乙嫁語り
「アミルさんと結婚したい」
芯の通った素敵な女性、素直で聡明で果敢で気品があって……何より、したたかだ。といった具合で賛美を並べ立ててはいるけれど、これは漫画のレビューだ。そう、レビューなのである。
私としたことが。アミルさんへいかに想いを寄せているか、みたいな、言い換えれば恋文のような書き出しになってしまったことをまずは陳謝したい。
しかしながら「恋は盲目」とも言うように、周囲の視線を顧みず、ただひたすらに想いを連ねてしまう私の気持ちも汲んでいただければと切に願う。
それにしてもあのような、しっかりした女性がふいに見せる照れた表情であったり、親族が病に伏せた際の動揺であったり、カルルクに抱く好意を垣間見るともう、あぁ。もう……私のようなおっさんを誑かしてどうしろってんだ!
脱線しそうなので本題に入ろう。
まずはあらすじから。
十九世紀の中央アジアで、一面に広がる草原。羊を飼い、馬で駆ける、遊牧民がいて。部族があって。そんな生活の中。少しばかり結婚適齢期を過ぎてから嫁入りしたアミルと、それを娶ったカルルクの心温まるお話である。
絵は言わずもがな。是非ご自分の目で確かめてほしい。また、物語についても、丁寧に丁寧に作り込まれており、「紡ぐ」という言葉がぴったりな内容になっている。
それもそのはず、作者はかの名作「エマ」と同一というのだからさもありなん。この作者ときたら魅力的な女性を書くのが非常に上手い。まるで、そう。理想を体言するかのような……。あぁ、アミルさん……。
と、このように。キャラクターが非常に魅力的なのだ。私は割と度量の狭い人間なので、例えば素敵なアミルさんがどうしようもないダメ男とくっついていようものなら、胸の内に熱い思いを秘めて、秘めきれず、作者に対しファンレターという名の苦情を入れてしまうこと、なきにしもあらず。幸いにもアミルさんを娶ったのはカルルクという、幼いながらも掛け値なしに「いいヤツ」であって、作中、自身の身を挺してアミルさんを庇う姿を見れば、嫉妬心よりもただひたすらに、見守っていたくなるような、そんな心境である。
前述のとおり「乙嫁語り」のキャラクターは大変魅力的だ。双子の兄弟と姉妹、頼れるユスフ、鷹が好きで子供たちの面倒見の良いティレケ、手先や性格は不器用だけどパンを作るのが上手なパリヤ。それぞれがそれぞれに暮らしていて。生活模様を、ありありと想像できる。
この作者のように前作がもてはやされた場合、次作は小奇麗にまとまってしまうことも多いのだけれど。良い意味で期待は裏切られた。より緻密に、より奥行きのある作品になっている。