り出した。
「これはお近づきの印だよ、遠慮なく受け取ってくれたまえ」
その小瓶には特に装飾がされているわけでもなく、コルクできつく絞められた瓶の中には青い澄んだ液体が満たされていた。
素直にルーチェが受け取ろうとすると、大鍋をかき混ぜていたディグが背を向けたまま、キャロに注意を促した。
「キャロさん、間違ってもメーリオンさんに、妙な効果のある薬などを渡さないようにしてくださいね」
「わかっているよ、これはお近づきの印といっただろう。花紺結晶の触媒として効果が非常に高い、花紺結晶の濾過水だから何も問題はない」
それならいいですが、とディグは調理に戻り、もらった青い小瓶を明かりに透かしてみたり、手の中で転がしてみたりと珍しそうに眺めるルーチェの反応に、満足そうな笑みを浮かべたキャロは、自分の椅子に座りローブから取り出した本を読み始めた。
ほどなくしてメルとコロル姉弟が自分の席に着き、その後に続くようにあくびをしながらシオンも階段を登ってきた。
「シオン、アルマはまだきませんか?」
「あー、あいつはもう少し周りを見てくるってよ」
「わかりました、それとメーリオンさんですが……」
途中から小声になったディグに合わせるように、シオンもディグのそばで配膳を手伝いながら声を潜める。
「それに関してだけどな、さっぱりわからん。この近くに人が住んでるような集落もないし、あの大嵐の中こんな場所まで歩いてくる方が難しい。元いた場所どころか、どうやってこの場所にたどり着いたかすらわからないな」
ディグは少しうつむきながら小さく唸り、シオンが考えてもわからないなら今は仕方ないと判断したのか、いつもの柔和な笑顔に戻り朝食の配膳を再開した。
「いずれ分かることもあるでしょうし、今は保留にしておきましょう。……さて、皆さんお待たせしました、冷めないうちに召し上がってください」
そして、ルーチェに関しては何もわからないまま、いつものようにディグの合図で賑やかな朝食が開始された。
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