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【完結】『無能力転生』冤罪投獄された近衛兵、動かず王国を崩す ――奇行主人公の伏線回収譚  作者: らいすクリーム
第5章【虚妄真実・禁忌解体編】

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第61話【偽装傀儡】監視と護衛の両立。時短メイクで完成する『いいこと思いついた』作戦

 控の間に戻った二人とライエルは簡易の作戦卓を囲んで座った。


 ガルド隊長は腕を組み、獲物を前にした猛獣のような目でセブンを覗き込む。


「さてセブン。囮のレオニード――どう使う?」


「隊長……勢いづいているところ申し訳ないのですが」


「なんだ、セブン」


「とりあえず俺は”前室近衛兵に戻る”っていう選択肢は……」


「ない」


 ガルドの即答が鋭く突き刺さる。


「あるわけがなかろう! 王妃が失踪した今、お前が警備に戻って何を守るというのだ」


「……ですよね」


 セブンは肩を落とす。

 ガルドはさらに畳みかける。


「陛下から正式に任されたのだぞ。王命であることを忘れるな」


「……はい」


「そして隊長の俺からの命令でもある。セブン、宰相を捕らえるぞ」


「……はい」


 横でライエルがにやにやしている。


「俺はレオニードを守るだけ。セブン、お前が美味しいところ持っていくんだから、うまくやれよ」


 セブンは天井を見上げた。


「ここに来て逃げられない“物語の強制力”に乗せられている気がしないでもない」


「馬鹿なことを言うな。 俺の言ってることは理屈が通っているだろう。物語の強制などではない」


「……はい」


「しかし、どうしましょうかね。作戦」


 ガルドは拳を叩きつけるように言う。


「まずはレオニードを歩かせる!」


「ひっ!」


「隊長……それはさすがに雑すぎます」


 ライエルの指摘は正しい。


「いや、こいつが動けばローデリヒは必ず反応する。そこを俺たちが押さえる!」


「それが雑だと……」


 セブンは眉をひそめる。


「隊長……それ、作戦というより……“レオニードを放牧する”だけでは……」


「放牧……!?」


「大丈夫だ。ライエルが護衛につく。セブンが俺と一緒にローデリヒを捕まえる」


「隊長。それは作戦ではありません」


 一騎当千。だが猪突猛進。隊長はどうやら作戦向きではない。



 そのとき――セブンがぽんと手を叩いた。


「いいこと思いついた!!」


 ガルドとライエルの背筋に同時に悪寒が走る。

 誰かが『いいこと思いついた』と言い出した時の案は、大抵ろくでもない。


 王宮の鉄則である。


 セブンは真剣な顔で言い出した。


「ライエルはレオニードを監視しながら守らなければいけない……」


「しかし!近くにいなければいけないが、近くにいてはバレてしまう!」


 ライエルは腕を組みながら頷く。


「まぁそうだな……そういうことになるな」


「この問題を解決する方法を思いつきました。完璧な”解”を」


 ガルドが身を乗り出す。


「言ってみろ」


「ちょっと待っててくださいね」


 そう言うと、セブンは黙ってレオニードの横にしゃがみ込み、耳元で何かをコソコソと囁いた。


 レオニードの顔がみるみる青ざめていく。

 ガルドとライエルには何も聞こえない。


 ガルドが眉をひそめる。


「セブン、どういうことだ……“解”とはなんだ」


 セブンは立ち上がり、パチンと指を鳴らした。


「やれ」


 レオニードは震える手を前に出し、小声で魔法を唱え始めた。


「……忘却の檻(レテ・プリズン)……」


 拘束された両手が青白く光り出す。


 突然のことに、ガルドとライエルは同時に身構えた。


「なっ――!」


 ガルドが反射的に剣を抜き、レオニードの首に突き立てる。


「待ってください!」


 セブンが慌てて制止する。


 レオニードは涙目で叫んだ。


「セ、セブンさん……!い、今はこれが限界……!魔力がもう……」


 ヴォン!!


 レオニードの手から放たれた小さな青い光が、一直線にライエルのこめかみを直撃した。


「うあああああああああああああ!!」


 ライエルが椅子ごとひっくり返る。


 ガルド隊長が上段に振りかぶり、レオニードを狙う。


「セブン!何をした!!」


 セブンは大きく両手を広げ、隊長を制止する。


「待ってください隊長!これは作戦です!!」


 レオニードは自分がやったことに怯え、拘束されたまま土下座しそうな勢いで謝り続ける。


「すいません!すいません!!」


 セブンはガルドをなだめ、したり顔で説明を始めた。


「隊長、これです。これこそが俺が導き出した“解”」


 倒れたライエルがゆっくりと体を起こす。


 その動きは、ついさっき尋問前に戦った”精神干渉魔法で操られた近衛兵”のそれだった。


 魔法の効果で目がうつろになり、死人のような顔色のライエル。

 セブンはそれを指さし、声高らかに宣言する。


「魔法によって傀儡になった警護として!レオニードの隣に置くんですよ!!」


 目を見開き、“どうだ!”と言わんばかりのドヤ顔。


 ガルドは眉をひそめた。

 まだ納得はしていない顔。



「けどな……セブン……」



「はい?」



「こいつ……本当にただの傀儡になってるじゃないか。 意識はあるのか?」



 ライエルは立ったまま体を左右に揺らし、動く死人のようだ。



「ウー……ウー……」



「いえ、これはただの死人のような傀儡です」



「ダメじゃないか」



「だめです」



 ガルドはついに怒鳴った。


「あのなセブン!ふざけるのもいい加減にしろ、あと一歩で黒幕に手が届くんだぞ!!」


 怒り半分、呆れ半分。

 だがセブンの奇行には免疫があるので激昂ではない。


 そのガルドに対しセブンは涼しい顔で言った。


「隊長……俺がそんな浅はかな考えをするとでも?」


 ガルドの脳裏に稲妻が走る。



「……なん!!だと!?」



 セブンは人差し指を立て説明する。


「ライエルにはこの傀儡"メイク”と“動き”をしてもらいます。 もちろん素のライエルのままで!!」


 ガルドとライエルは無言で見合った。




「・・・・・・・・・・。」




「・・・・・・・・・・。」





 しばしの沈黙。




 そして――




「でかした、セブン!!完璧な作戦だ!!」


 ガルド隊長は勢いよく立ち上がり、ドカッと扉を開け、王妃の私室へ走っていった。




 ――数分後。




 荒らされた王妃の部屋。

 そこで片づけをしていた侍女エリシアを連れ帰ってきた。


 その手には――『化粧道具一式』


 エリシアは困惑した顔で言う。


「あの、ガルド隊長? これは……何に?」


 セブンは自信たっぷりに言う。


「ライエルを“完璧な傀儡”に仕上げるためです」



「ウー……ウー……」



「……え?」


「よしエリシア! ライエルを“死人っぽく”してくれ!!」


「え!?これ、ライエル死んだの!?」


 その時――


 レオニードの残り少ない魔力でかけた忘却の檻(レテ・プリズン)の効果が消滅する。


 シュン!


 という鋭い音の後、ライエルの顔色と意識が戻っていく。


「はっ?……俺、いま何を……」


 ガルド隊長が腕組みをして頷く。


「今のを見たなエリシア……あの死人のような顔色、仕上げてくれ」


「え?え?」


 十分な説明がないまま、王妃付きの侍女を自分たちの『いいこと思いついた』に勢いで巻き込む男達。


「ライエルを、頼む。仕上げてくれ!!」


 ガルド隊長が”作戦成功を信じて疑わない笑顔”でエリシアに言った。

 セブンがあわてて困惑するエリシアに説明する。


「あ!ごめんエリシア、ライエルをさっきの死人みたいなメイクにしてくれ」


「俺が……死人!?」


 ライエルは意識がなかったため、もちろん何も理解していない。


「ライエルが……死人!?」


「よろしく頼む!」


 ――結局、隊長からは何も説明されなかった。





 そして――数分後。





 出来上がった死人メイクを鏡で見て固まる金髪イケメンが一人。

 その何とも言えない反応をよそに、ガルド隊長が宣言する。




「では!(レオニード)傀儡(ライエル)作戦を開始する!!」



『…………………………』

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