表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

怪話篇

怪話篇 第四話 仮面

作者: K1.M-Waki

     1

「き・た・ざ・わ・くん! お見舞いに来てやったぞ」

「夏子か。入れよ、皆も来てるぞ」

「遅い、遅い。何してたんだ?」

「ふんだ! 折角お見舞い持って来たのに。誰にもやんないぞ」

「まあ、そう言わずに。こっちおいでよ、こっち」

「しかし、北沢もアホだよなあ。自動車と自転車と、どっちが強いかも判らないんだからなあ」

「うるさい! あん時は、急いでたんだよ、急いで」

「でも、大した事なくてよかったねえ。顔に傷でも入ったら、夏子がかわいそうだもんね」

「もう、香ったら。でもね、北沢君が怪我したって聞いた時、もう心臓止まるかと思った」

「はは。そりゃ、悪い事したなあ。けど心配するなよ。俺は、不死身だからなぁ」

「そりゃけっこう。けど、折角入院したんだから。頭の方も直してもらったら」

「そりゃあ、ないだろう」

「……ところで例の件……、おまえが事故ったんで延期するぞ」

「えっ? 何だ、例の件って」

「こら、……大きな声出すな」

「誰かに聞かれなかったろうな……」

「おまえ、忘れちまったのか?」

「なっ、何の事だよ、中西」

「おい、北沢……。おまえ、本当に何も判らないのか?」

「だから何をだ?」

「どうやら、事故で部分的な記憶喪失になった様だな」

「そうらしいね。北沢君、ココでは駄目だけど、……そう、退院したら。それに、それまでに思い出すかもね」

「そうだ」

「そうだぞ、北沢。気を落とすんじゃないぞ」

「気を落とすも何も、俺にはさっぱり判らんよ。何なんだ、いったい……」


     2

「北沢君の退院を祝って、乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」

「どうも、どうも」

「しかし、早く退院できて良かったね」

「本当、本当。先生も、こんなに早く治るなんて人間じゃないって言ってたくらい」

「ははは。俺は、不死身だからなあ」

「象が踏んでも壊れない!」

「バカ。……ところで、なあ横井、……おまえも中西も、変な事言ってたなあ。記憶がどうのこうのと」

「ん? あれは……、ココじゃ駄目だ」

「皆に言えない事か」

「言えないような奴もいるって事さ」


     3

「なあ横井。そろそろ話してくれないか? 例の事ってのを」

「ああ……、いいだろう。その前に、もう一度訊くが、……本当におまえ忘れてしまったのか? 自分が何者なのか」

「何者もなにも、俺は北沢芳明だ。偽もんじゃないぜ」

「……やっぱりそうか。じゃあ、話そう。……おまえ、自分が本当に人間だと思っているか?」

「は? おまえ、頭おかしくなったんじゃないのか」

「いや、……。どうやらおまえは、忘れてしまった様だが、我々は人間ではない。遠い宇宙のユ・ゴスから来た宇宙人だ」

「横井~~。あの病院、精神科もあるぞ。俺、紹介してやろうか」

「残念ながら、本当の事よ」

「夏子……。いつ来たんだ……」

「あなたは事故で、自分がユ・ゴス人だという事を、忘れてしまったのよ」

「なっ、何をバカな事を……」

「そうだぜ、北沢。僕達は、地球調査の為に送り込まれたんだよ」

「岡本、……お、おまえまで」

「地球で、人間と交わって調査をするには、正体を隠さねばならん。それで我々は、普段は暗示によって、ユ・ゴス人としての意識をシールドしているんだ。君は不幸にも、事故にあった為に、ユ・ゴス人としての意識が、封印されてしまったんだよ」

「……は、ははは、……わ、悪い冗談だ。……そ、そんな事が……」

「ある訳ないと思うか」

「……」

「おまえ、病院の先生に、人間じゃないって言われたんだろう?」

「だけど、……それは」

「いい加減、思い出してくれよ!おまえの事故の為に、計画が遅れているんだ」

「……計……画? ……何のだ」

「しっかりしてよ。地球人の調査が終わったから、今度はデーターを元にして人類を自然消滅させるんでしょう」

「地球を、侵略しようと言うのか、……おまえ等は」

「駄目だな。全然思い出してくれない」

「どうしたらいいのかしら」

「……お、俺は……」

「仕方がない、素顔を見せるか……」

「……人間……だ」

「駄目よ!彼は、自分が人間だと思っているのよ。ショックが大き過ぎる」

「……人間の……はず……だ」

「もう時間がない。計画の一部には、彼しか知らない部分があるんだ。もうこれ以上、遅らせる訳にはいかん」

「わ、わかったわ。ねえ、北沢君」

「……あ、……お、俺は人間だよな。そうだよな」

「北沢! 見ろ」

「えっ、……」

「普段は皮膚と融合していて、地球の科学力では、全く見分けがつかないいが……」

「……あっ、……ああ、」

「人間の意識のままの君には、多少グロテスクかもしれんが、……見るんだ。ユ・ゴス人の素顔を」

「あっ、……うわああああ……」


     4

「北沢のやつ、だいぶ動揺してるぜ」

「そりゃ、そうだろうさ。こんなもん見せられちゃあな」

「ヤダー、横井君。もう、それ取っちゃってよ。気持ち悪い」

「少しばかり、悪戯が過ぎたかなあ。後で謝ろうぜ」

「しかし、岡本も悪人だなあ。あれじゃあ、北沢がちょっとかわいそうだよ」

「何を言ってるんだい。君が、最初に賛成したんだよ。その上、御丁寧にこんなマスクまで用意しちゃってさ」

「そうよ。マスクを二重に被るのって、とっても苦しかったんだから」

「けど、このマスク、どっちもよく出来てるなあ。これじゃあ、北沢が蒼くなるのも無理ないな」

「本当、本当」

「北沢の分も、造ってたら良かったのに」

「おいおい、これ、割と手間かかるんだぜ。四人分造るのがやっとこさでよ。あいつの分なんか、グロ面一つ、余分に造る気にもなれんかったよ」

「ひどいやつ」

「まま、そう言わずに。そろそろ、北沢に種明かししに行こうや。あんまり待たせると、かわいそうだ」


     5

「よう、北沢。大丈夫か」

「……」

「北沢、おい」

「……俺は、……俺は、」

「北沢、さっきは悪かったな」

「……俺は、人……間……じゃ、……人間……じゃあ……」

「ごめんねえ、北沢君。ちょっと冗談が過ぎたねえ」

「……」

「ねえ、謝るからあ。皆も反省してるんだよ。だからねえ、」

「……俺は、……」

「なっ、悪かった、北沢。……ああ、そのマスク……。人間そっくりで良く出来てるだろう。欲しけりゃ、やるよ。俺の力作だぜ」

「……」

「北沢くうん、悪かったからあ。だから、下ばっかり向いてないで、……ねっ」

「……人……げ……じゃ、……」

「横井……。僕、人間のマスク……四つとも、」

「……な……い……」

「な、中西。……持ってるのか。……それじゃあ……」

「……俺は、」

「ねえ、うつむいてないでよお、北沢君」

「……ユ……ゴス……」

「ねっ、ゴメン! だからさあ、顔あげてよ。ねっ。……北沢君たら、ねえ、……どうしたの? ねえ、北沢君? ……北……


eof.


初出:こむ 4号(1986年9月12日)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] このシリーズ、ちょっと空いた時間に読むのに最適で重宝しています。よくこんな話を次から次と思いつくなと感心しました。執筆がんばってくださいね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ