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サイハテの旅団  作者: こん
コリュート寒村編
2/80

行き倒れの少女(2)

 驚いたシオンは短剣を鞘に収めると、慌てて少女を抱き抱えて食事を行っていた焚き火の近くへと連れてくる。

 

「おい、大丈夫か?メル、毛布を何枚か頼む。キャロは怪我をしてないか確認をしてくれ」


 意識がない少女の頬を軽くたたきながら声をかけ、メルはアウリオンへと走り出す。同時に外傷がないかをキャロと呼ばれた女性が確認するが、特に目立つ傷はなくせいぜい服が所々破れている程度だ。

 メルが毛布を抱えてアウリオンから出て来ると、同時に少女がうっすらと目を開いた。


「よかった、意識はある。大丈夫か、俺の言葉はわかるか?」


 他の土地から来た人間の場合は最悪言葉が伝わらない可能性があったが、どうやらその心配はいらなかったようで首を小さく縦に振った。

 

「キャロ、この子の状態は?」


 少女に怪我がないかと調べていた女性は、外傷の確認をした後に脈を図り、肌の血色や四肢を触った際の反応などを確かめ、大丈夫だと判断したのかシオンに親指を上に向け拳を突き出した。

 先ほど投げた小石が当たってしまったのか、額が少し赤くなっているが、キャロが大丈夫だというのなら大丈夫なのだろう。

 キャロの判断に旅団の面々も張り詰めていた緊張感を解き、メルが敷いた毛布の上に少女を寝かせ、安心した表情で毛布をかけていく。

 しかし、体調に問題がないのならなぜあんな森の中で倒れていたのか、どこから来たのかなど聞きたいことはたくさんあり、シオンがどこから聞いたものかと考えていると、その思考を阻止するように空腹を訴える音が小さく響いた。


「おいメル、いくら安心したからってそれは…」


「ちょっ、私じゃないわよ!」

 

 あらぬ疑いをかけられたメルが慌てて否定すると、今度は先程よりも長く空腹を訴える音が聞こえた。


「ねえシオン、もしかしてその子じゃない?」


 メルに指摘されるままに少女に目を向け、先ほど地面に置いた皿を手に持ち、試しにキノコをフォークで刺して少女の前に差し出してみる。


「なあ、お前腹が減ってるのか?」


 しかし、シオンの言葉は少女の耳には届いていないようで、少女の目線は目の前のキノコに釘付けになっており、そっと口元に近づけるとゆっくりとだが一口で食べてしまった。

 恐る恐る咀嚼していた少女はいきなり目を見開き、シオンの皿に乗っていた料理を頬張り始めた。

 その勢いに呆気にとられるも、食事の途中だったことを思い出したシオンは、改めて仲間たちに呼びかけた。


「うん、まあすこし想定外のこともあったけど、いつもどおりに飯にしようか」


 シオンの呼びかけに団員たちは賛成し、元の場所に座り直して自分の分の料理を食べ始める。

 シオンの分は少女が食べてしまったため、ディグがシオンの分と少女のおかわりを用意して、1人増えたことを除けば無事に食事は再開された。

 乾いた薪に薄く固形燃料を塗った焚き火は、パンやシチューを頬張る団員たちを明るく照らす。ゆらゆらと燃える火に映る団員は、静かに黙々と食事を行う者や隣の団員と談笑する者、お互いの好きな具を交換している者など様々だが、その表情は皆一様に穏やかだ。

 そんな空気だからか先程まで弱っていた少女も、周囲を気にせず少し固めのパンと奮闘している。

 そんな微笑ましい光景を見守りつつ、シオンはなぜこんな場所に少女がいたのかと考えを巡らせながら、ゆったりとした時間が流れていった。

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