第57話【感情ジェットコースター】白目の魔術師を“自白”へ導いた、モブキャラの尋問奇行
【前回までのあらすじ】
何もせず胡坐をかいていただけのセブン。ガルド隊長が激闘の末にレオニードを打ち倒し、雑魚近衛兵の精神干渉の呪縛は完全に解けた。
だが、王妃の失踪・禁書庫の謎・ヴァルステインの名など、事件の核心は何一つ明らかになっていないままだった。
内部監察補助の権限を手にしたセブンは、レオニードを控の間へ連行し、自ら“正式な尋問”を開始する。
「風呂に入ったら体のどこから洗う……?」
レオニードの目が見開かれる。
「……な、ふろ……ふろ?」
顔が真っ赤になり、羞恥と怒りと恐怖が入り混じる。
「答えないのか?」
「おれは質問をしたよな?」
レオニードの呼吸が、目に見えて浅くなる。
震えながら、必死に声を絞り出す。
「……っ…………そ……それは…………い、言う必要が……」
威厳はもうない。ただの“追い詰められた男”。
レオニードの肩がガタガタと震え始める。
汗が、ポタ…と机に落ちた。」
「………………っ…………あ……あたま……だ……」
声はかすれ、今にも泣き出しそうなほど弱々しい。
質問に対する明確な答え。
「……風呂に……入ったら…………あたま……から……洗う……ずっと……そう……してる……」
言い終えた瞬間、レオニードは完全に項垂れた。
「……セブン、大丈夫そうか?…お前……なんか凄いな」
レオニードはもう、聞かれたら答えるしかない状態。
「うちの隊長の二つ名を教えよう――【軽口妄言のガルド】」
レオニードは瞬きを繰り返す。
「……ここで話した内容は正式な尋問、普通であれば世間に漏れることは、まずない」
「しかしここには軽口妄言のガルドが立ち会っている」
「……あとはどうなるか、わかるな?」
「け、軽口妄言のガルド……くっ」
レオニードは椅子の上で震え、声にならない声を漏らす。
「……や……やめ……そ、それは……本当に……やめてくれ……」
「……おいセブン、初めて聞くんだが」
セブンは何かに気づく。
「レオニード……なにか勘違い、してないか?」
「な、何を……だ……お、俺はちゃんと話したぞ」
必死の表情。
「セブン、これ以上追い詰めるのは……やめておけ」
隊長がこれ以上は止めねばとテーブルに寄ってくる。
「隊長も……」
「これ、ただの恋バナですよ?」
「コイバナ??」
「こいばな??」
「セブン、お前……何を言い出すんだ……」
隊長が額に手を当てて険しい表情になる。
「年齢、独身、好きな人……恋バナです」
驚きをこらえきれず噴いたガルド隊長の鼻から鼻水が飛ぶ。
「はぁ??」
レオニードは遂にフリーズして白目をむいた。
「ずっと恋バナで通してますよ一貫して、ただの恋バナです」
「お前な……尋問だろこれ、何を言い出すんだいきなり」
理解できないのは、隊長もレオニードと同じ様子。
「お、お風呂で最初に洗う場所というのは何だ、レオニードを辱めるために聞いたんだろう」
レオニードは白目をむいたまま動かなくなった。
「いえいえ、あの質問は心理テストですよ。 恋バナに心理テストは付き物でしょ」
「特に彼氏彼女がいない場合心理テスト盛り上がりますよね。ちなみに頭から洗う男性の心理は……」
隊長が割って入る。
「だがな、セブン」
「……隊長、その”だがな、セブン”って言い回しやめてくださいもう、それ聞くとなんか次のイベントが来そうでやなんですよ」
「お…わ、わるい……だ、だけどもセブン」
「なぜあんな雰囲気を出して恋バナなど……」
「恋バナは雰囲気ありきでしょうよ隊長ォ!」
「それから――”物語”の想定外の行動で駒を壊すんですよ……」
「隊長もいわばその延長で物語から脱却できましたよね。 あの場合は”乗せて”逸脱させたって感じですけど」
「な、何を言っているんだセブン……俺は、俺だぞ」
「いや、もう”物語”の影響下にはないはずです。その証拠に俺の奇行に対してツッコミこそすれど、止めたり別な方向に誘導したりしないじゃないですか」
隊長は腕を組んで考え込む。
「うーむ……確かに、そういわれるとそうなのかもしれないが…何も変わってないような」
「レオニードも一緒ですよ、今白目向いてフリーズしてるんで、あと一押しなんじゃないかと」
レオニードは動かない。
「隊長なにかいい案あります?」
「そういわれても、お前じゃないんだから、突然奇行などできん」
恥ずかしそうに顔をそらす。
「いや、俺をなんだと思ってるんですか……それが基本行動ではないですよ」
「何か――吹き込んでみる、とか?」
白目をむいたレオニードを、二人は見る。
セブンがおもむろに近づく。
そして顔を覗き込んで、目の前で手を振る。
「おーい、レオニードォー、王宮魔術師長ぉー」
「動かんな」
「動きませんね」
変わらず白目をむいたままのレオニード。
だがしっかり息はある。
セブンは、レオニードの顔をしばらく観察してから……
――レオニードに耳打ちする。
「(俺は近衛兵だ。 王妃殿下の前室近衛兵。 それ以上でも以下でもない)」
「(なぜ俺を追ってきた? ただの近衛兵の俺を)」
隊長はその様子を見守っている。
レオニードは、俺の言葉を聞いた瞬間、白目を大きく見開いた。
“近衛兵”
“前室”
“王妃殿下の側近”
その意味を理解した瞬間、白目のままの彼の顔に表情だけがもどってくる。
「……っ…………そ、それは…………わ、私は……ただ……命令で…………お前を……」
問いが、事件の核心に触れる。
”命令で”
セブンは耳打ちを続ける。
「(俺はな? ただいつもの仕事に戻りたいだけの”モブ”だ)」
「(お前が誰かの命令でここに来たとか、話が大きくなりそうな陰謀とか、全然聞きたくない……わかるな?)」
白目レオニードの肩がビクリと震える。
「セブン、お前何を吹き込んでるんだ」
“陰謀”
“命令”
“話が大きくなる”
「……っ……わ、わかってる…………セブン……お前が……巻き込まれたくないのも…………」
ついに核心に触れる言葉が漏れ始める。
「……だが……私は……命令を……断れなかった……あの方の……」
“あの方”――レオニードが恐れている人物?
セブンの囁きが続く――
「なぁ、匂わせって気分悪いよな?」
「彼女がいるように匂わせる奴、いいもの買ったの自慢したくて匂わせる奴」
言葉のトーンでまたレオニードが怯えだす。
「……っ……や、やめてくれ……そ、そんな……遠回しに……責めないで……くれ……」
「どう思う?」
レオニードの肩がビクンと跳ねる。
「……き、気分……悪い……悪いに……匂わせる奴は……卑怯だ……自分で……言えない……周りを……惑わせる……」
そしてセブンの意図を理解した瞬間。
――レオニードの顔がまた青ざめる。
「……わ、わかった……私が……“匂わせた”んだ……命令者の存在を……隠しながら……お前に……悪かった……全部……言う……」
ついに、レオニードは 命令者の存在を認めた。
セブンは、レオニードの肩をぽん、と叩く。
「じゃ、恋バナ続けよか!」
――その瞬間
バチーン!
とレオニードの黒目が大きく開き、目覚める。「助かった」と「終わった」の中間の表情。
「わ、わかった! わかったから! 全部言う! ぜんぶ話すから!! 匂わせなんてもうしない!!」
「全部話す!! 人物も、黒幕も、ぜんぶ!!」
レオニードは“切り替わった”。
ガルド隊長は腕を組んだまま「おう、聞こうじゃないか」という顔で見守っている。
レオニードは椅子に座り直し、語り部のように手を組んで話し始める。
レオニードが語る「事件の全貌」
「始まりは――王妃暗殺未遂の、前日。 王妃殿下の侍女の一人が、“禁書庫の鍵が勝手に動いている”と報告してきた。」
「禁書庫の異変、鍵が勝手に動いた。魔力反応も不自然だった。――内部から触られていた形跡があった」
「この時点で、私は“内部犯”を疑った」
「次に、王妃殿下の前室近衛兵――つまりお前だ、セブン。 お前の周囲に“妙な視線”が集まっていた」
ガルド隊長が「ほう」と頷く。
「それで私は“お前を監視せよ”という命令を受けた。命令者は……」
レオニードは一瞬だけ言葉を濁すが、セブンの視線に押されて続ける。
「……宰相のローデリヒ・ヴァレンシュタインだ。“王妃殿下の周囲に裏切り者がいる”と吹き込まれたのだ」
「しばらくして禁書庫の封印が弱まり、“王妃の魔力に反応する呪具”が持ち出された形跡があった」
「そして今日、王妃殿下の部屋に向かった魔力反応が二つ。一つは“呪具”。もう一つは……“内部の誰か”」
「セブンが冤罪で捕まった理由は……お前が“王妃の前室近衛兵”だったからだ。“最も近くにいた者が怪しい”という理屈で罪を着せるために。」
ガルド隊長が「雑だな」と思わず小声でツッコむ。
「宰相は“王妃殿下の魔力を利用して禁書庫の封印を破る”つもりだった。 目的は暗殺ではなく、“王妃の魔力を暴走させるための誘導”だ」
「セブン…」
「私がお前を狙い、ここまで来た理由それは……」
「お前が“鍵”だったからだ……」
「王妃殿下の魔力に最も近い存在……」
「ローデリヒ宰相はお前を利用するつもりだった……」
「……これが全部だ。 人物、黒幕、目的……私が知っている限りの全てだ……もう匂わせたりしない……全部言った……!」
隊長が自分の手柄のように大声で言う。
「……よし。セブン、これで事件の全体像はつかめたな。」
『オオウ…………………』
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