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【完結】『無能力転生』冤罪投獄された近衛兵、動かず王国を崩す ――奇行主人公の伏線回収譚  作者: らいすクリーム
第1章【冤罪牢獄・定石破壊編】

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第7話【怠惰の防衛】「三食昼寝付きで快適です」最強の隊長をパニックに陥れる、前代未聞の囚人

【前回までのあらすじ】

ガルド隊長は王妃隔離の裏で“王の権限を上書きする者”が動いていると明かし、王宮の異変が決定的になる。

セブンは王を信じたいが今は分からないと答え、隊長から近衛兵としての誇りを認められる。

次々と訪れる者たちに翻弄されながらも、セブンは「普通の無罪放免」を望む本音をついに口にした。


 ついに言ってしまった。


 冗談めかしてはいたが、本音だった。


 石牢に沈黙が落る。

 どちらも次の言葉を探しているような静けさ。


 やがて隊長の深呼吸が先手を打った。


「…お前の言う通りだ。こんな怪しいこと、普通は起きん。」


 いつもの厳格さではなく、“正直に困っている男”の声だった。


「ライエルが勝手に動き、王宮の影が牢に現れ、侍女が真相を語りに来る…。」


 頭を抱えた様な気配。


「正直に言おう。この事態に私も混乱している…。」


 その言葉は、俺の胸に妙な安心を落とす。

 吐き出した思いを受け止めてくれたことへの感謝かもしれない。


「だがな、セブン。こういう時に限って…一番巻き込まれたくない奴が、一番巻き込まれるんだ。」


 もっともらしい言葉だった。


 だが俺は、自分の人生を知っている。

 物語の主人公のような展開とは無縁だ。


 ”一番巻き込まれたくない奴”ではあるかもしれないが、

 その言葉通りに込まれたくはないし、物語の主人公でもない。


「お前は、王宮の誰よりも“まっすぐ”で、誰よりも“利用しづらい”。

 だからこそ…こういう陰謀の中では、逆に“価値”がある。」


 せっかく努力して真面目に生きて来て、近衛兵まで上り詰めたのに。


 ”逆に”というのは余計な言葉だ。逆にしなくていい。

 利用価値のない俺のままでいい。


 そう思ったが、今はさすがに言葉にできなかった。


「お前はただの被害者じゃない、それが良いことか悪いことかは…まだ分からんがな。」


 まだわからないというより、もうわかっている。

 冤罪で投獄されここにいる事実が”良いこと”なわけがない。


 俺の人生における”良いこと”というのは昇給や昇格、結婚の事だ。


「だがセブンよ。一つだけ言える。この状況で”普通の無罪放免を望むのですがいけませんか?”とまではっきり言える奴は、まだ折れていない。まだ戦える。」


 その声には、確かな信頼が宿っていた。


「巻き込まれたくないと言うのは分かる。だが、それでも前に進む気はあるか? 」


「それとも、成り行きに身を任せ囚人として自分の運命を待つだけか?」


 隊長は、俺の答えを待っている。また選択を俺に迫る者が現れた。

 またこの心に芽生えた疑問をそのまま吐き出してもよいものだろうか。


 何かがおかしい。


 皆、同じ方向へ俺を押し出そうとしている。


 善意なのか、誘導なのか。

 分からないまま、胸の奥に薄く引っかかるものが残っていた。


 ここは隊長へ対しての返答も慎重にならざるを得ない。


 俺はすこし考える。


 隊長の剣を正面から受けるのは分が悪い。

 ここは、冗談でいなすことにした。


「実は…美味いんですよ。ここの食事。

 エリシアが手を回してるらしくて朝昼晩三食、毎食全部美味しい。

 しかも朝は定時に起きる必要もなく、二度寝付きで昼寝付き…実は快適なんです。」


 しみじみとここの快適さを語って、俺は何もするつもりはないのだと思わせる。


 ガルド隊長の気配が…完全に止まった。

 俺の反撃は、ある程度の破壊力を持っていたらしい。


 隊長の膝が鉄扉に当たった。多少の震えが伝わってくる。


「…お前…牢屋を…満喫しているのか?」


 普段は鉄のように無表情な男の声に、明らかに“困惑”と“理解不能”が混ざっている。


「朝昼晩三食…二度寝…昼寝…?

 それは…それは確かに…よくよく考えれば…

 それは…環境以外は貴族の静養だ。」


 何とか俺の言葉を理解しようとしている様だ…声に苦痛が混じる。

 鉄扉の向こうで、隊長が額を押さえる気配がする。


「侍女エリシアが…そこまで…?いや、待て。それはもう“監禁”ではなく“保護”ではないか。」


 彼は本気で混乱している。こんなことは想定外だろう。

 信頼している部下が”怠惰”という武器で反撃してきたのだから。


「お前は、ただの被害者じゃない、誰かにとって、都合がいい存在なんだろうな。…落ち着けガルド。これは夢ではない。現実だ。」


 普段周りに振り回される事がないだけにパニックに陥ってる様子。


「セブン。お前は…ここに置いておく方が安全だ。」


 ガルド隊長の中で結論が出た。


「外に出れば命を狙われる。だがここなら…飯は美味いし、寝られるし、何より…お前を狙う連中が近づきにくい。」


 俺を案じての考えだったようだ。

 そして、少しだけ声を潜める。

 それでも言いたいことがある。という空気。


「だがセブン。快適でも、ここは牢だ。いつまでも“三食昼寝付き生活”は続かん。

 近いうちに…必ず動く時が来る。」


 確かにそうだ。


 だが隊長が思う”動く時”は俺の思うそれとは違うだろう。

 俺が望むのは”普通”に釈放されることそれだけだ。


 ガルド隊長は、何も言わずに背を向けた。


 重い足音が、ゆっくりと階段の方へ遠ざかっていく。

 その背中は、振り返らなかった。


 しばらくして。

 階段の上から、足音が降りてくる。


 静かに、軽やかに…そしてどこか“優雅”な気配。

 さっきまでの重たい空気とは、まるで別物だった。


 休むことなく長い階段を降り続けてきたその気配が、鉄扉の前にピタリと止まる。


「…近衛兵セブン。そこにいるのですか。」

『…………ウォォォォ…』

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