4-勇者戦争 後編
今回は光の勇者視点です
(くそっ!くそっ!くそっ!)
闇の中、光となって俺はたたずんでいる。
俺は正義の怒りに燃えていた。その矛先はもちろん星と魔と光の大悪党だ。
卑怯にも3人がかりで俺を甚振り殺そうとした勇者の風上にも置けない外道。
(落ち着け、冷静になれ)
俺は下劣な作戦に負けて殺されてしまった。
物語のように、常に善が悪に勝つとは限らないのか。
だが、この心に絶望はない。そう、俺は光の勇者だからだ。
絶対正義の光の勇者は殺されても死なない、光の勇者だからだ。
光の勇者である俺は、常に全力を出さなくても敵を討伐することが可能。
故に今まで使ってなかった。秘められたスキルを実は所持していたのだ!
そのスキルを使えば、最後によった町、村の教会あたりの施設で完全復活することができる。
いつも全部のスキルを使わないと生きこれない他のクズ勇者とは違うのだ。
だからといって俺への無礼を許すわけには絶対いけない。テロリストに妥協はしてはいけないのだ。
(あいつらをぶっ殺すんだ。そのためには・・・・・・)
一度、俺の国に戻ろう。そして兵を集めるんだ。
優しきこの俺は普段は、兵を連れずに一人で聖なる戦いをしている。
傷つくのは俺だけでいいからな。あと罪人共と男と気に入らない奴全部。
しかし、今回の敵は勇者。いや勇者でありながら俺に敵対するという大罪を犯した外道。
この俺を敬わず信仰しないなど、元の世界で言えば大量殺戮テロか一般人の大虐殺に匹敵するほどの罪。
つまり魔王、あの3人こそ魔王。世界の敵だ。だからこそ今は団結して立ち向かわなければならない。
俺の国、絶対神聖ヒカリ超勇者帝国にはドラゴンにも勇敢に立ち向かう兵士が1億はいる。確認したことはないが確実だ。何故ならば俺の国だから。
完璧な策略。俺の絶対勝利。あとは魔の勇者は犯そう。そして――
魔の勇者に何をするか、妄想していると目の前の闇が明けていく。
最後に適当によった町の教会、そこに俺が今、復活!
「アアアエエエブ!?」
同時に俺の腹から刃が生えていた。
「なぜだあああぁぁ!?」
後ろを振り向くと、剣の勇者が俺から刀を引き抜くところだった。星と魔のクズも一緒だ。
卑怯にもこいつは、俺が復活する場所へ移動していたのだ。
方法はわからない。恐らくは邪悪な呪術。
ここは町の中、教会だ。罪のない一般人はたぶんこいつらに皆殺しにされている。きっとそうに違いない。
なんてクズな連中なんだこいつらは。
「このクズ共が!お前らに礼儀ってものはないのか!責任をとって自害しろよぉ!」
俺は勇気の剣を、剣のクズに振るう。しかしこいつはゴキブリのようにうざったく避ける。
こいつらはまさに害虫だ。俺の栄光の道を汚す汚物。
「地結界・内転陣!」
「四連斬」
星が意味不明な術を使い、剣のクズが卑劣な4回攻撃をしてくる。
「卑怯ものがぁ!正々堂々戦ぇ!クズがぁ!」
「クックック、クックックック」
俺が苦戦しているのをあざ笑うかのように魔ビッチが笑う。
癪に障る笑いだ。
剣のクズを除けば、こいつらは元々一緒に冒険をしてきた仲間だった。
しかし俺から離れてしまったせいで、心の底からクズに成り果てたらしい。
「うぜええんだよおおお!!」
俺の必死の抵抗もむなしく、体力がごりごりと削られていく。
俺もどこかでは元仲間だったということを気にする甘さがあったのか、そのせいでこうも劣勢なのだ。
それに比べこいつらときたら、俺の恩を忘れて情けなど一切なく攻撃してきやがる。
「ぐあぁ!」
そして、剣のクズとの攻防の末に意識を手放してしまう。
(くそ!クズ共が!クズ共が!群れるだけしか能がないゴミが!あいつらの力はあいつらが努力したものじゃないというに!傲慢野郎が!)
再び俺は闇に浮かんでいた。すなわち2度目の死という事だ。
あんな卑怯者のカス共に2回も殺されるとは。
(しかたない、冷静になれ。俺は正義を愛する、冷静で勇敢な英雄。俺が本気を出せばあいつは簡単に死ぬんだ)
最終的に絶対正義の俺が勝つのは自明。しかし問題がある。
勇者復活は、死亡しても完全回復するかわりにレベルが減少するのだ。
減少値は1割、既におれのレベルは8000ほどに落ち込んでいる。
最強無敵の俺ならば、この程度のレベル減少はすぐにとりもどせるし、勇者復活は初期スキルなのでレベル減少で消滅することはない。
だがデメリットが皆無ではない以上、何度も死ぬわけにはいかない。
(勇者転移術だ。一度王都まで戻るんだ)
絶対神聖ヒカリ超勇者帝国の最強の兵士を連れてくれば、あんな卑怯者には負けない。
もしかしたら何万の兵が死ぬかもしれない。しかしそれは正義の犠牲。
しかたのない出血なのだ。
方針を決め終えると徐々に闇が開けてくる。
そして2度目の復活だ。
同時に。
刃が襲い掛かった。
「みぎってんだぼけぇあ!」
「何語だよ」
剣の勇者の戯言には耳は貸さない。
卑怯な不意打ちに俺は完璧に対応して、回避する。
そのまま勇者の剣を掲げて叫ぶ。
「転移!」
同時に王国大聖堂を思い浮かべる。今や正義の俺の国の、つまりは俺の所有物。
勇者転移術は、特定の場所にのみ転移できる。
変わりに消耗はほとんどなく、どれだけ離れても転移できるという最強の俺に相応しいスキルだ。
俺は次なる勝利のため、大聖堂まで転移する。
「馬鹿なっ・・・・・・イギャー!」
痛みが走る。転移は何故か発動せず、剣のクズが攻撃してきやがった!
これもクズ共の卑怯な計略か!?
「哀れなものだな・・・・・・」
人を小馬鹿にしやがって!
つくづく根性が腐ってやがる。
卑怯な手段で俺より上になった気になって見下す。真性のクズだ。
「アアアアアアアア!!」
そうして3度目、俺は先ほど同じように死を迎える。
また俺は闇の中で崇高な思考を始める。
(クズは死ななきゃ直らねえみてえだな)
クズ共が、人が大人しくしてればつけあがりやがって。
(殺す殺す殺す。絶対殺す!)
もういい、殺そう。レベルなんて1になろうが知ったこっちゃない。
あいつらをズタズタにしてやる。よくもこの勇者に恥をかかせやがって。
俺は光が広がる瞬間をまった。
「死ねえええ!」
復活と同時に剣のクズに飛び込んでいく。
所詮卑怯な手段に溺れた奴など、実力では俺の足元にも及ばない!
殺す殺す殺す殺す!
「ようやくまともな剣を振るようになったな」
「だが、遅すぎだよ。クックック」
「なに言ってやがる!クズビッチが!」
「クックック、ディスキルフィールド・勇者復活」
「ッチ!うらあ!」
「ふん!」
俺はまたしても剣のクズの一撃を受けてしまう。こちらの攻撃はかすりもしない。
だが押している。戦っている。俺は天運を授かった者。
やつを切るのは3、4回でいい、それで殺せる!
魔のビッチも何かしやがったが。今は剣のクズを殺す!
「クックック、いいことを教えてやるよ。この術はな、範囲内の全キャラクターに対して、特定のスキルを封じることができる。私が指定したのは勇者復活だよ」
俺に無視されたのがそんなに悲しいのか、魔のビッチが長々と説明をする。
勇者復活、それは俺の奥の手にして神が与えた最強のスキル。
たしかにそれが封じられれば痛手ではある。
ビッチが言うには、使ったのは限定的なスキル封じの呪文らしい。だが、しかし、最強の俺には無意味!
「うぼげばああああ!俺にはそんなちゃちな術は効かねええんだよおお!」
俺にそんな小賢しい術は効かないのだ。選ばれた勇者。勇者の中の勇者の特権だ。
「もうちょっと、上品に、いや下品にじゃない程度に喋れないのかね。それと、ちゃんとこの術は効いているぞ。確認してみればいい。クックック」
「・・・・・・」
剣の勇者の攻勢が止む。奴も俺にスキルを確認してほしいらしい。
お望みならばやってやるよ。
「な、なんだこれは!なんでだ!チートかぁ!?」
ステータスを確認すると。俺が特殊な状態異常になっている事がわかる。
たしかにあいつらがいうように、勇者復活が使えなくなっているらしい。
いったい何故だ!?俺にそんなものは効かないはずだ!
「自分で考えろ、光の勇者」
な、なんで・・・・・・?
いや、こいつの言動は罠だ!
俺は最強の勇者。その俺でも一瞬でわからないということは、これはインチキに違いない。
考えても決してわからない類のものなんだ。
とするとまずい。このままだと俺はインチキの前に敗れてしまう。
「うおおおおおおお!!」
俺は走りだした。転移はできなかったが走れば逃げれるだろう。
何故やつらはこんな事ができる!理不尽だ。
「クックック、ストーンウォール。そんな叫びを上ても、やることは逃亡とはな、クックック」
「とどめだ」
走りは直ぐに魔のビッチのふざけた魔法で遮断される。
同時に剣のクズも、優勢を悟ったのか嬉々として殺しにくる。
自分が有利になったとたんに、急に増長しやがって!
「ちくしょう!ちくしょう!ふざけんなてめえら!人殺し共め!おいっ!誰か俺を助けろぉ!勇者のピンチだぞ!!」
ここは俺の街だ!俺の教会。そして外には俺の街に相応しく屈強な兵がいるはずなんだ!
「無様だな、見るに耐えない」
「クックック、もう少しもがかせてやれよ」
ふざけるな!ふざけるな!俺は・・・・・・
「俺は光の勇者!絶対の正義!俺は死んでいい人間じゃない!俺が死ぬのは世界が死ぬのと同義!お前達は世界がどうなってもいいのかぁ!?俺は!俺は――」
背中に走る痛みはこれまで何度も受けた。刀による斬撃。
俺は最後にそれを感じながら意識を消滅させた。