双子の問題児(2)
メルがルーチェのいる客室を訪ねる少し前、まだ誰もいない廊下をこそこそと足を忍ばせ、2人の子供が客室のドアに向かって移動していた。
顔立ちも背格好もよく似ている2人組は、腰に大きな金槌と小さな工具を装備した少年と、少年と同じような装備に加えて、金槌の代わりに大きなスパナを腰に携えた少女という、かなり個性的な見た目をしている。
周囲の壁や床に工具が触れないよう慎重に歩きつつ、お互いに動作のみで行動を伝えながら、ルーチェの眠る客室にたどり着いた。
(メラン、着いたけどどうしようか)
ドアを指さしつつ、首をかしげているレコンに対して、メランは何か良からぬことを考えている顔で、腰の工具箱から針のような工具と先端が鈎状になっている工具を取り出し、客室の鍵穴に差し込んだ。
(レコン、誰か来ないようにちゃんと見ててね)
指差し確認のような動作でメランの意図を理解したレコンは、周囲の音に耳を澄ませるように目を閉じ、近くに自分たち以外はいないことを確認しつつ、鍵穴から聞こえる音から作業の進捗を把握する。
数十秒ほど金属同士が触れ合う音が小さく響き、軽い音とともにドアの鍵が外れた。それと同時にお互いに示し合わせるでもなく、メランは工具を腰のポーチにしまい、その間にレコンが音もなくドアを開け侵入した。
侵入に成功したふたりは、お互いの金槌とスパナを軽く打ち合わせてにやりと笑い、客室を使用している少女が眠るベッドに近づく。
(僕たちがいない間に、新しいお客さんを招くシオンが悪いんだ)
(私たちが作業を終わらせたときには、もうこの子寝ちゃってたしね)
((侵入しちゃっても仕方ないよね!))
部屋に入り込んだことから小さな声ならと、小声で会話をしている2人は最後の1言で息を合わせ、ベッドで眠るルーチェを覗き込んだ。
新しい客人の顔を見たいがために部屋への侵入を行ったところでタイミングがいいのか悪いのか、2人に気づいたルーチェが目を覚ました。
目があった姉弟とルーチェはしばし見つめ合い、何とも言えない空気が流れるなか、沈黙を破ったのは空腹を訴える音だった。
「今のってメラン?」
「私じゃないよ?レコンでもないなら……」
昨晩もどこかで見たようなやり取りをしつつ、ゆっくりとルーチェを見ると、再度小さな音がベッドから響いた。
「レコン、どうしようか」
ルーチェの頬を指先で押しながら、メランがレコンに問いかける。
レコンは少し考える素振りを見せたあと、先ほどメランが浮かべたような悪い表情ではなく、素直にいい考えを思いついた表情をみせた。
「たしかこの森って、冬でも食べられる木の実とか生えてるよね?」
レコンの考えに気づいたメランは、賛同するように意見を重ねる。
「朝の水汲みって、多分まだ誰もやってないよね?」
2人で顔を合わせてにやりと笑うと、ルーチェの手をそれぞれ取り、ベッドから引き起こした。
「「外に遊びに行こう!」」
そして、姉弟に連れられたルーチェは、特に抵抗することもなくまだ雪の残る外へと手を引かれていった。