第59話【線なき陰謀】物語は繋がらない。点を潰すため宰相を不敬罪で逮捕、囮始動
【前回までのあらすじ】
冤罪投獄から始まった一連の陰謀を整理し終えた近衛兵セブンは、拘束されたレオニードを前に、事件の全体像を俯瞰している。
ヴァルステイン卿の策謀、王妃の軟禁、禁書庫騒動、ガルムの急襲、そして今回の襲撃――すべてが“繋がっているようで繋がっていない”不自然な流れだった。
偶然ではなく“配置された出来事”だと見抜いたセブンは、ついに核心へ踏み込む――「物語って、なんです?」
「物語って、なんです?」
その声だけが、妙に静かだった。
「俺が勝手にそう呼んでるだけですけど。 本当に、あるんですか?」
隊長は慌てて手を振る。
「おい!やめろ!身もふたもないことを言うな!」
セブンは続ける。
「いや、実際にこの世界が何かの物語に沿って、勇者が魔王を倒すストーリーみたいなものが用意されてたとしましょうよ」
隊長は腕を組む。
「……まぁそういう冒険譚はあるがな」
「勧善懲悪で黒幕を倒す――そういう分かりやすい話なら理解できますけど」
セブンは自分を指差す。
「俺みたいなモブ近衛兵つかまえて振り回すとか、ちょっと目的が分からなくないですか?」
隊長は顎をさすりながら言う。
「そういわれると……実際お前、任務は真面目だが……まぁ、地味だな」
セブンは無言で隊長を見る。
「隊長……物語に頼んで本格的に主人公にしましょうか……?」
隊長は慌てて両手を振る。
「あ、お、すまん!すまん! 他意はない! あはははは……!」
レオニードは怯えながら黙って聞いている。
セブンはレオニードに視線を向けた。
「レオニード。さっきから黙ってるけど、補足とかあったら言ってほしいんだよなぁ」
「あ……はい……なにかあれば……はい」
「好きな食べ物は?」
「り、リンゴ……もう……許してください……」
「俺も好きだぞリンゴは」
隊長が空気を読まずに言う。
セブンはため息をつく。
「話を戻しましょう」
隊長とレオニードが姿勢を正す。
「ここまでの話を整理するとですね。やっぱり事件が綺麗には繋がってないんですよ」
「ローデリヒ宰相の話だって、突撃してきて無駄に負けた、この人の口から聞いたわけで」
レオニードが小さく震える。
「徐々に陰謀が暴かれるみたいな、うまいつながり方じゃなくて、やっぱり置き方が点と点になっちゃってて、線で奇麗に繋がってない」
隊長が真剣な顔で問う。
「セブン、何が言いたい」
セブンは静かに言った。
「隊長……この一連の事件……」
二人が息を呑む。
セブンは胸に手を当て、堂々と言い放った。
「――さっぱり、わかりません」
隊長は盛大にこけた。
レオニードは泣きそうな顔でうつむいた。
セブンは真顔のまま続ける。
「いや、本当にわからないんですよ」
「繋がってるようで繋がってない――でも“誰かが繋げようとしてる”気配だけはある」
隊長は頭を抱えた。
「……お前……本当に主人公じゃないのか……?」
セブンは肩をすくめる。
「だから言ってるじゃないですか。俺はただの近衛兵ですよ」
しかし――その“ただの近衛兵”だけが、この世界の“物語の綻び”に気づき始めていた。
セブンは軽く指を鳴らし、さらっと言った。
「隊長、こうなったらローデリヒ宰相……捕まえちゃいましょ?」
ガルド隊長は目を丸くする。
「お、おいセブン……お前、宰相を捕まえるって簡単に……。確かお前、ヴァルステイン卿の時も倒しに行こうとか言ってたな」
セブンは胸を張る。
「実は、俺――知ってるんです……」
「罪状を“不敬罪”にすれば、”冤罪”でもとりあえず牢獄にぶち込めるって」
隊長は盛大にむせて思わず唾を飛ばす。
「お!、おまっ……! 報復か!!」
「いやいや、そんなそんな大げさな」
レオニードが震えながら口を挟む。
「そ、そんな……滅茶苦茶な……」
「ヴァルステイン卿に、”そんな無茶苦茶”されたんですが――なにか?」
レオニードが下を向く。
セブンはレオニードに向き直る。
「レオニード。お前、ローデリヒに命令されたんだよな?」
「……は、はい……」
「じゃあローデリヒは“王妃殿下に不敬を働いた疑い”で拘束できますよね?」
レオニードは一瞬固まり、“あ、確かに……”という顔になる。
隊長は頭を抱えた。
「セブン……お前、法の穴を突くのが上手すぎる……」
セブンは真顔で言う。
「だって、事件が点と点で繋がってないんですよ。だったら点を一つずつ潰していくしかないじゃないですか」
隊長は腕を組み、深くうなずく。
「……まぁ、確かにローデリヒを捕まえれば何か分かるかもしれん……」
「しかもローデリヒは“宰相”。 宰相が動けば、流れは一気に変わる」
隊長は苦笑しながらも、どこか嬉しそうだ。
「お前……本当に主人公じゃないのか……?」
「違います」
隊長はまた力こぶを作る。
「しかし……宰相を捕まえるのは……悪くないな……!」
レオニードは青ざめたまま震えている。
「……あの……本当に……捕まえるんですか……?」
セブンはにっこり笑い、剣を抜き高く掲げ、宣言する。
「ローデリヒ・ヴァレンシュタイン――不敬罪で逮捕ォ!」
隊長は剣の柄に手を置き、にやりと笑った。
「よし……行くか、セブン」
セブンは軽く手を叩き、まるで昼食のメニューでも決めるような気軽さで言った。
「で、レオニード」
レオニードが己の処分を待つ……。
「お前、囮な」
レオニードの顔から血の気が引いた。
「えっ……あっ……あの……囮……とは……?」
ガルド隊長は「また始まった」という顔をしながらも、どこか楽しそうに腕を組む。
「セブン……それいいかもしれんな」
セブンは真顔で説明する。
「だってローデリヒを捕まえるには“証拠”が必要じゃないですか。でも絶対に尻尾を出さない。なら――尻尾を出すしかない状況を作る」
レオニードは椅子の上で震えながら叫ぶ。
「な、なぜ私が……!? 私はもう……十分……辱められたのでは……!」
セブンは淡々と言う。
「お前が動けば、宰相は動く」
「……は、はい……」
「つまり宰相は“お前を使って何かをさせた”ってことだ。なら、お前が動けば宰相はまた反応する。 そこを隊長が捕まえる」
隊長は頷く。
「なるほどな。レオニードが動けば、宰相は必ず何か仕掛けてくる……それを逆手に取るわけか」
レオニードは涙目で訴える。
「ま、待ってくれ……! 私は……もう……精神的に……限界で……!」
セブンは優しい声で言う。
「大丈夫。 お前はただ歩くだけでいい」
「歩くだけ……?」
「そう。歩くだけで宰相が勝手に動く。お前はローデリヒを動かす“起爆装置”なんだよ」
レオニードは震えながら呟く。
「……そんな……私は……起爆? 爆ぜるんですか? 私、爆発するんですか?」
隊長は肩を叩く。
「安心しろ。お前が餌になる間に、俺が本丸を落とす」
セブンはにっこり笑う。
「というわけで――レオニード、囮作戦開始」
レオニードは椅子の上で崩れ落ちた。
「……私の人生は、いつからこんなことに……」
その問いに、誰も答えなかった。




