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アタリ~面倒くさがりの女子との日常~

作者: 赫夜

「あぁ~だるいわ」

キョウは教室に入ってくるなりそう言った。そして俺の目の前にある自分の席に着くやいなや、腕を枕代わりにして眠り始めてしまう。

「っておい、なに速攻で寝てんだよ。おい起きろ」

頭をペシッと軽く叩くと、のっそりと身体を起こし、眠たげな半眼をこちらに向けた。

「なにするのよ。人の安眠を邪魔するつもり?」

「学校来て朝から寝る奴がどこにいる」

「ここにいるわよ」

「はぁ……。お前に聞いた俺が馬鹿だったよ」

キョウとは中学の頃に知り合い、こいつのサバサバしたというか面倒くさがりの性格は俺と合うらしく、高校二年になった今でも比較的仲良くやっている。

「ソウスケには言われたくないわよ。私より成績悪いくせに」

「ぐぬぬ……、言い返せない自分がもどかしいぜっ。つーか、授業中とか寝てんのに勉強できるのは反則だろ」

「ふふん、私はやるときはやるからね。必要のないことはやらないけど。まぁ、もとよりソウスケとは頭の出来が違うのよ」

ない胸を張って威張りやがって、いつか見返してやるっ。……できたらいいなぁ。

そうこうしているうちにチャイムが鳴り、同時に担任の先生が入ってきた。

「おまえら~、これから始業式だから廊下に並べ~」

始業式という言葉を聞いた時、キョウがうへぇと嫌そうな顔をしたのを俺は覚えている。


「やっと終わったー」

俺はずっと立っていて凝った身体を伸ばす。

「まったく、校長の話が長すぎなのよ」

と机に突っ伏しながら愚痴をこぼすキョウ。

「お前はほとんど寝てただろ」

「まぁそうなんだけど」

しばらくすると先生が教室に入ってきて、皆に聞こえるように「静かにしろ~」と言った。

「え~これから一学期の委員会を決めようと思う。少し時間をやるから各自どこに入るか考えろ~。俺は一度職員室に戻るから静かにしているように~」

そう言うと先生はクラスを出ていってしまう。途端にクラスの奴らは近くにいる人たちと話し始めた。

「なぁ、お前はどうするんだ」

「え、私? 委員会なんて入らないわよ、面倒くさい」

その言葉を聞いていたのかどうなのか、ドアから顔だけだして、そうそうと先生が付け加えるようにこう言った。

「委員会に入らなかった者は自動的にクラスの雑務をやることになるからな~。そこんとこよろしく」

もちろん何人かの生徒が不満の声を上げたが、先生は華麗にスルー。

「だってよ。どうするんだ」

「不登校にでもなろうかしら」

「ちょ、なにいってんだよ」

「冗談に決まってるじゃない。まぁとりあえず一番楽そうなのに入ろうかな」

「だとしたら図書委員とかどうだ」

「そうね、それがいいかも。間違ってもクラス委員にはなりたくないわ」

「だな」

ひとまず俺たちはクラス委員以外で楽そうなものに当てはまる図書委員に決まった。

クラス全体がだいたい決まったような雰囲気になったころ、先生が帰っていきた。

「もういいな~、それじゃ決めるぞと言おうと思ったが、その前にクラス委員を決める」

予想外の出来事にクラスはざわつく。

「どうせ立候補者は出ないと思ったから、あらかじめクジを作ってきた。人数分あるから全員に引いてもらって、アタリと書いてあるのを引いた者がクラス委員長ということで」

いやもうそれはアタリじゃなくてハズレだよ。つか、それ作るために職員室戻っていたのか。

そしてクジの入った箱が順番に回される。

「だけどまぁ、心配する必要はなさそうだな」

「どうして?」

「俺はクジ運が良いんだよ」

「そう、良かったわね。頑張ってね」

「え、なにが?」

キョウと話していると順番が回って来た。結局キョウの言っている意味はわからなかった。

「じゃ、まず私が引くわね」

と箱に手を入れ、中にあるクジを一枚引く。

「次は俺だな」

俺も同じようにクジを引いた。クジは折りたたまれていて中に何が書いてあるのかわからないようになっていた。

「それじゃ、せーので開けようぜ」

「わかったわ」

俺が「せーの」と掛け声をかけ、見えるようにクジを開く。

「私は何も書いてなかったわ。ハズレね」

「えーと、俺のは……ア、タリ?」

クジの中には赤い文字で大きくアタリと書かれていた。これってつまり……。

「クラス委員決定ね」

キョウが俺の心の声を代弁する。

「なん、だと……」

「クジ運が良いのも困りものね」

キョウが言ったこのセリフで、さっき言った言葉の意味を理解した。

「キョウ、お前、こうなることわかってたな」

「なんのこと? 言いがかりは良くないわ」

こいつは、クラス委員になるのがアタリと書いてあるクジを引いた人、俺はクジ運が良いというヒントから俺がアタリのクジを引くと予想していたんだ。だからあの時、頑張ってねと言った。

「ったく、先に教えてくれればよかったのに」

「だって面倒くさかったんだもの」

ダメだこいつ、早く何とかしないと。


「ということで、今期のクラス委員は間宮に決まった。しかし、まだ終わりじゃ無いぞ。クラス委員は二人決めねばならんのだ。ということは、誰かもう一人にやってもらうことになる」

さすがにこれにはクラス中からブーイングの嵐が巻き起こる。が、先生はものともしないで平然と続ける。

「それと、もう一人は女子にやってもらう。やっぱ男女のほうがバランスいいだろ」

なんだと、これは俺も人事ではなくなったぞ。無理やりクラス委員をさせられた女子と一緒に仕事が出来るわけがない。絶対気まずい雰囲気が流れる。なにか、なにか解決案はないのかっ。

ふと目を前に向けると見えるのは、もう自分は関係ないと身体で表しているように机に突っ伏しているキョウの丸まった背中。

「……」

あれっ、キョウって確か女だよな。ってことはクラス委員になる条件は満たしている。よしっ……エンディングが見えたっ!

俺はそっとキョウにバレないように近づき、キョウの腕を掴むと高く上げる。

「なにをしてんのよ」

すぐ横を向くと目の前にジト目をしたキョウの顔が。

「え……あ~、なんというか、その~」

「正直に言いなさい」

「キョウに立候補させようかと……」

「私さっきクラス委員は面倒くさそうだからやらないって言ったでしょ。……ていうかなんで私なのよ」

「いや、だってさ」

「なによ」

なんだかこれ言うのはちょっと恥ずいな。言わなきゃだめかな。

「はやくっ」

仕方ない、言うか。

「せっかくやるならさ、あまり仲良くない女子と気まずい雰囲気のなか一緒に仕事をするより、気の知れたお前と駄弁りながら楽しくやったほうが良いと思ってさ」

「……」

キョウは急に黙りこんで顔を背けてしまった。

「別にいいんだ、俺もお前に嫌々やってもらいたくはな――」

「ま、まったく、しょうがないわね!」

「えっ?」

「ソウスケがそこまで言うなら、私の代わりに毎日昼ごはんを購買で買ってきてくれるっていう条件ならやってあげてもいいわよ」

「いや、嫌なやいいん――」

「私とクラス委員したいの、したくないのどっちなの?」

「ええと、その、したいです?」

キョウは「まったくソウスケは、ほんとに私がいないとダメなんだから」などとブツブツ言いながらスッと手を挙げた。


そうして俺とキョウは二人でクラス委員をすることになった。

仕事はなかなか大変だけど、結構楽しくやっている。

キョウのやつも口では面倒くさいと言いながら、なにかと俺のことを手伝ってくれるし頼り甲斐がある。

今になって振り返ってみると、案外あの時クジでアタリを引いたのは文字通り『当たり』だったのかもしれない。











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