第62話【最短直撃】禁書庫を迂回せよ。宰相失踪発覚と、王前での強制尋問、完璧な死人
ガルドは胸を張り、作戦を語り始めた。
「作戦はこうだ……まずはレオニードを歩かせる」
「隊長……」
「隊長……」
セブンとライエルが同時に呆れた声を上げる。
ガルドは手を振った。
「まて、今回はちゃんと考えている」
ガルドは大げさな咳ばらいを一つ。
「……禁書庫へ向かう」
「ほう」
ライエルが前のめりで聞く体勢になる。
ガルドは続けた。
「ヴァルステインは禁書庫に行ったという情報だった。その後、医務室での話し合いの通り、全勢力を禁書庫に集結させたが――誰もおらず、何の変化もなかった」
「しかし、今回の事件のカギは禁書庫にあると考えている。レオニードが再度禁書庫へ向かえば、ヴァルステインかローデリヒのどちらかは接触してくる可能性が高いだろう」
セブンは腕を組んだ。
「たしかにそうですね。ヴァルステインは逃亡して捜索中ですが、ローデリヒはまだ自身に容疑がかかっているとは気づいていないはず。禁書庫が絡むのならば現れる可能性は高い」
ガルドが拳を高く上げた。
「よし――囮傀儡作戦、始動だ!」
「ウー……ウー……」
ライエルが役に入る。
レオニードはもう卑屈になってしまったようだ。
「すいません……」
そこでセブンがぴしっと手を挙げた。
「はい、一つ私にも考えがあります」
「なんだ。いってみろ」
「遠回りは不要です。宰相執務室に行きましょう」
「え?」
「え?」
ガルドとライエルが同時に固まる。
セブンは当然のように続けた。
「だってそっちのほうが早いじゃないですか」
「用事があるふりして訪問。部屋にローデリヒがいたら、そのあとにレオニードとライエルを送り込んで、言質とればいいんですよ」
「お、おう……そうだな……」
ガルドは一瞬だけ沈黙し、その後、急に胸を張った。
「……俺も、そう考えていた」
セブンは無言で見つめる。
ライエルも無言で見つめる。
ガルドは真っ赤な顔で続けた。
「そこにいなかった場合、禁書庫と考えていたんだ……レオニードを歩かせてな」
「隊長……」
「隊長……」
二人の呆れ声が重なる。
エリシアが男たちをみつめ、眉をひそめた。
「あなたたち、なんかよく状況はわからないけど……大丈夫?」
死人メイクのライエルが、親指を立てた。
「大丈夫、俺がついてるからな」
表情は自信満々だが、顔色は死んでいる。
ガルドが指示を出す。
「ライエル、そういう作戦だ。お前とレオニードは遅れてついてこい。俺たちが先に宰相執務室に行ってローデリヒに接触する」
ライエルは死人顔のまま敬礼した。
「わかりました。目の届く距離で後を追います」
「よし。ローデリヒが部屋にいた場合、お前たちが接触して事件に関する証言を引き出せ」
「ライエル、お前が主役だ。見せてやれ」
ライエルは髪をかき上げ、“やる気満々の死人”を作り上げた。
「ふっ……やるときはやるぜ俺だって」
◇◇◇
死人メイクのライエルと、怯えたレオニードは、隊長たちから距離を置きギリギリ目の届く範囲で後を追っていた。
全員同時に目撃されては作戦が破綻する。
二組はそれぞれ自然に距離を保ちながら廊下を進む。
一団は王宮の静かな回廊をまっすぐ宰相執務室へ向かっていた。
ガルドは歩きながら低く言う。
「……よし、ここからは自然にいくぞ。あくまで“用事があって訪問しただけ”だ」
「了解です。隊長、自然体でお願いしますよ。緊張してると逆に怪しいですから」
「緊張などしてない」
「してますね」
「してない!」
そんな小声の押し問答をしながら、二人は宰相執務室の前に到着した。
重厚な木製の扉。金の装飾。王宮の中でも特に格式の高い部屋だ。
ガルドは深呼吸し、セブンに目で合図する。
セブンは頷き、姿勢を正す。
そして――
コン、コン。
静かな廊下に、丁寧なノックの音が響いた。
「宰相ローデリヒ殿! 近衛兵隊長ガルド・ヴァン・レオン、お話があり参りました!」
セブンは横で、息を潜める。
扉の向こうは静まり返っている。
しばらく待つが……
返事は――ない。
「隊長、念のためもう一回いきましょう」
ガルドは頷き、今度は少し強めにノックする。
コン、コン、コン。
「宰相殿!至急お伝えしたい件がございます!」
廊下に緊張が走る。
後方では、死人メイクのライエルが通路の角から覗き込み、レオニードが震えながら祈っていた。
セブンは扉に耳を当て、中の気配を探る。
「……隊長。中に誰かいます」
ガルドの表情が引き締まる。
「ローデリヒか……?」
セブンは首を横に振る。
「いえ、わかりません……足音が!……こちらに来ます。」
ガルドは剣の柄に手を添えた。
「……誰だ?」
重厚な扉が静かに開いた。
その瞬間、セブンとガルドの視界に飛び込んできたのは――“予想外の人物”だった。
アーネスト・グレイ――宰相直属の秘書官。
冷静沈着、ローデリヒの右腕と呼ばれる男。
アーネストは書類を抱えたまま、扉の前に立つ二人を見て目を丸くした。
「……ガルド隊長殿? それに……セブン殿?」
「アーネストさん。宰相殿に急ぎ確認したい件がありまして」
アーネストは眉をひそめた。
「……宰相に、ですか。しかし――」
「宰相殿は在室か?」
アーネストは静かに首を振った。
「いいえ。 宰相は本日、まだ執務室に姿を見せておりません。」
セブンとガルドは同時に息を呑む。
アーネストは続けた。
「それどころか、昨夜から宰相の所在が確認できていないのです。」
「消えた、と……アーネスト殿。 宰相殿が最後に確認されたのはどこだ?」
アーネストは書類を胸に抱え直し、静かに答えた。
「王宮内の図書室……禁書庫あたりだと耳にしておりました」
その時、部屋の奥から重厚な声の響き――
「どなたかな?」
部屋の奥から声が聞こえ、アーネストが慌てて振り返る。
「陛下、近衛兵隊長ガルド殿とセブン殿です」
「おお……」
本を片手に、アルベルド王がゆっくりと姿を現した。
「アーネストよ、私はこれにて失礼する」
「はっ。ローデリヒ様がお戻りになられましたら、陛下のご訪問をお伝えいたします」
「うむ。よろしく頼む」
アルベルトは自然な所作で「では行こうか」と二人を促し、廊下へ出た。
王に続き歩きながらガルドが頭を下げる。
「陛下、ここにおられましたか」
アルベルトはゆっくり歩きながら静かに話し始める。
「お前たちに宰相の件を託した後、かの者が昨日から姿を見せていないと聞いてな。気になってアーネストを訪ねたのだ」
「で、いかがでしたか?」
「うむ。あの通り、昨日から行方不明のままだそうだ。どうなっておる王宮は……」
アルベルトの声には苛立ちと不安が混じっていた。
三人は歩きながら、周囲に気を配りつつ会話を続ける。
「ヴァルステイン卿が王妃殿下の命を狙い、このセブンがそれを阻止しました。現在行方を追っておりますが、まだ姿を見せません」
「その事件は聞いていた。しかしお前だったか……命の恩人であるな、セブン。よくやってくれた」
「いえ、任務を果たしただけにございます」
ガルドが続ける。
「そして、レオニードを捕らえました。逃亡しているヴァルステイン卿に指示を出していたのが王宮魔術師長レオニードでした」
アルベルトの表情がより険しくなる。
「なんだと、この王宮内に裏切り者が……こうも次々と……」
アルベルトは深くため息をついた。
「だがこれもみな、私の責任か……」
その顔には悲しみと、王妃を案じる怒りが入り混じっていた。
ガルドが続ける。
「そしてこの二人は禁書庫に侵入しようとしていたようです。何か目的があって向かったのでしょう。それが何なのかはまだつかめておりませんが……」
セブンが口を開く。
「陛下。 侍女の証言です。禁書庫の魔術書で王妃殿下の魔力系統を照合し、暴走させる計画だったと」
アルベルトの目が驚きで大きく見開かれた。
「なんだと!?」
王妃へ危害が及ぶ可能性がある。当然の反応。
「目的やその情報の真偽はまだわかっておりません。――本人に確認すればよいかと」
ガルドがセブンを見て眉をひそめる。
「誰にだ? 何か、新たな情報源があるのか」
セブンは、周囲をうかがう。
「情報源というか――本人に」
そう言うとセブンは小走りで移動し、曲がり角の陰に隠れていたレオニードを強引に引っ張り出してきた。
その後ろをのそのそと、死人メイクのライエルもついてくる。
役割をきっちり演じている様だ。
アルベルトは目を丸くした。
「な、なにごとだ!?」
ガルドが怒鳴る。
「ふざけるなセブン! 陛下の御前だぞ!」
セブンは軽く頭を下げた。
「失礼しました。 レオニード、えーと……犯罪者ですが現在、囮として利用しています」
「すいません陛下………すいません……」
ライエルがやっと追いついてくる。
アルベルトは驚愕しつつも、ゆっくりとレオニードを見下ろした。
「……レオニードよ。お前は何をしようとしていた?」
レオニードは震えながら顔を上げた。
「……すいません……すいません……すべて……話します……」
廊下の空気が一気に張り詰めた。
「陛下、場所を変えましょう……」
セブンの提案に、アルベルトも静かに頷いた。
こうして――
『揺れ歩く死人、怯える魔術師、本を抱えた国王、屈強な近衛兵隊長そして、ごく普通の近衛兵』
という異様な集団は、足早に控の間へ移動した。
「ウー……ウー……」
『………………ヴヴ』
ここまで読んでくださりありがとうございます。もし少しでも気になる点があれば、気軽に一言いただけると嬉しいです。まだ感想欄は静かですが、こっそり初感想…第一声お待ちしています。




