第58話【世界の違和感】偶然か、配置か。セブンが触れた“筋書き”の気配、隊長は主人公?
【前回までのあらすじ】
事件の裏で動いていたのは、宰相ローデリヒ・ヴァレンシュタイン。禁書庫の異変と呪具の持ち出し、そして“王妃の前室近衛兵”であるセブンに着せられた冤罪――すべては王妃の魔力を暴走させるための布石だった。
恋バナでレオニードの“匂わせ”を粉砕したセブンは、ついに黒幕にたどり着く――さて、次はどうやって関わらずに済ませるかが問題だ。
隊長が、やけに誇らしげに胸を張る。
「……よし。セブン、これで事件の全体像はつかめたな」
セブンは腕を組んだまま、眉をひそめる。
「……でも、引っかかるんですよ」
ガルド隊長が片眉を上げる。
「なにがだ」
「一つ一つが、薄いんです。……繋がりが」
隊長は呆れたように鼻を鳴らす。
「お前がそれを言うかセブン……まったく。 お前が牢獄から急に走り出したり、王妃殿下に聖水をかけたりするからだろ」
セブンは即座に反論する。
「いやいや、俺のは“突発的”じゃなくて“計画性のない奇行”です。事件のほうは……なんか違うんですよ」
「どう違うんだ」
セブンは少し考え、言葉を選ぶように続ける。
「……全部が“不自然”なんです。鍵が勝手に動いたタイミングも、呪具が持ち出された時期も、王妃殿下の失踪も……レオニードが俺を追ってきたのも」
隊長は腕を組み直し、真剣な顔になる。
「偶然が重なりすぎている、ということか」
「まるで……筋書きでもあるみたいな」
レオニードは拘束されたまま、顔を伏せている。その肩が、セブンの言葉に反応するようにわずかに震えた。
ガルド隊長は深く息を吐く。
「……セブン。お前、また妙なことを言い出したな」
「妙じゃないですよ隊長。だって、事件の流れが自然じゃないんです。誰かが……こう動けって押し付けてるみたいに」
隊長は目を細めてた。
「……まぁ俺の見立てでは、この世界“物語”が『面白おかしい王道ストーリー』の主人公に俺を仕立てようとしてると思ってるんですけどね」
隊長は目をむく。
「お前……そこまではっきり言うか」
「でもそれにしては不自然に俺が巻き込まれて、繋がってるような繋がってないような事件がポンポン置かれてるんです。……こんな雑な展開、脚本としては三流です」
隊長は額を押さえる。
「おまえな……また“物語”が怒って、ローデリヒでも飛んできたらどうする」
セブンは肩をすくめる。
「いや、来るなら来るで……」
「隊長、ここまでの流れを整理しましょう」
ガルド隊長は「また始まった」という顔をしながらも、黙って聞く姿勢を取る。
「まず俺が冤罪で投獄される。あれはヴァルステイン卿が俺を王妃暗殺の犯人に仕立てて殺すためだった」
「……ああ、そうだな」
「王妃殿下への無礼で投獄になったのは、即投獄できて都合がいいから。そして殺害はその後で、と考えていた」
「ですよね」
「うむ」
セブンは指を折りながら続ける。
「王妃殿下はヴァルステイン一味に軟禁されていた。王妃をそうしていたのは、ヴァルステインに“王妃を守るためだ”と騙されたロルフとダリオ。こいつらは所詮、使い捨ての駒です」
ガルド隊長が苦笑する。
「使い捨てって……」
「ただの事実ですよ。で、その後に俺がヴァルステイン卿の観測魔法を見破ったのに、隊長とライエルが取り逃がす事件があって……」
隊長は目をそらし、口の中で何かをもごもご言う。
「あ、あれはだな……その……あれだ……」
セブンは続ける。
「あの時放たれたガルム。あれは陰謀なんて曖昧なものじゃない。ただの、明確な殺意です」
「確かに、ガルムの急襲で部屋も前室も派手に破壊されたしな」
隊長はため息をつく。
「おまえ……なんだかんだでよく倒したな」
「……まぁ主人公なんで」
「お前は、どっちなんだ…まったく」
隊長は呆れている。
「はいはい。で、ここからが本題です」
セブンは急に真顔になった。
「事件が全部“繋がってるようで繋がってない”んですよ」
隊長は眉をひそめる。
「どういう意味だ」
「全部が“自然に起きた事件”じゃなくて……“誰かが置いたイベント”みたいに見えるんです」
隊長は呆れたように肩をすくめる。
「……またそれか」
「いや、真面目な話ですよ。俺が牢獄から急に走り出したのは俺のせいですけど、事件のほうは……なんか“配置されてる”感じがするんです」
隊長は苦笑する。
「お前がそれを言うか」
セブンは指を鳴らしながら、まるで講義でも始めるように言った。
「ここで更に突発的にイベントが起きます。王妃殿下付きの侍女ミレイアが消え、魔力が失われた状態で発見される」
「そして医務室で、このレオニード――37歳独身、好きな女性はアリシア・ルーヴェル、お風呂は頭から洗うっていう心理テストで言うと”几帳面で根が真面目な男”――が黒幕だと、みんなが知る……と」
レオニードの顔色が、はっきりと変わった。
「な……お、おい……おれは……もう……それ以上は……」
ガルド隊長は呆れながらも笑っている。
「お前……容赦ないな」
セブンは続ける。
「そしてここから」
セブンはレオニードを指差した。
「ミレイアから“禁書庫に向かった”と聞いたレオニードとヴァルステイン。そこに全勢力を向けたら、次は王妃殿下がさらわれて行方不明」
「……そんなのあります? 物語として雑すぎませんか?」
隊長は額を押さえる。
「お前が禁書庫に向かって事件解決の主導を取らないから、その“物語”というやつが思ったようにならなくて、次の問題を起こしたんだろう……違うのか」
セブンは真顔で返す。
「いや、俺ただの前室警備の近衛兵ですよ? ちゃんとした主人公もいないのに物語も何も……」
隊長は胸を張る。
「選ばれたんだろうが」
「勝手に選ばないでください……主人公って言うなら、ガタイも良くて近衛兵隊長で強くて――さっき光って覚醒した男、ガルド・ヴァン・レオンでしょう。」
隊長は一瞬固まり――
次の瞬間、まんざらでもなさそうに力こぶを作った。
「お、おまえなぁ……あははは……俺が? 物語の主人公だって?この“一騎当千”と言われたガルド・ヴァン・レオンが?……あははは……ないない!!」
めちゃくちゃ喜んでいる様だ。
セブンはため息をつく。
「嬉しそうに否定しないでくださいよ……」
セブンは指を折りながら、淡々と“事件の総まとめ”を続ける。
「で、最後に今回のレオニードの襲撃……レオニードって、あの時はいわゆる最後の陰謀の中心、黒幕のボスだったじゃないですか」
「そうだな」
「禁書庫に行って王妃を暴走させるだのなんだのっていう物騒なものを取りに行ってるとか」
レオニードは椅子の上で震える。
「な……お、おい……おれは……もう……それ以上は……」
セブンは容赦なく続ける。
「なのに急に洗脳近衛兵連れて俺たちを襲撃に来るとか、ちょっと突発的すぎません?」
ガルド隊長が口を開く。
「だがな、セブン」
「隊長……それ、癖が出てます」
「だ……だけどもだよセブン」
隊長は咳払いし、真面目な顔で言う。
「お前がそもそも禁書庫にも行かないし、王妃も探さないとかそんな態度だから、“物語”ってのが面白くないからレオニードをぶつけてきたんだろ」
セブンは指を突き出す。
「――そこです」
「はん?」
レオニードも不思議そうに顔を上げる。
セブンはゆっくりと言った。
「物語って、なんです?」
その声だけが、妙に静かだった。
『…………………』
物語がんばれの方はグッドボタン
セブンがんばれの方はニコニコボタンで応援よろしくおねがいします




