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【完結】『無能力転生』冤罪投獄された近衛兵、動かず王国を崩す ――奇行主人公の伏線回収譚  作者: らいすクリーム
第6章【偽真暗鬼・最終決戦編】毎日更新中

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第75話【 Kingslayer 】

あの事件から数日……

 


 ――王妃私室



「エリシア、そこにある鏡も運んで頂戴。お気に入りなの」


 エリザベートの弱々しさと気品が同居する声。

 その所作は生き生きとしている。てきぱきと指示を出し、侍女たちと引っ越しの荷造りをしていた。


「すべては持っていけませんので、お仕事に使わない物はあまり増やさないようにお願いします」


 身の回りの物をなんでも持っていこうとするエリザベートをミレイアが諫める。

 箱は既に詰め込んだ品々であふれそうになっていた。


「そうね……今はこの国を守る事が私の一番の仕事だものね」


 少ししんみりとした表情を見せるエリザベートをエリシアが気遣う。


「マルス王が大きくなるまでは、わたくし共がお支え致します。エリザベート王太后陛下」


「わたくしも気持ちは同じでございます。殿下が摂政となっても、周りには陛下を支えてくれる方々ばかりでございます」


「陛下、私もその一人ですよ」


 部屋に入ってきた男が会話に割って入った。

 一目見て他の近衛兵とは違う豪華な装飾の鎧。その男は兜を脱ぎ、脇に抱えた。


「あら、いらしてたのね隊長」


「はい。お引越しのお手伝いをと思ったのですが、杞憂でしたね」


 エリザベートは我が子を自慢するかのように侍女たちを眺める。


「この娘達ったら、私が摂政になると決まると張り切っちゃって……これからもっと大変になるっていうのに……」


 少し困った顔をしているが、侍女たちと一緒の安心感だろう。

 殿下の目は希望に満ちているようだった。


「アルベルト王が愛したこの国を、命がけで守ってくれたあなたたちの為にも、前を向かないと……ね」


「陛下……」


 言葉に詰まる隊長。

 エリザベートはその様子を見て優しく微笑んだ。


「いいのよ。マルス王の為にも、私は強くあるつもり」


「陛下に、忠誠を」


 隊長は王妃に最敬礼した。

 そしてエリシアとミレイアに軽く手を振り部屋を出る。




 ――前室



 警備にはリオが立っていた。


「……た、隊長!」


 緊張感のある敬礼。

 いつまでも初々しいところがリオらしい。


「警備、異常ありません!」


 ガルムの襲撃で破壊された扉や壁は、兵士と職人たちのおかげですっかり修復されていた。


「これからどちらへ向かわれるのですか?」


 何気なく世間話をしたつもりのリオだったが思わぬ返答が返ってくる。


「牢獄塔へ……行ってくる」


 牢獄塔……事件の始まりともいえる場所。


 冤罪から始まった物語は最も重い大逆罪で幕を閉じた。


 王宮は落ち着きを取り戻したが、それは表の表情だけだった。


「もしかして、彼に会いにですか?」


「ああ、ちょっと事情があってな」


 その表情に”深くは聞かない方がいい”と察したリオは、前を向き警備の姿勢に戻る。

 隊長は感慨深そうに修復された部屋を見回してからリオを見て頷き、前室を出た。


 牢獄塔の最上階へつながる連絡通路を行くと前から一人の近衛兵が歩いてくる。

 隊長を見つけると足を止め敬礼した。


「隊長、行かれるのですか?」


「おう、お前はもう会ってきたのか?」


「はい、いつもどおりでしたね……彼らしいというか」


「だろうな……」


「しかしなぜ隊長が?」


「戻った後で話す。すこし……厄介なことになった」


 何かを察したライエルはそれ以上聞かずに一礼し、足早に消えていった。

 アビスガルド王国の近衛兵は察しがいい。


 隊長は連絡通路を渡り切ると守衛と一言交わし、牢獄への扉を開けさせた。

 詰め所で手にした看守用の松明。その明かりを頼りに、昼間でも仄暗い牢獄塔の下へと降りていく。


 所々にある階段の松明と、それぞれの牢の前にある蝋燭がなければ、牢獄塔は小さな窓からの光だけ。

 その内部は牢獄に相応しい不快な湿気と暗さだった。




 ――牢獄塔、最下層



 殺人以上の重罪を犯した罪人の牢獄。


 上がらない室温、冷たい石牢、集まる湿気。


 階段から近づく足音に、鉄扉の奥から声が響く。




「誰だ……」




 隊長が牢獄の中の人物に向かって口を開く。




「……ガルド。久しいな。」




 鉄扉の奥で男が顔を上げた。


 中にいたのは、元王国近衛隊長ガルド・ヴァン・レオン。



「セブン隊長……まさか、隊長自らここに来るとは……」



 ガルドの言葉にセブンはあえてこう返す。



「……“まさか”ではない。お前がここにいる以上、私は来ざるを得ん」



 二人にしかわからないやり取り。



「脇腹は大丈夫か?」



「斬られる側の技量の問題ですよ……かすり傷です」



「斬る方の腕の良さだと思うがな」



 ガルドは安心したようにふっと笑った。セブンも思わず笑顔になる。



「しかし、前に出ることを嫌うお前が、まさか近衛兵隊長になるとはな」



 皮肉に聞こえるガルドのその言葉にセブンも皮肉交じりで返す。



「ええ、なんせ俺たちの隊長が”キングスレイヤー”になってしまったもので」



 ガルドはその言葉を、その言葉通り真面目に受け取る。



「……ただの”王殺し”だ、称号ではない」



 セブンは、拳を握り鉄扉に押し付けた。



「あなたは、この国と王の為にそれを成した。その姿勢を…私は誇りに思う」



「……」



 ガルドは何も答えない。



「ここへ来たのはあなたの忠誠を称えるためではありません……大事な話があります」



 石牢の空気そのものが、わずかに緊張して引き締まる。



「マルス王子が王に即位することが決まり、戴冠式が近々執り行われます」


「そうか……見守ってやれなくて残念だ。あのマルス坊やが次の王か」



「見守ってやりたいですか?」


「いや、俺は罪と共にある。ここを出るつもりはない」



「”あの書”に動きがあるとしても……ですか?」


「なんだと?!」


 ガルドが立ち上がる音が鉄扉の奥から聞こえる。




「抗えた者は俺とあなたしかいません……それでもここを出ないと?」


「だがな、セブン」




「隊長、その言い方は嫌いです」




「もう隊長じゃない、キングスレイヤーだ」

――最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

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