表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイハテの旅団  作者: こん
コリュート寒村編
3/80

行き倒れの少女(3)

 シオンが団長を務めるウルツェルの旅団の移動拠点、それがこの大型リスウィアの通称アウリオンである。

 1階は機関室となっており、2階は団員の居住スペースである個人部屋、3階は団員全員で集まり食事を取ったり話し合いをしたりする広い空間になっている。2階の一番奥の部屋が操縦室となっていて、各団員が順番に2人組でアウリオンを操縦している。

 実際のところ、機関室には2階の居住スペースから階段を降りて移動することが多く、外階段を登って2階が出入りするため、2階建てであり地下室と大きな倉庫を備えている、という表現が正しい大型リスウィアである。

 そして、現在旅団の団員たちは全員3階へと集まっていた。

 座る場所に関しては決まっていないものの、一応いつも座る席のようなものは存在しており、各々いつもどおりの場所に座っていた。

 いつも長机の中心に当たる位置にシオンが座るのが定位置なのだが、今日に限りその場所には先ほどの少女が居座り、シオンは少女の後ろに立っている。

 少女は先ほどの今にも倒れそうな状態とは打って変わり、すっかりお腹が膨れたのか床につかない足をフラフラさせて、表情は変わらないながらもご機嫌のようだ。

 

「さて、みんなに集まってもらったのは、この子について話し合うためなんだが」


 途中で言葉を切ったシオンは、少女の両肩に手を置いて真面目な口調で団員に語りかける。

 手を置かれた少女は真上を向いて、自分の肩に手を置いている少年を不思議そうに見ているが、振り払うなどの嫌そうな素振りは見せない。

そんな少女の様子を見つめていたシオンは、一度目を閉じ少女の目の前に移動して、目を見開き少女に質問を開始した。


「君はどこから来たのかな?」


「……わからない」


「君はなんで、山中で倒れていたのかな?」


「……知らない」


「……君の名前は?」


「……ルーチェ・メーリオン」


 いくつかの質問をやり取りし、そのまま団員含め無言の間が空間に流れた。

 食事の時からいくつかの質問を行ってはいたものの、わかったことといえば名前くらいのもので、それ以外の情報が全くわからない状況だ。

 真面目な表情のまま考え込んでいたシオンは、悩みぬいた末に表情を崩し、情けない表情で団員に問いかけた。


「みんな、この子どうしようか」


 真面目な顔から一気に困った表情に変わったことで、団員たちの反応はため息を吐いたり苦笑したりと様々だ。

 だが、嵐のおかげでだいぶ雪が溶けたとは言え、こんな年端もいかないような少女を森においていける訳もなく、団員たちの意見はほぼ決まっていたのだろう。


「どうするって、また放り出す訳にもいかないでしょ。幸いコリュート村まではあと2日間くらいだし、食料も特に問題ないはずよ」


「そうですね、子供1人分の消費程度は大した手間にもなりませんし、もし厳しくなるようであれば、私の腕の見せどころです」


「よし、俺もメルの意見に賛成だ。ディグが大丈夫だと言うなら、食事の心配もいらない。とりあえずは、コリュート村までこの子を連れて行くってことでいいか?」


 シオンが順々に団員を見渡し、それぞれ頷くなり笑うなりと同意を見せる。

 そんな中、刃物の手入れをしていた男が声を上げた。


「村まで連れてってあとはどうすんだ。いきなりガキ預かれって言われてよ、はいそうですかと受け取るか?」


「それに関しては問題ないだろ。あそこの村は紅花結晶の産地だから割と裕福だし、村長夫婦が子供好きだからな。親が見つかるまで、面倒くらいなら見てくれるさ」


 そういうことならと男は視線を刃物に戻し、それを了解と受けたシオンは全員の同意を得て、手を少女の肩から頭へと移した。

 相変わらず表情が変わらない少女に、色々な感情のこもった視線が注がれるが少女は特に気にする様子もなく、シオンに頭を撫でられるがままになっている。

 その後の話し合いで、明日の朝に周囲を探索後に手掛かりが見つからなかった場合は、この行き倒れの少女、ルーチェを保護することになった。

 

「それでは会議の結果、ルーチェはコリュート村まで連れて行くことに決定しました。みんな仲良くするように。それでは解散!」


 シオンの号令とともに、団員たちがそれぞれの持ち場へと散っていく中、メルがシオンの横で足を止めた。ルーチェの頭から手を離し、どうしたと目を向けてくるシオンに対し、ふと思った疑問を口にした。


「随分とあんたに懐いてるみたいだけど、ルーチェの面倒は誰が見るわけ?」


 本人は冷静なつもりなのだろうが、視線が少し泳いでいることと、細かい仕草がいつもと違うことから、シオンはメルが何を言いたいのかを理解した。


「俺が面倒をみるべきなのかもしれないが、あいにく俺は男だからなあ。ルーチェの面倒はお前に任せてもいいか?」


「あんたがそう言うならしかたないわね、私がルーチェの面倒を見てあげる!」


 シオンの言葉に被せる勢いで世話を引き受け、そのままルーチェの手を引き階段へと消えていった。


「あっという間にさらわれたな」


「そういえば、メルさんは可愛いものがお好きでしたね」


 ディグとシオンは、2人で小さく頷きながら灯りを消しつつ部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ