大嫌いな美男子とストーカーの私
私はある男を酷く嫌っている。私が嫌っているその名も知らない男は、かなりの美形だ。まさにおとぎ話に出てくるような英国紳士いや、王子様という風貌である。風貌だけが完璧ならまだしも、彼はいつでも誰にでも溢れんばかりの笑顔を振りまき、その上自信に満ちた立ち振る舞いをする、所謂非の打ち所のないような男だ。私はこの男と話したことは一度もない。しかしこの男は私の友達がとっている科目の教授であり、私がいつも勉強しているカフェテリアを毎日通るので見かけるのだ。まだ若いからなのか、この男はかなり身なりに気を使う。他の男性が着たら、「えぇ...ジェイムズ ボンド意識してるの?」と突っ込みたくなるようなコート、帽子そしてサングラスを着こなし、つやつや光る固めた髪でやって来るのだ。そして誰にでもオーバーリアクションで明るく返答する。「あぁ。。神様マジ助けて。超イライラします。」と神様に祈る私を傍らに、女たちは男が歩くと、いつも振り返り熱い眼差しを送る。ほとんどの女がこの男に惹かれている傍らで私がこの男を嫌うのは、ずばり男の笑顔が嫌いだからだ。男の笑顔は虫唾が走るくらいフェイクなのである。私は男のフェイク過ぎる営業スマイルに恐怖を感じる。私にはそれがサイコパスにしか見えないのである。
そこで私はこの男の本性を暴く決意をし、数日間だけ男のストーカーになる決意をした。私はどうしても、この男の立ち振る舞いや笑顔が偽りで本当は、善人ではないと証明したかったのである。そこで私は、男の後をつけることにしたのだ。後をつけるって云ったって一日中ストーカー行為をしているほど私も暇ではない。なので私は男が仕事を終えたときだけ後を少しつけることにした。私の授業は早く終わるので勉学にに支障はなかった。それに友達が男の他の授業を何回か採ったことがあり、親しかったので、男の受け持っている授業の終わる時間などの情報は簡単に手に入った。 一日目、男がオフィスから出て来るのを待ち伏せて、気付かれないように自然体で少し距離を置きながら歩いた。どうやら学校の駐車場に向かっているらしい。そのまま向かうかと思ったそのときだ。女がいきなり出てきて、彼にハグをした。まぁこれはまだ普通かもしれない。なんせこの物語の拠点は海外なので。しかし、次の瞬間この男は、女にキスをしたのである。頬にではないぞ、唇にだ。そして二人は手を繋ぎ、また駐車場へと歩き始めた。私はそこで追跡を止めた。何せもうこの男の正体が分かったからである。別段にキスをすることがいけないと言っているのでない。しかしだ、妻がいながら他の女とキスするのは立派な浮気であり、まず善人はしない。したがってこの男の本性は、間違っても学校の馬鹿女たちが憧れて、妄想のオカズに使っているような英国紳士や王子様ではないということは証明されたのだ。また私が何故この男の妻について知っていたかと云うと、一週間前にこの男は妻と共に登校し、その馬鹿でかい声と虫唾が走る笑顔で誰かに妻の紹介をしていた時、たまたま私は近くのテーブルに座っていたのだ。
私は浮気の現場を目撃し、男の秘密を手に入れた気がした。男が善人ではないと証明されたのでもうすっきりした!とか思っていたが、あともう一度だけストーカーしてみる事にした。しかし男は私の期待に、私がストーカー行為をする前に応えてしまったのである。なんとストーカー決行の前日、学校の図書館に遅くまで残っていて宿題も終わり、帰ろうと図書館から出て歩いていると、何と男がこっちに向かって歩いてくるではないか。しかも今度は別の女とイチャイチャして手を繋ぎながら歩いてくる。びっくりしてギョッとしてると、男は私と擦れ違い際に笑顔で、「遅いから気をつけてね」と言ってきたのである。何とも恥知らずな男である。別の浮気相手とイチャイチャしながら、何とまぁ~堂々としたことか。何故かその後、私は理解しにくい敗北感に見舞われた。男はというと、今日も女たちの熱い眼差しに笑顔で応えながら、颯爽とカフェテリアを歩いている。