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マーイッカ

作者: 血塗五六

『まぁいっか』で日々を送るあなたへ。


チープ・プライドは少し強がりな男の子。

大好きなシザーペパーズのおもちゃを買ってもらえなくても「まぁいっか」で済ませる子供だった。



チープはエレメンタリースクールのフットサルクラブに所属していた。熱心に練習はしていたが残念ながら結果を出せずいつもベンチを暖めていた。

最高学年の最後の大会、結局チープはベンチに座っていた。そしてチープのチームは優勝した。みんな大喜びしている。自分も嬉しくないわけがない。正直複雑ではあったけど。


「まぁいっか。ジュニアハイスクールもあるんだし。」


残念ながらチープはジュニアハイスクールでもベンチに座り続けた。



チープはどちらかと言えば頭は良かった。

フットサルで成果が出ないぶんハイスクールに入ってからは勉強に力を入れ始めた。その甲斐あってチープは学期終わりのテストで学年でも二番目の成績を叩き出した。折角だから一番になりたい。それからもチープは勉強に精を出したがどうしても一番になることはできなかった。一年の終わりにチープはぽつりとつぶやいた。


「まぁいっか。一番と二番に大きな差がある訳でもあるまいし。」


一番と二番が違わなければ二番と三番も違わない。ハイスクールを卒業する頃には上から数えて二、三十番にチープはいた。



大学に入ったチープは生まれて初めて告白された。

初めて誰かに認めてもらえた気がして、舞い上がって、すぐさまチープはオーケーした。決して好みのタイプではなかったが、そこはお得意の『まぁいっか』であった。


もちろん、そういうのってすぐバレる。一月もたたないくらいのこと。


苛立ち混じりに彼女は言った。

「まぁいっかまぁいっか、あなたはいつもそればかり。きっと私と別れても『まぁいっか』で済ませるんでしょうね。」

チープはなにも言い返せなかった。身に覚えがあったから。彼女はそのままチープの前からいなくなった。


「まぁいっか。女なんて星の数ほどいるんだから。」



今日は大好きなシザーペパーズの映画が公開される日。チープはいそいそうきうきと帰り支度をしていると上司から声をかけられた。


「悪いが仕事を頼めないか。」


残業だった。


明日もあるしまぁいっか。チープはその日レイトショーが終わる時間になっても家に帰れなかった。


次の日。今日こそはとチープが帰り支度をしているとまたしても上司から声をかけられた。


「昨日は悪かった。お詫びに今日は好きなものを奢ってやろう。」


結局時計の針が12を指してもチープは家に帰れなかった。


さらに次の日。チープは二日酔いだった。とても映画を観に行く元気はなかった。公開日は一ヶ月もあるんだ。まぁいっか。


あれやこれやとしているうちに結局チープは劇場に足を運べなかった。


そのうちレンタルも始まるし、まぁいっか。


レンタルが始まる頃にはシザーペパーズのことなんかすっかり忘れてしまっていた。



チープは会社の管理職についていた。決して褒められる訳ではないにせよそつなく仕事はこなしているつもりだった。


新しい部署の役職についてほしい


上司にそう言われるまでは。

この歳になってまさか人事異動とは。事実上の左遷である。もちろん逆らうだけの力も理由さえも持ち合わせていなかった。結局、


まぁいっか。別に今の仕事にこだわりがある訳でもないし。


そういうことである。



チープは一人ベッドに横たわっていた。

老いた彼の周りには誰一人としていなかったし、功績や名誉もありはしなかった。それでもチープはつぶやいた。


「来世もあるしまぁいっか。」


チープはゆっくり目をつぶった。


チープが目を開けると真っ暗だった。

目を開けているのか閉じているのかもわからないくらい。もちろん自分の手足も見えやしない。


「ここがあの世なのかな。」


考えてもわかるはずがない。なにせ真っ暗以外のなにもないのだから。

チープは歩いたり走ったり飛んだりしたがなにも変化はない。チープが疲れを感じることもなかった。チープは暗闇の中を漂った。


「まぁいっか。そのうち来世も来るだろう。」


そういってチープは来る気配もない来世をずっと、ずっと待ち続けた。

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