第63話【王家の影】“王家の者”という爆弾証言――禁書庫最奥の黒い宝箱
控の間、今は完全に“尋問室”の空気をまとっていた。
アルベルトが簡素な椅子に腰を下ろす。
豪奢なガウンとの釣り合いが取れず、その姿は逆に威圧感を増していた。
ガルドとセブンは王の左右に立ち、レオニードは中央に座らされる。
死人メイクのライエルは体を揺らしながら壁に向かって歩いている……作戦遂行中だ。
存在感が薄いのか濃いのかよくわからない。
アルベルトの声が静かに響く。
「レオニード魔術師長……話せ」
その一言で、部屋の緊張が一気に張り詰めた。
レオニードは震える手を膝に置き、深く頭を垂れた。
「……陛下……」
「お前がヴァルステイン卿と通じていたと聞く。その理由を申せ」
レオニードは唇を噛み、震える声で言った。
「……わ、私は……ヴァルステイン卿に……脅されておりました……」
ガルドが横から鋭い声を上げる。
「脅されていた?何をだ」
レオニードは顔を上げ、涙目で王を見た。
「……禁書庫の……件を……見てしまったのです……」
アルベルトの表情がわずかに動いた。
セブンは息を呑んだ。
「ヴァルステイン卿は……禁書庫の禁書を……儀式に利用しようとしていました……」
アルベルトの目が細くなる。
「……禁書を、か」
「はい……ですが脅された原因は禁書ではありません……ある人物を見てしまったのです……」
セブンの背筋に冷たいものが走った。
ガルドが問う。
「お前は誰を見た?」
「……禁書庫の保管庫が開いており……祭壇の前で……ヴァルステイン卿が……“誰か”と話していたのです……」
アルベルトの眉がぴくりと動く。
「誰だ?」
「……そ、それが……顔は見えませんでした……ですが……“王家の者”であることは……間違いありません……」
その言葉に部屋の空気が一瞬で凍りついた。
ガルドが確認するように低く呟く。
「……王家の者……?」
セブンは王の横顔をちらりと見た。
アルベルトは――微動だにしない。
レオニードは喉を鳴らし、震える声で語り始めた。
「ご存じの通り……王宮図書館内の禁書庫は、管理者権限さえあれば立ち入りは可能です。ですが、その中でも特に“禁忌”とされる禁書は――封印された保管室に厳重に管理されており、触れることはできません」
ガルドが頷く。
「そうだな。 俺も警備の名目で中に入ることはできるが、その先の保管庫の中は見たことがない」
「……あの保管庫は、王家の血を持つ者、もしくは“王が認めた者”しか開けられません。 完全に封じられています」
アルベルトは静かに聞いている。
レオニードは唇を噛み、覚悟を決めたように言った。
「……ですが、ヴァルステイン卿は――その者と一緒に禁書庫の保管室に入っていたのです」
ガルドが目を見開く。
「なに……?」
セブンも息を呑む。
レオニードは震える手を握りしめた。
「私は……ヴァルステイン卿に命じられ、禁書庫の外で待機していました。しかし……中から聞こえてきたのです……“誰かと話す声”が」
アルベルトの視線が鋭くなる。
「誰だ?」
「……わかりません。ですが――王家の者であることは確かです」
部屋の空気が重くなる。その言葉の意味は重大だ。
レオニードは続ける。
「禁書庫の封印された保管室、その最奥にある“禁忌の祭壇”……そこに置かれた黒い宝箱……中身は……ただの禁書ではありません……意思を持つ書です」
「ヴァルステイン卿は……その者と結託し王妃殿下に何かを……私は何も知らされていませんが、”王家の者”の存在を知ったことで命を脅され、報酬を渡され……王宮内で暴れろと……」
「まてレオニード……お前がヴァルステイン卿を操っていたのではないのか? いままで俺たちを……だましてたのか」
ガルドがすかさず乗る——なぜか。
「おのれレオニード!……陛下、こやつは風呂に入るときまず頭から洗います」
「?……ガルド……何を申しておる」
「あ、なんでもありません!」
セブンは話を戻した。
「しかし……となると、黒幕がローデリヒ、実行犯がヴァルステイン卿……その協力者がレオニードということか」
ガルドが腕を組む。
「禁書庫の何かを使った儀式で王妃殿下の暴走を企み、陛下を陥れ、王家の転覆を狙ったか」
「……我に不満があったか、宰相よ」
その声には、裏切られた怒りと、王妃を案じる焦りが滲んでいた。
ガルドが続ける。
「まだ確証はないとはいえ、 関わった者からの証言……由々しき事態です、陛下」
「……レオニード。 お前の証言は、王家の根幹を揺るがすものだ。
虚偽であれば、その罪は計り知れぬぞ」
「……う、嘘では……ありません……私は……ヴァルステイン卿に脅され……」
セブンは王の横顔をちらりと見た。
アルベルトは――表情を変えない。
ガルドが鋭く問う。
「レオニード。王家の者とは誰だ?」
「……そ、それが……名前は……聞いておりません……」
アルベルトの指が、椅子の肘掛けをわずかに握りしめた。
誰もが――“王家の者”という言葉で同じ人物を思い浮かべていた。
だが、この場にいる誰にもその名を口にすることはできない。
まずは首謀者を捕らえるしかない。
それだけは、全員の共通認識だった。
壁際では、ライエルが任務に忠実に“傀儡”を演じている。
セブンが王へ説明する。
「陛下。現在レオニードを囮に禁書庫へ向かい、ローデリヒおよびヴァルステイン卿を捕らえる作戦の遂行中でございました」
「その過程で、ローデリヒの所在を宰相執務室で確認していたところでございました」
アルベルトは驚いたように目を見開いた。
「なんと……作戦中であったか。気づかず悪いことをした。ちょうど宰相執務室にいたものでな」
「いえ、お気遣いなく陛下」
ガルドが姿勢を正す。
「では、これより我らは作戦に戻ります」
アルベルトは二人を見据え、静かに頷いた。
「うむ。頼んだぞ、隊長。そして……セブンよ」
その声には、王としての威厳と、夫としての焦りが混じっていた。
アルベルトはレオニードに視線を向ける。
「そしてレオニード……お前の処分は、この事件の解決の後だ。
王妃が無事戻った場合恩赦を与えよう。そうならなかった場合――それはわかっておるな」
「は、はい……分かっております……」
アルベルトはさらに続ける。
壁を向いて歩いているライエルを指さし……
「あと……任務が終わったら、その傀儡の術も解け、既に死んでおるのであろう。
丁重に埋葬せよ、あのように変わり果てても我が近衛兵の兵士だ」
「ウー……ウー……」
誰も何も言える空気ではなかった。
アルベルトは椅子から立ち上がって言った。
「そうか、エリザベートのお気に入り”前室警備の近衛兵”が陰謀から命を救ってくれたか。」
「セブン、まるで物語の主人公であるな」
その声は、王ではなく、ただの夫のものだった。
『………………ヴヴォォ』




