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モブ近衛兵の俺が冤罪で投獄されたが、なにやら様子がおかしい!  作者: らいすクリーム


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7/8

思わず本音が漏れたが、隊長への忠誠は絶対だ!

ついに言ってしまった…。


隊長に敬意を払いつつも多少冗談めかしてはいたが、

その裏にある“本音”は鎧の奥まで重く響く。


しばらくの沈黙、

そして次がどちらのターンになるのか、お互いに牽制しあうような空気。

やがて隊長の深呼吸が先手を打った。


「…セブン。お前の言う通りだ。こんな怪しいこと、普通は起きん。」


いつもの厳格さではなく、“正直に困っている男”の声だった。


「ライエルが勝手に動き、王宮の影が牢に現れ、侍女が真相を語りに来る…。」


鉄扉の向こうで、頭を抱えた様な気配。


「…正直に言おう。この事態に私も混乱している…。」


その言葉は、俺の胸に妙な安心を落とす。

吐き出した思いを受け止めてくれたことへの感謝かもしれない。


「だがな、セブン。こういう時に限って…一番巻き込まれたくない奴が、一番巻き込まれるんだ。」


一見名言の様なその言葉の説得力。

だが俺は俺という人間をちゃんとわきまえている。

今までの人生に物語の主人公のような展開はなかったし、これからもないだろう。


”一番巻き込まれたくない奴”ではあるかもしれないが、

その言葉通りに込まれたくはないし、物語の主人公でもない。


「お前は、王宮の誰よりも“まっすぐ”で、誰よりも“利用しづらい”。

だからこそ…こういう陰謀の中では、逆に“価値”がある。」


せっかく努力して真面目に生きて来て、近衛兵まで上り詰めたのに

”逆に”というのは余計ですよ隊長。逆にしなくていいのです。

利用価値のない俺のままでいさせてください。

俺はそう思ったが、今はさすがに言葉にできなかった。


鉄扉に再び両手を置く音がする。


「セブン。お前は巻き込まれたのではない。選ばれたんだ。

それが良いことか悪いことかは……まだ分からんがな。」


まだわからないというより、もうわかっている。

冤罪で投獄されここにいる事実が”良いこと”なわけがない。

俺の人生における”良いこと”というのは昇給や昇格、結婚の事だ。


「だが一つだけ言える。この状況で”普通の無罪放免を望むのですがいけませんか?”

とまではっきり言える奴は、まだ折れていない。まだ戦える。」


その声には、確かな信頼が宿っていた。


「セブン。巻き込まれたくないと言うのは分かる。だが…それでも前に進む気はあるか?

それとも、成り行きに身を任せ囚人として自分の運命を待つだけか?」


隊長は、俺の答えを待っている…。

だが、またこの心に芽生えた疑問をそのまま吐き出してもよいものだろうか。


しかし…まてよ…。


変ではないか?


隊長は俺が巻き込まれつつもこの陰謀の中心にいて、

覚悟を持って前に進み解決へ挑むべきだと言っているかの様だ。

そういう流れを押し付けようとしているように思える…。


なんなんだこの違和感は。

隊長だけではない、他のここへ来た人間にしてもそうだ。


ここは隊長へ対しての返答も慎重にならざるを得ない。


俺はすこし考えた…。


隊長の剣を正面から受けるのは分が悪い。

そういう時は剣を正面からまともに受けるのではなく、

受けた剣をいなして力の方向を変えるのだ。

そうすることで力の差を埋め、有利な体勢で反撃へと転じることができる。

だがこの相手に隙はない。ここは完ぺきな道化としての演技が必要になる。


「実は…美味いんですよ。ここの食事。

エリシアが手を回してるらしくて朝昼晩三食、毎食全部美味しい。

しかも朝は定時に起きる必要もなく、二度寝付きで昼寝付き…実は快適なんです。」


しみじみとここの快適さを語って、俺は何もするつもりはないのだと思わせる。


鉄扉の向こうで、ガルド隊長の気配が…完全に止まった。

俺の反撃は、石牢の空気を一瞬でひっくり返すほどの破壊力を持っていたらしい。

隊長の膝が鉄扉に当たった。多少の震えが伝わってくる。


「…お前…牢屋を…満喫しているのか?」


普段は鉄のように無表情な男の声に、明らかに“困惑”と“理解不能”が混ざっている。


「朝昼晩三食…二度寝…昼寝…?それは…それは確かに…よくよく考えれば…

それは…環境以外は貴族の静養だ。」


何とか俺の言葉を理解しようとしている様だ…声に苦痛が混じる。

鉄扉の向こうで、隊長が額を押さえる気配がする。


「侍女エリシアが…そこまで…?いや、待て。それはもう“監禁”ではなく“保護”ではないか。」


彼は本気で混乱している。こんなことは想定外だろう。

信頼している部下が”怠惰”という武器で反撃してきたのだから。


「セブン。お前…本当に陰謀に巻き込まれているのか?それとも…陰謀の中心なのか?」


声は真剣なのに、完全に振り回されている。

ガルドは深く息を吸い、まるで自分に言い聞かせるように呟く。


「…落ち着けガルド。これは夢ではない。現実だ。」


大丈夫なのか隊長は。


自分で自分を励ますだなんてのは、俺の知る限り

”がんばれ自分!”と”私かわいいアピール”するアイドルからしか

聞いたことがない言葉だ…ガルド隊長にアイドル要素があったのか。


「セブン。お前は…ここに置いておく方が安全だ。」


その声は、もはや確信に満ちていた。

”こいつには関わらないでおいたほうがいい”

ガルド隊長の中でそういう結論が出たのだろうか?


「外に出れば命を狙われる。だがここなら…飯は美味いし、寝られるし、

何より…お前を狙う連中が近づきにくい。」


俺を案じての考えだったようだ。

そして、少しだけ声を潜める。

それでも言いたいことがある。という空気。


「だがセブン。快適でも、ここは牢だ。いつまでも“三食昼寝付き生活”は続かん。

近いうちに…必ず動く時が来る。」


確かにそうだ。


だが隊長が思う”動く時”は俺の思うそれとは違うだろう。

俺が望むのは”普通”に釈放されることそれだけだ。


ガルド隊長が別れの言葉もなく力なく帰っていく。

遠ざかるその一歩一歩がゆっくり重く響いた。


この面会が試合であったとするならば、その勝敗は彼の背中で明らかだった。



しばらくして。


階段の上から、足音が降りてくる。


静かに、軽やかに…そしてどこか“優雅”な気配。


休むことなく長い階段を降り続けてきたその気配が、

鉄扉の前にピタリと止まる。


「…近衛兵セブン。そこにいるのですか。」

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