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【完結】『無能力転生』冤罪投獄された近衛兵、動かず王国を崩す ――奇行主人公の伏線回収譚  作者: らいすクリーム
第6章【偽真暗鬼・最終決戦編】毎日更新中

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第66話【空虚の回廊】――謁見、祭壇、円卓会議 そして二人が待つ王宮中央区

 王宮中央区へ急ぐセブンとアーヴィング。


「さっきの魔法で殿下の聖水の効果が分かったってことは、まだ魔力は暴走していない?」


「そうじゃな。大きな魔力増幅や暴走があれば、あの時わかっていたはずじゃ」


「じゃあまだ間に合う!急ごう」


 二人は息を切らしながらも、廊下を全力で駆け抜ける。

 セブンは走りながら、どの部屋に向かうべきか必死に考えていた。



 謁見の間――王が国民と向き合う場所。

 王家の象徴が集まる“表の間”。


 祭壇の間――王家の儀式を行う神聖な場所。

 魔力や血統に関わる“裏の間”。


 円卓会議場――王家と重臣が集う政治の中心。

 王家の決定が下される“中枢の間”。



 どれも、禁書庫での推測と一致している。

 “王家の血をひく者”と深く関わる場所。


「セブン、迷っとる顔じゃな。どこに向かうつもりじゃ?」


「目的が魔力の増幅と“魔”の召喚なら……」


「“魔力の増幅”……さらなる効果を求めるとしたら、どこが最も危険かじゃ」


 セブンは息を整え、思考を研ぎ澄ませた。


「……“祭壇の間”!」


「確かにあそこは王家の魔力を扱う儀式の場所じゃ」


「急ごう!」


 二人は王宮中央区の階段を駆け上がり、祭壇の間へ向かって一直線に走った。

 セブンはアーヴィングの歩調に合わせつつも先を急ぐ。




 ――祭壇の間


 普段なら、警備兵が二人立っているはずの場所。

 だが、そこには誰もいない。


「……警備がいないのう」


「王宮内の騒動に駆り出されてますね、おそらく」


 セブンは深く考えず、そのまま扉を押し開けた。


 ギィ……と重い音。


 中は――広い空間に、満ちる静寂。


 目を凝らし部屋内を探すセブン。


「アーヴィング、ここには誰もいないようだ」


「よく考えて探せ。すぐ見つかるような場所におるわけがないじゃろう」


 アーヴィングも続いて中に入り、周囲を探り始める。




 そのとき――




「そうじゃ祭壇じゃ!祭壇の裏を探せ!そこが人目につかず魔力を増幅できる場所じゃ!!」


「は、はい!」


 セブンは走り出し、壇上に駆け上がると、荘厳な装飾の施された祭壇の右側から裏へ回り込んだ。


 直後――


「うわあっ! あああ!!」


「殿下がおったか!!」


 祭壇の左側から、埃と蜘蛛の巣まみれのセブンが出てきた。


「いねぇじゃねーかよ! ジジイ!!」


 頭の蜘蛛の巣を払いながら怒鳴るセブンを、アーヴィングは完全に無視して出口へ向かう。


「次へ行くぞ。遊んでる暇はない!」


「くっ……!!」


「次に考えられる場所は……謁見の間じゃな」


「見つかりにくいという点ではたしかに……」


「近寄るなセブン、埃でくしゃみが出る」


「ぐっ……」


 二人は再び走り出す。


 謁見の間、祭壇の間、円卓会議場――

 王宮中央区の三つの大部屋は互いに近い。


 二人は中央に位置する謁見の間へ向かって走った。




 ――謁見の間


 外交、儀式、裁定、王の権威を象徴する巨大な空間。


 セブンとアーヴィングが到着すると、ここにも警備の姿はなかった。


「ここにも誰もいないな」


「王宮があの騒ぎじゃからな……だが……見ろセブン」


 アーヴィングが指さしたのは――天井まで届く巨大な大扉。


 豪奢な装飾が施されたその扉が、左右揃わず、開いていた。

 王の威厳を示すこの部屋の正門が、“正しくない角度”で開いている。


 その異様さに、セブンの背筋が冷たくなる。

 セブンはすぐに扉へ身を寄せ、中を覗き込んだ。


 曇り空の薄い光がステンドグラスを通り、床に淡い色を落としている。

 中央のレッドカーペットにも、左右の列柱にも、人の気配はない。


「中には……誰もいない」


 ――いや。


 静かすぎる。


「待てセブン……何かおる……」


 まだ中を見ていないアーヴィングが気配で何かに気づく。


「何かの気配が? 殿下か?」


「うむ……何かはわからんが……おる」


 セブンはもう一度中を覗く。

 やはり、柱の陰にも隠れている気配はない。



 ――しかし。



 視界の奥、玉座。


 逃げも隠れもできないその場所に――“堂々と座る人影”があった。


「……玉座に、誰かいる!!」


「なんじゃと! こんな時に……陛下か!?」


 確かに、王座は王の為のみに存在する。


「いや……少し、形が……大きく見える……ここからではわからない」


「お前、陛下以外が玉座に座れると思うか?」


「無理ですよ。近づくことすらおこがましいのに」


「そうじゃろう。では陛下じゃ。行け」


「な、なんで俺が行くんだよ!人影のシルエットが陛下じゃないのに!」


「陛下以外の者が玉座に座るなんてことがあるか?」


「……ありえないですね」


「では陛下じゃ、行ってこい」


「だ・か・ら!なんか違うんですよ!!」


「陛下じゃない者が玉座に座っておって、大扉が開かれておって……他には誰もいない……

 この状況……どう思う?」


「異常ですね……なんか強敵が待ち構えてるみたいな」


「そうじゃろ? わしゃ行かんぞ。近衛兵のお前が行け王家を守れずして何が近衛兵(ロイヤルガード)か!」


「アーヴィング宮廷魔導師様。よくお考えください。ここから玉座までの距離。もし相手が魔法でも撃ってきたらどうするんですか。俺は剣だけですよ」


 セブンは丁寧にアーヴィングを中へ案内する仕草をする。


「な、なら……一緒に行こうではないか」


「お、おう……行きましょうか」


 二人は覚悟を決め、慎重に、ゆっくりと、中へ足を踏み入れた。


「わしゃ目が悪いんじゃ……陛下か?」


「まだわかりません。薄暗くて……もう少し進みましょう」


「まてまて!真ん中は歩きたくない……へ、陛下に失礼があってはいけないからのう」


「そうですね……柱の陰に隠れながら進みましょう」


 二人は列柱の陰を伝いながら、玉座の方へと慎重に進む。

 セブンの陰に隠れながら、アーヴィングは震えて顔を伏せている。



 そして、部屋の中央あたりまで来たとき――




「!!」




 セブンはアーヴィングの肩を叩いた。


「陛下です!!王妃殿下を抱きかかえています!!」


「なんじゃと!?」


 二人は思わず柱の陰から飛び出し、玉座へ向かって跪いた。


「陛下! 王妃殿下はご無事ですか!?」


 アルベルト王は――微動だにしない。


 頭を下げたまま、返事を待つが……何も聞こえない。


「セブン、何かおかしい……」


「ですね……」


 二人が顔を上げると玉座の上、王の腕の中に抱かれた王妃は、ぐったりと力なく横たわっている。



 そして――



 王の顔が、こちらを向いていない。


 玉座の前にいるはずの二人ではなく、“どこか遠く”を見つめている。


「陛下、王妃殿下はご無事ですか……」


 セブンはもう一度、呼びかけた。

 しかしやはり反応はない。


 二人は立ち上がり、様子をうかがうため玉座に近づく。


 アルベルト王の腕の中、エリザベート王妃の意識はない。

 だが、ときより体が大きく痙攣している。

 術が発動する予兆だろうか。


「アーヴィング……王妃殿下は!?大丈夫か」


「まだ助かる!今すぐに処置すれば発動を防げる」


 アーヴィングが玉座へ向かおうとしたその時。


「おお、セブンよ……やはり来てくれたか。エリザベートを救ってくれ」


 何かに疲れたような表情。覇気のないアルベルト王。

 宰相執務室で会い、控の間で話した時とは別人のようだ。


「陛下……いかがなさいましたか!?」


「陛下、顔色がよろしくないご様子。王妃殿下をまずこちらに」




 そう言って、アーヴィングが一歩進んだ、その瞬間――




 景色が、一瞬ずれた感覚。


 気づけば、アーヴィングは元の位置に立っていた。





 そして――





「おお、セブンよ……やはり来てくれたか。エリザベートを救ってくれ」








 ◇◇◇








 王宮のどこか。


 厚いカーテンが閉ざされ、外光は一切入らない。


 ただ一つ、机の上のランプだけが、淡い橙色の光を落としていた。




 その光の中で――開かれた一冊の本。文字が書かれたページ。




 -------------------------------------------------------------------




 Narrative Puppet Cipher


 アルベルト王

 ――エリザベート王妃の降魔の儀式を完了せよ。邪魔する者は欺き、排除せよ。


 エリザベート王妃

 ――抵抗せず儀式を受け入れよ。




 Narrative Invasion


 謁見の間にて。降魔の儀式を完了せよ。

 何人も玉座の壇上へ近づくことはできない。




 -------------------------------------------------------------------



 パラ……


 パラ……


 パララララ……



 ページが勝手にめくれ始める。



 そして――



 パタン。



 黒革の背表紙が閉じた。


『…………ヴヴヴォォォ』


 低く、湿った唸り声が部屋の空気を震わせた。


 ページの小口が、薄暗い赤い光を帯びる。

 それはまるで、血管のように脈打つ。


 一度。


 二度。


 そして、すっと光が消えた。












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