2-勇者時流
今回は剣の勇者視点です
勇者の召喚から2年が経過していた。
他の勇者達から離れ、一人で路銀も持たない剣の勇者は街に行き冒険者となり、金を稼いだ。
自身のスキルが気に食わなかっため、路銀を稼ぐとスキル封印を施す。
スキル封印というのは所持しているスキルを無効化する処置で、スキル屋という店でやってもらえる。
このスキル封印はありがたかった、これがなかったら全てにやる気がだせなかったかもしれない。
その後は冒険者として活動しながら各地を転々としていた。
ちなみにこの世界の戦闘はスキル――正確には剣の勇者が勝手に勇者スキルと呼称するチートスキル――を封印しても割りとヌルゲーであった。
既に剣の勇者のレベルは2000を超えており、冒険者として一流だった。無論現在でも勇者スキルは封印している。
他の勇者達だが、最初はパーティを組んでいたものの1年も経たないうちに完全離散したらしい。
その後は一部の勇者の名声は聞こえてくる。
そして、名高い勇者の一人、星の勇者。
彼は自身の領地を持つに至った。その領地は大きく繁栄し、治安もよい。
さらには魔族も領地に受け入れられており、彼のおかげで魔族との共存の道も開かれていっているとか。
彼の評価は、名領主、名商人、そして預言者にして善人。
俺はそんな星の勇者の邸宅に赴いていた。
「よく来てくれた。久しぶりだな、剣の勇者」
「ああ、久しぶりだ。星の勇者、それに・・・・・・」
星の勇者は最初会ったときから服装を除けばそう変わっていない。
日本人らしい黒髪黒瞳の青年。俺より年齢は低そうで17,8ぐらいに見える。
領主らしい立派な服だ。思慮深そうな外見にそこそこマッチしている。
しかしもう一人の女性が誰なのか、一見では剣の勇者はわからなかった。
長いストレートの黒髪、赤と黄のオッドアイ。青白い肌。魔女のような服装。
魔族にしか見えない女性。しかし昔見た面影はあった。
「お前は、魔の勇者か?」
「クックック、覚えていたか。嬉しいよ。久しぶりだな、剣の勇者」
驚いた。どう見ても魔族だ。
とはいえ、深い詮索はしないすることにする。
一度は自ら繋がりを断った身だ。他の勇者を詰問する権利などないだろう。
「まずは食事でもしようじゃないか」
「あまり悠長に話し旧交を温めるつもりもないが」
「それは俺も同感だ、食事をしながら話をさせてもらおう」
「おやおや、二人ともせっかちだな・・・クックック」
運ばれたきた食事は非常に美味かった。
そしてそれを運んできたのは、可憐なメイドが一人と、美しい女性が一人。
美しい女性は貴族が着るような上質な服を身に着けている、妻だろうか?
「随分充実した生活をしているようだ」
「ああ、忙しいが嬉しい忙しさだ。嫁は可愛いしな。さっそくだが単刀直入にいかせてもらおう。君を呼んだのは光の勇者と戦ってほしいからだ。光の勇者のあの後は知っているか?」
「そうだな」
勇者が完全離散した後、特に名が高かったのは二人、その一人が今目の前にいる星の勇者だ。
そしてもう一人、それが光の勇者だった。
しかし星の勇者がいい意味で名が売れているのに対して光の勇者は悪名ばかりが響いた。
目障りな奴は暴力、アイテムの盗難強奪、気に入った娘を強引に自宅につれ込み、王家の名まで好き勝手に使ってやりたい放題。
これらは大人しかったころの光の勇者だ。
彼はどんどんエスカレートしていき、平民も貴族も気にいらなければ殺害。
女を自分のものにするため両親や男を殺して奴隷化。
自身を無理やり王国の重鎮にすわえ、重税をかけて金を集める。
殺人強盗やレイプも当たり前。剣の勇者の導きという意味不明な理由で隣国を侵略。
さらにさらにさらに。
王国の国名を変更。その名も【絶対神聖ヒカリ超勇者帝国】。
もう頭を抱えるしかない。突っ込みをする気さえ起きない。
そして光の勇者の役職は、超勇者王。
王(ちなみに帝国なのに帝王、皇帝ではない)のさらに上の存在らしく、財政の金を勝手に使える程度の権力を保持して義務はない。
統治自体は王がやるとかなんとか。
ちなみに国教えは光の勇者教。当然異教徒は抹殺、美しい女の場合だけ連行して超勇者王に献上。
この事実を知ったとき、俺は1ヶ月ほど信じることができなかった。
「と、こんなところだろうか?」
もちろんこんなやりたい放題できるのは勇者スキルあってのことだ。
あのインチキスキル郡だが、それはレベルアップに伴ってさらに強化、増加していった。
俺はその度にスキル屋で封印していったが、それを全て開放すれば国を単独制圧などたやすい。
というか他の勇者がいなければ大陸、いや世界を征服できる。
魔族領域もなんのその、勇者の天敵になりえる魔王は今は存在しない。
「ああ、正確に把握しているようだな。僕の領地を侵略するって事もあるけど、それ以前の問題で絶対に捨て置けない」
そりゃそうである。奴のおかげで勇者の評判はすこぶる悪い。
もし星の勇者がいなければ、表立って勇者がリンチを受けるようになっていたかもしれない。
返り討ち確実だが。
「俺も精神的に健常者とは思ってない。がいくらなんでも光の勇者はありえない」
そう、俺だってわかっている。ろくに説明を聞かず、他の勇者達の元を去ったのは褒められたことじゃない。
が、そんな俺にだって超えてはいけないと思う一線はあるのだ。
光の勇者はその線を一足飛びに越えている。
「今なら君が最初に出て行ったのも、賢者の先見のような気がしてくるから不思議だ」
「クックック、魔族となった私ですらも嫌悪するよ」
そういえば、こいつらは最初は光の勇者と一緒だったのか。
最初からああだったわけではないとおもうが。色々とあったのかもしれない。
「協力するのはやぶさかじゃないが、他の勇者は?」
「聖と天は行方がわからない、大地は・・・・・・問題があってな」
・・・・・・今思ったが勇者って問題だらけだなおい。
「そうか、作戦はあるのか?」
いないものはしかたない、せめて前向きにいく。
「ああ、まずはこれを見てくれ」
星の勇者がそういうとプロジェクターのように、ステータス画面が部屋の壁に投影された。
名称:光の勇者
レベル:10604
称号:超絶対勇者
スキル:
超絶対勇者加護、勇者絶対超最強能力、勇者冒険術、超勇者交流術、勇者復活、超勇者完全復活
勇者転移術、絶対勇者能力、超勇者魔法、絶対勇者超魔法、超勇者近接、絶対勇者近接
超勇者絶対超無心、超勇者絶対超健康、超勇者絶対超無敵、超勇者絶対最強、超勇者絶対超完璧
勇者絶対超健常、勇者超体力、超勇者絶対底力、超勇者不屈、超勇者絶対完全無欠、勇者限界突破
剣術レベル1129、槍レベル92、魔法レベル537、盾レベル3885―――――、etc.
術技:
勇者アタック、超勇者アタック、無敵勇者アタック、絶対勇者アタック、絶対最強超勇者アタック
勇者ディフェンス、超勇者ディフェンス、無敵勇者ディフェンス、絶対勇者ディフェンス、絶対最強超勇者ディフェンス
勇者サンダー、超勇者サンダー、無敵勇者サンダー、絶対勇者サンダー、絶対最強超勇者サンダー
勇者ヒール、超勇者ヒール、無敵勇者ヒール、絶対勇者ヒール、絶対最強超勇者ヒール―――――、etc.
突っ込まない、俺は突っ込まないぞ!
といいたいが、いくつか真面目に突っ込まないといけない所がある。
ちなみに剣術レベル1129は勇者スキルではない、一般的なスキルだ。
俺も剣術レベルスキルは所持している。
最初に俺は剣術レベルというのは剣の腕に関係するかと思っていたが、それは違った。
剣術レベルスキルの効果は単純に剣で戦った時のダメージ等を上昇させる、武器適正とも言えるようなスキルだ。
槍、魔法、盾は俺は所持していないが、似たようなものだろう。
「クックック、ネーミングがまるで小学生だな」
「・・・・・・色々突っ込みたいが下らない突っ込みはよそう。まずスキル名がかなり分かりづらいが、効果はわかるのか?」
俺のスキルはほとんどが名前のまんまだ。
勇者スキルは勇者ごとに名前が大きくかわるらしい。
「ああ、詳細情報もわかる、例えばやっかいなのが超勇者絶対超無敵だ。これはダメージが自身のHPの99%以下ならダメージを受けないというスキルだ」
「即死以外ダメージ無効かよ」
「他にも健康は状態異常を完全シャットアウト、完璧は呪いを無効化」
ひどい。
「レベルが低い事が救いだな、クックック」
「レベル、低いのか?・・・・・・お前たちのレベルはいくつなんだ?」
光の勇者のレベルは約1万、つまり剣の勇者の5倍もあった。
「僕のレベルは53万です」
「俺のレベルは150万だぞ、クックック。大方一般人の限界である一万を超えてレベル上げがめんどくさくなったのだろう」
「もうお前達だけでいいんじゃないかな」
冗談かとも思ったが、二人は訂正はしなかった。
どうやってそんなに・・・・・・いや勇者スキルがあればこの位は行くのか。
たしかに自分のレベルの5倍ではあるものの、勇者スキルがあってこの程度。
むしろ光の勇者のレベルが低いというのが納得できる気もする。
勇者スキルには経験値向上系のスキルもあるしな。
「そうもいかん、勇者の防御能力は脅威的だ。無敵で即死ダメージ以外は無効。たとえ即死ダメージを与えても不屈で10%ダメージにされる。呪いや状態異常も聴かず、弱体化も健常で防がれる。そして倒しても復活で完全回復された上に蘇生。実のところ魔の勇者はともかく、僕は光の勇者にダメージを与える手段さえない」
「わけがわからない」
光の勇者の全てに頭を抱えてしまう。
「もっとレベルが上がったら超勇者完全復活や超勇者不屈がランクアップする可能性もあるからな。クックック」
ランクアップの可能性があることもわかるのか?
・・・・・・よくみているとたしかに無敵や健康とかとは違って、絶対とかついてないな。
不屈はランクアップすると超勇者絶対超不屈とかになるのだろうか、知りたくもないが。
嫌すぎる命名規則だ。
「スキル自体は少なめか・・・・・・」
勇者のステータスを見ながら弱点を探そうとする。
とはいえスキルの少なさなど実際のところ問題にならないだろう。
一つ一つのスキルがあまりに強力するぎる
「クックック、それは違うな」
「何?」
「君のスキルが多いんだよ。なんでかは分からないけど僕達よりもずっとね。君なら勇者と戦える。というより君しかまともに戦うことができない。この世界はレベルよりもスキルが重要なんだよ。剣の勇者。君が勇者スキルを使えば光の勇者に即死ダメージを与えられる、簡単にね。だから君を呼んだんだ」
意外な指摘を受ける。
俺のスキルは多かったのか。もっとも、全く使ってないので意味はないのだが。
「それでもレベル差は相当あるぞ、足手まといにならないか?」
「君一人じゃ難しいだろうね。でも僕達だって戦うんだ。大丈夫、計算上は十分いけるんだ」
「クックック、全力でサポートするよ」
こちらは3人がかり、うち2人は超レベル。あまり不安になるほどでもないか。
しかし一番の問題は別だ。
「復活はどうする?」
「それは僕がどうにかできる。」
あっさりと答える。
俺を呼びかけた時点で対策は当然していたか。
「どうだろう、協力してくれるかな?今まで勇者スキルを封印しているのに、それを開放しろっていうのは難しいと思うけど・・・・・・」
剣の勇者は考える。その思考は星の勇者の懸念とは裏腹に前向きだった。
そもそも俺だって光の勇者をなんとかしようとは思っていたのだ。
それをしていないのは、単純に戦えば自分が敗北することを疑っていなかった。
自身が勇者スキルを開放してもだ。
事実、星の勇者は光の勇者を討伐する十分な動機があるのに、それをしなかった。
それは星の勇者では光の勇者を倒せないからではないだろうか?
俺ははそう思っており、実際その通りだった。
スキル封印も、単純に自分がおもしろくないからしていただけにすぎない。
他の人間に比べてフェアではない・・・・・・などという殊勝な心がけはもっていない。
「いいだろう。ただし条件がある。」
俺の心は決まった。光の勇者を、殺す。