第65話【魔物探知】弄られ不敬が王宮中央を指し示す件についてアーヴィングと語りたい
禁書庫の前は、兵士たちが慌ただしく行き交い、怒号と指示が飛び交っていた。
宰相ローデリヒと側近長ヴァルステインという王宮の中枢二人が死亡。
そして、王妃殿下の行方不明。
王宮は未曾有の混乱に包まれていた。
ガルド隊長は兵士に指示を飛ばしながら、禁書庫から出てくる。
「俺は司法官と話がある。この現場はすべてを見ていたライエル、お前に任せる。レオニードも関係者だ。ここに置いていくが拘束しておけ。面倒はお前が見ろ」
ライエルは敬礼する。
「はい。現場はお任せください」
「セブン、お前はどうする」
「魔法陣が作動した以上、早急に王妃殿下を捜索する必要があります。隊長、近衛兵に王宮内捜索の指示を出してください。町のほうは騎士団を動かしてもらいましょう」
「王宮内の捜索はすでに指示してある。騎士団の件も同意だ」
「魔術が絡む件は私の手に余ります。アーヴィング魔術師長の協力が必要です。俺は急いで魔術院へ向かいます」
「たしかにそれがいいだろう。セブン、頼むぞ」
事件の当事者になった者たち。
次の悲劇を止めるため、それぞれが自分の役割へ散っていった。
◇◇◇
魔術院――
禁書庫から走り続けてきたセブンがやっと到着した。
「魔術師長アーヴィング殿に取り次ぎを、王妃殿下の件、緊急です!」
その様子と”王妃殿下”という言葉を聞いて、前来た時とは違った対応。
「……わかりました。ただいまお呼びいたしますのでお待ちください」
しばらくして、長いひげを撫でながらアーヴィング魔術師長が現れた。
セブンの表情を見て、ただ事ではないと即座に察する。
「いこうか。話は歩きながら聞こう」
アーヴィングは察しがいい。年の功というやつだ。
「早急に王妃殿下を探さねばなりません」
「行方不明とは聞いたが、まだ見つかっておらんのか」
「はい、探さないでという置手紙があったので探してなかったんですよ……というのは冗談で、って冗談言ってる場合じゃないんですよ」
「お前が勝手に言っておるだけじゃ……」
「禁書庫で魔法陣が発動したんです……レオニードが言うには“魔力を爆発的に増幅させ、強力な魔を召喚する魔法”だとか」
「なっ!お前レオニードと一緒におったのか!この裏切り者め!!」
「王宮魔術師と宮廷魔術師のいざこざとか持ち込まないでくださいよめんどくさい……」
「めんどくさいとはなんじゃ、協力せんぞ」
「レオニードは黒幕に操られていた犯罪者です。協力者として囮にしてたんです」
「な!そうじゃろ!!わしは最初からあ奴らは怪しいと思ってたんじゃ!黒幕は王宮魔術師じゃ今すぐ殴り込むぞ」
「落ち着いてちゃんと聞いてくださいよもう……どこまで話しました?」
「お前が裏切り者だという所までじゃ、もったいぶらんとはよ言え」
セブンは咳払いし、真剣な表情で語り始める。
「禁書庫にあった魔法陣は、ヴァルステインを贄にすることで、別の場所にいる王妃殿下に向けて発動しました。やったのは宰相ローデリヒ」
アーヴィングの顔色が変わる。
「……まずいな。その発動からどのくらい時間が経つ」
「30分から1時間くらいでしょうか……おそらくですが」
「うむ……ヴァルステインを贄として術はすでに王妃殿下に発動しておる。
おそらくもう意識はないじゃろう」
「……!」
「殿下の魔力を核に術が魔力の増幅をはじめているころだ。魔法陣を消去しても無意味……これは、殿下を探し出して魔力が暴走する前に止めるしかない」
「時間の猶予は?」
「魔法陣に対象の体がない遠隔の状態ならば……もって30分じゃろうな」
「30分……最悪もう発動してるじゃないですか!」
「まて……禁書庫じゃと?まさか保管庫が……?」
「そのまさかです。封印された禁書も行方不明です」
アーヴィングは事の重大さに表情が硬くなる。
禁書庫、そして王族しか開けることのできない保管庫。
この後に更に大きな事件が起きるであろうことは簡単に想像できる。
「何か手掛かりはないのか」
「王妃のブローチが術に使われていましたが」
「それは……残念ながら殿下を探す手掛かりにはならんな」
「とりあえず手がかりを探しに殿下が手紙を残して消えた、私室へ向かいましょうか」
「そうじゃな……時間はないが闇雲に探すのも無駄じゃろう」
「王宮内は兵士が捜索していますので、俺たちは俺たちのやり方で行きましょう」
二人は廊下を足早に移動する。
そのとき――
「ああああああああああ!!」
とアーヴィングが大口を開けて叫んだ。
突然のことに、びっくりしたセブンの肩が跳ね上がる。
「は!?――なんだよ急に!このジジイ!!」
「ジジイとはなんじゃ!この聖水ぶっかけ変態が!!」
「俺は変だが変態ではない!」
「ちがうちがう!」
「ちがわねぇよ変態ジジイ!」
「そうじゃない!聖水じゃ!!聖水が手掛かりになる!!」
「へ?」
「おまえ王妃殿下に聖水をかけたじゃろ!聖水の効果は長い、そしてその効果を知っておるか」
「魔を祓うとは聞いたけど、近衛兵は教会でみんな渡されてるからお守りみたいなもんでしょ」
「まぁお前らはそう思っているだけかも知らんが、あれは魔物や悪魔と同時に“魔法をはじく”性質もあるのじゃ」
「はじく?」
「水と油みたいなもので、お互いに混じろうとしない。神聖魔法以外はな。」
「それが……どう関係するんですか」
「わしが広域に探知魔法を放つ――本来は魔物の反応を探すものじゃ。だがその魔法を“弱い力ではじくもの”がある。それがお前が殿下にかけた聖水じゃ!!」
「アーヴィングやはりあなたは……天才だと思ってました」
「まぁ、一国の王妃に聖水ぶっかけた天才もここにおるがな……」
セブンは無言でアーヴィングのこめかみを拳でグリグリした。
普段は休みの日に酒を飲みかわす関係だ。
「あいたたた……まて、時間がない。早速やるぞ!」
「はっ……時間がない」
そういうとセブンはあと一回だけグリッとしてからアーヴィングを離した。
「本来であれば術者であるわしを中心に効果範囲があるゆえ、王宮内の中心で発動したほうがよいのじゃが、もう時間がない。ここでやる」
「頼みます」
すると、アーヴィングが集中しブツブツと魔法の詠唱を始めた。
杖に埋め込まれた大ぶりの魔石が黄色く光りだす。
魔石に光が集まり、白くなったその瞬間――
「――魔物探知――」
アーヴィングが高く掲げた杖から広間の天井に向かって青い光が打ちあがる。
光はそのまま天井を突き抜け空まで上がり、大きくはじけた。
円く広がったその光が徐々に暗くなり周囲になじんでゆく……。
「……どうだ?」
結果を見守るセブン。
目を閉じたアーヴィングが杖を両手で握り集中している。
「……どうだ?アーヴィング」
目を閉じたアーヴィングの瞼がピクピクと痙攣する。
探知のための集中力を高めている。
「アーヴィング……どうなんだ!?」
「うるさああああいいい!!」
持っていた杖を振り、セブンの尻をバシッと叩く。
「お前は、少しは黙っておれんのか!!探知魔法の横で騒ぐ奴がおるか!!」
「いってーなジジイ!叩くことないだろ!」
「殿下を探しておるんじゃぞ!聖水の弱い反応を探して!!少しは考えろ、この変態が!!」
「で、わかったのか?だめだったのか?」
「わかるも何も、となりでお前が騒ぐから反応が乱れるわい……王宮中央じゃ!!」
セブンの顔色が変わる。
アーヴィングは、着崩れたローブを正した。
「わしらがおるのは王宮北側の広間じゃ……王妃殿下らしき魔力探知を弾く反応は……南」
「南といっても、広いぞ……」
「ここからごく近い距離の南じゃ……つまり王宮中央区……」
「”謁見の間”か”祭壇の間”……もしくは”円卓会議場”のいずれかじゃろう」
セブンはこれから向かう方向を見て、深く深呼吸した。
「アーヴィング、急ごう。殿下が危ない」
『………………ォ』




