第61話【偽装傀儡】監視と護衛の両立。時短メイクで完成する『いいこと思いついた』作戦
控の間に戻った二人とライエルは簡易の作戦卓を囲んで座った。
ガルド隊長は腕を組み、獲物を前にした猛獣のような目でセブンを覗き込む。
「さてセブン。囮のレオニード――どう使う?」
「隊長……勢いづいているところ申し訳ないのですが」
「なんだ、セブン」
「とりあえず俺は”前室近衛兵に戻る”っていう選択肢は……」
「ない」
ガルドの即答が鋭く突き刺さる。
「あるわけがなかろう! 王妃が失踪した今、お前が警備に戻って何を守るというのだ」
「……ですよね」
セブンは肩を落とす。
ガルドはさらに畳みかける。
「陛下から正式に任されたのだぞ。王命であることを忘れるな」
「……はい」
「そして隊長の俺からの命令でもある。セブン、宰相を捕らえるぞ」
「……はい」
横でライエルがにやにやしている。
「俺はレオニードを守るだけ。セブン、お前が美味しいところ持っていくんだから、うまくやれよ」
セブンは天井を見上げた。
「ここに来て逃げられない“物語の強制力”に乗せられている気がしないでもない」
「馬鹿なことを言うな。 俺の言ってることは理屈が通っているだろう。物語の強制などではない」
「……はい」
「しかし、どうしましょうかね。作戦」
ガルドは拳を叩きつけるように言う。
「まずはレオニードを歩かせる!」
「ひっ!」
「隊長……それはさすがに雑すぎます」
ライエルの指摘は正しい。
「いや、こいつが動けばローデリヒは必ず反応する。そこを俺たちが押さえる!」
「それが雑だと……」
セブンは眉をひそめる。
「隊長……それ、作戦というより……“レオニードを放牧する”だけでは……」
「放牧……!?」
「大丈夫だ。ライエルが護衛につく。セブンが俺と一緒にローデリヒを捕まえる」
「隊長。それは作戦ではありません」
一騎当千。だが猪突猛進。隊長はどうやら作戦向きではない。
そのとき――セブンがぽんと手を叩いた。
「いいこと思いついた!!」
ガルドとライエルの背筋に同時に悪寒が走る。
誰かが『いいこと思いついた』と言い出した時の案は、大抵ろくでもない。
王宮の鉄則である。
セブンは真剣な顔で言い出した。
「ライエルはレオニードを監視しながら守らなければいけない……」
「しかし!近くにいなければいけないが、近くにいてはバレてしまう!」
ライエルは腕を組みながら頷く。
「まぁそうだな……そういうことになるな」
「この問題を解決する方法を思いつきました。完璧な”解”を」
ガルドが身を乗り出す。
「言ってみろ」
「ちょっと待っててくださいね」
そう言うと、セブンは黙ってレオニードの横にしゃがみ込み、耳元で何かをコソコソと囁いた。
レオニードの顔がみるみる青ざめていく。
ガルドとライエルには何も聞こえない。
ガルドが眉をひそめる。
「セブン、どういうことだ……“解”とはなんだ」
セブンは立ち上がり、パチンと指を鳴らした。
「やれ」
レオニードは震える手を前に出し、小声で魔法を唱え始めた。
「……忘却の檻……」
拘束された両手が青白く光り出す。
突然のことに、ガルドとライエルは同時に身構えた。
「なっ――!」
ガルドが反射的に剣を抜き、レオニードの首に突き立てる。
「待ってください!」
セブンが慌てて制止する。
レオニードは涙目で叫んだ。
「セ、セブンさん……!い、今はこれが限界……!魔力がもう……」
ヴォン!!
レオニードの手から放たれた小さな青い光が、一直線にライエルのこめかみを直撃した。
「うあああああああああああああ!!」
ライエルが椅子ごとひっくり返る。
ガルド隊長が上段に振りかぶり、レオニードを狙う。
「セブン!何をした!!」
セブンは大きく両手を広げ、隊長を制止する。
「待ってください隊長!これは作戦です!!」
レオニードは自分がやったことに怯え、拘束されたまま土下座しそうな勢いで謝り続ける。
「すいません!すいません!!」
セブンはガルドをなだめ、したり顔で説明を始めた。
「隊長、これです。これこそが俺が導き出した“解”」
倒れたライエルがゆっくりと体を起こす。
その動きは、ついさっき尋問前に戦った”精神干渉魔法で操られた近衛兵”のそれだった。
魔法の効果で目がうつろになり、死人のような顔色のライエル。
セブンはそれを指さし、声高らかに宣言する。
「魔法によって傀儡になった警護として!レオニードの隣に置くんですよ!!」
目を見開き、“どうだ!”と言わんばかりのドヤ顔。
ガルドは眉をひそめた。
まだ納得はしていない顔。
「けどな……セブン……」
「はい?」
「こいつ……本当にただの傀儡になってるじゃないか。 意識はあるのか?」
ライエルは立ったまま体を左右に揺らし、動く死人のようだ。
「ウー……ウー……」
「いえ、これはただの死人のような傀儡です」
「ダメじゃないか」
「だめです」
ガルドはついに怒鳴った。
「あのなセブン!ふざけるのもいい加減にしろ、あと一歩で黒幕に手が届くんだぞ!!」
怒り半分、呆れ半分。
だがセブンの奇行には免疫があるので激昂ではない。
そのガルドに対しセブンは涼しい顔で言った。
「隊長……俺がそんな浅はかな考えをするとでも?」
ガルドの脳裏に稲妻が走る。
「……なん!!だと!?」
セブンは人差し指を立て説明する。
「ライエルにはこの傀儡"メイク”と“動き”をしてもらいます。 もちろん素のライエルのままで!!」
ガルドとライエルは無言で見合った。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
しばしの沈黙。
そして――
「でかした、セブン!!完璧な作戦だ!!」
ガルド隊長は勢いよく立ち上がり、ドカッと扉を開け、王妃の私室へ走っていった。
――数分後。
荒らされた王妃の部屋。
そこで片づけをしていた侍女エリシアを連れ帰ってきた。
その手には――『化粧道具一式』
エリシアは困惑した顔で言う。
「あの、ガルド隊長? これは……何に?」
セブンは自信たっぷりに言う。
「ライエルを“完璧な傀儡”に仕上げるためです」
「ウー……ウー……」
「……え?」
「よしエリシア! ライエルを“死人っぽく”してくれ!!」
「え!?これ、ライエル死んだの!?」
その時――
レオニードの残り少ない魔力でかけた忘却の檻の効果が消滅する。
シュン!
という鋭い音の後、ライエルの顔色と意識が戻っていく。
「はっ?……俺、いま何を……」
ガルド隊長が腕組みをして頷く。
「今のを見たなエリシア……あの死人のような顔色、仕上げてくれ」
「え?え?」
十分な説明がないまま、王妃付きの侍女を自分たちの『いいこと思いついた』に勢いで巻き込む男達。
「ライエルを、頼む。仕上げてくれ!!」
ガルド隊長が”作戦成功を信じて疑わない笑顔”でエリシアに言った。
セブンがあわてて困惑するエリシアに説明する。
「あ!ごめんエリシア、ライエルをさっきの死人みたいなメイクにしてくれ」
「俺が……死人!?」
ライエルは意識がなかったため、もちろん何も理解していない。
「ライエルが……死人!?」
「よろしく頼む!」
――結局、隊長からは何も説明されなかった。
そして――数分後。
出来上がった死人メイクを鏡で見て固まる金髪イケメンが一人。
その何とも言えない反応をよそに、ガルド隊長が宣言する。
「では!囮傀儡作戦を開始する!!」
『…………………………』




