第56話【尋問という名の口撃】王宮魔術師長を追い詰める質問の数々が精神を崩壊させてゆく
【前回までのあらすじ】
胡坐をかき「何もしない」と決めたセブンは、戦場を“観客席”から支配していた。
その直前、セブンの嘘と叫びがレオニードの精神干渉魔術に致命的なノイズを走らせ、ガルド隊長に決定的な隙を与える。
“動かない選択”で勝利を呼び込んだセブンは、倒れたレオニードを前に、次なる段階へ。
「レオニード。お前の計画はここで終わりだ」
隊長は剣を構えたまま、俺の方へ一瞬だけ視線を向ける。
「セブン。お前の“何もしない”が勝利を呼んだ。」
(本当に何もしてない……)
レオニードはついに前のめりに倒れ、床に手をついたまま動かなくなった。
魔力の気配は弱くなり、精神干渉の呪縛は完全に解けた。
戦いは――ガルド隊長の勝利 で終わった。
俺は胡坐のまま、腕を組んで戦場を見渡す。
勝利の余韻の中で、頭に浮かぶのは“残された謎”だ。
『殿下は抵抗していなかった』
『……セブン……来ないで……』
『ヴァルステイン卿』
『禁書庫は封印されたまま』
そして『王妃殿下の行方』
「……セブン。レオニードは倒れたが、事件はまだ終わっていない」
隊長が剣を収め、こちらへ歩いてくる。
「王妃殿下の行方。ヴァルステインの失踪。禁書庫の謎。どれも……まだ“核心”に触れていない」
「セ、セブン殿……どうします……?このまま……“何もしない”を続けますか……?」
セブンはゆっくりと立ち上がった。
胡坐から立ち上がるだけなのに、空気が変わる。
「リオ、レオニードを拘束しろ」
拒否を許さない厳格な声。
「……っ、は、はい!!」
リオは慌てて縄を取り出し、弱ったレオニードの手足を縛り上げる。
レオニードは抵抗する力も残っていない。
セブンはゆっくりと歩み寄り、レオニードの前に立つ。
そして――不敵な笑みを浮かべた。
「……この俺が、尋問する」
「あの時は手ぬるい質問しかできなかった……しかし今は違う。俺には権限がある」
ガルド隊長は目を細め、俺をじっと見つめる。
やっと本気を出したか、という深い納得。
「……ああ。その通りだ、セブン」
「お前には“内部監察補助”としての権限がある。尋問も、調査も、報告も――すべて任せられる」
セブンはゆっくりとレオニードの前にしゃがみ込む。
「さて……レオニード。お前には聞きたいことが山ほどある」
「ここからは汚れ仕事だ……リオ。お前はここで事後処理をしていろ……」
リオはビクリと肩を上げる。
「……っ、は、はい……!」
「隊長……俺が“やり過ぎ”ないよう立ち会ってもらえますか」
「楽しみが大きいと……ね」
その言い方は、“本気で危ない男”。
拘束されたレオニードは、セブンの変貌を見て薄く笑う。
「……ふ……やはり……君は……おもしろい……」
セブンはレオニードの腕を掴み、立たせる。
「人の目に触れることは避けたい……」
薄く浮かべた笑いは、リオの心臓を一瞬止めた。
「ひっ……あの……大丈夫なんですよね……?」
「わかったセブン。立ち会おう。お前が“やり過ぎ”ないようにな」
「助かります、隊長」
◇◇◇
控の間に入る。
王妃殿下から使用許可はあの時得ている。
石壁は厚く、外の音は届かない。
扉を閉めると広間の音が消えた。
椅子が一つ。机が一つ。
そして――逃げ場はない。
セブンはレオニードを椅子に座らせ、縄をさらに締め直す。
レオニードは少し抵抗しながら、苦しげに息を吐く。
「“二つの顔”を持っているんだな……」
セブンは机に両手を置き、前のめりに身を乗り出す。
「レオニード。どこまで“俺”に耐えられるか……楽しみだ」
ガルド隊長は壁にもたれ、腕を組んで俺を見ている。
「王宮魔術師団長レオニード……これより尋問を始める。これは俺の権限による“正式”な尋問だ」
「質問には……必ず答えてもらう」
セブンがレオニードの目の奥を覗き込む。
「まぁ……答えたくないなら答えなくてもいいが……」
「わかるな?……その時は……」
脅しではなく本当に何かする男の笑い。
レオニードの頬がひくりと動く。
「……セブン、やり過ぎるな」
レオニードは余裕を見せるためにあえて強がっているのが見え見えだ。
「……ふ……君は……本当に……二つの顔を持っているんだな……」
まるで壊れたレコードだ。
この先がどうなるのか不安な”物語”が見え隠れする。
セブンは机に手を置いて静かに告げる。
「レオニード。俺は“内部監察補助”として動いている。王妃殿下から控の間の使用許可も得ている」
「ここで何が起きようが――すべては職務の範囲内」
レオニードの表情がわずかに強張る。
ただの近衛兵セブンの“裏の顔”が、彼の精神干渉魔術よりも恐ろしいと悟ったか。
「年齢は……」
レオニードの表情がわずかに歪む。
「……ふ……そんなもの……答える意味が……」
「答えたくないなら答えなくてもいい。だが……わかるな?」
「“最初の質問”に答えられない奴が、この先の質問に耐えられると思うか?」
「……三十……七だ……」
セブンは頷き、淡々と次の質問の準備をする。
そして咳ばらいを一つ――次の質問を投げかける合図。
「長を任せられる程の魔術の才の持ち主、財も才能もある……37歳……結婚適齢期じゃないか……」
セブンは大きく回って移動し、レオニードの横から質問する。
「独身か?」
瞬間、レオニードの表情がわずかに揺れた。
連続でただの“個人情報”。
しかし抗う覚悟のレオニードは余裕を見せようとする。
「……そんなこと……聞いてどうする……?」
「どうもしないさ。」
「ただ――お前がどこまで”俺”に耐えられるかを見ているだけだ」
レオニードの喉ぼとけがゴクリと動く。
「……独身だ……」
セブンは満足げに大きく頷く。
「いい返事だ。では次だ。」
俺は正面に回り込み、レオニードに顔を寄せる。
逃げ場のない距離。
「そろそろ……本気を出させてもらうぞ?……答えられるかな……肝の小さなお前に……」
レオニードの背筋がピクリと震え伸びる。
核心を聞かれたわけでもない。脅されたわけでもない。
ただの“宣告”。
その声はわずかに震えていた。
「……ふ……脅しのつもりか……?」
「脅し?違うな……“宣告”だ」
レオニードの表情が強張る。
「まずは――王妃殿下の行方……」
その瞬間――俺は机を軽く叩き、声を跳ね上げた。
「などと平凡な質問が来ると思ったか! 馬鹿め!!」
レオニードの体が跳ねる。
ガルド隊長でさえ、わずかに眉を上げた。
すぐにレオニードの耳元へ顔を寄せる。
「好きな、王宮内の異性の名前を言え……」
沈黙。
「……な、何の意味が……」
「意味?そんなもの必要ない」
「これは“尋問”だ。 俺が聞きたいから聞いている」
隊長は壁にもたれたまま、腕を組んで俺を見ている。
「……そんなもの……答える必要は……」
セブンは後ろへ回り込み、レオニードの首元で囁く。
「“必要”は俺が決める……」
「さぁ――好きな異性の名前を言え」
「言えない……もしそうなら……お前の“肝の小ささ”を証明するだけだ」
レオニードの顔色が変わる。
「そして…………わかるな…………」
「家宅捜索する。」
「いいのか? 人に見られてはまずい“恥ずかしいもの”……」
「隠してあるもの……全部、探させてもらうぞ?」
重い沈黙。
レオニードは表情を読まれまいと下に首を折る。
「…………っ……!」
セブンはレオニードの顎を軽く持ち上げ、逃げられないように視線を固定する。
「さぁ……どうする?」
「好きな異性の名前を言うだけで済む話だ。」
「それとも……俺に“お前の部屋”を調べさせたいのか?」
「まずは本棚……次は……セオリー通りベッドの下か……」
「!!………………っ……ま、待て!!」
顎クイの効果は抜群だ。レオニードの顔色が変わる。
「ほう。急に素直になったな……言え……悪いようにはしない」
“優しさ”の皮を被った狼。
逃げ場のない誘導。
レオニードが耐えきれずコトコト足踏みをはじめる。
「……ま、待て……本当に……やるつもりか……?」
「もちろん……だが……もったいぶらず、言えば済む話だ」
「好きな異性の名前を言え。それだけで……お前の部屋は安全だ。」
レオニードの呼吸が乱れる。
そして止まる。
「………………っ…………わ、わかった……」
レオニードは、絞り出すように言った。
「………………ア……アリシアだ…………」
ガルドの眉が上がる。
「アリシア……?」
「……そうだ……アリシア・ルーヴェル……私は……彼女を……」
レオニードは唇を噛み、視線を逸らす。
「よく言った。ありがとう」
レオニードは覚悟をもった勢いで話し続ける。
「……アリシアは……王妃殿下と……“共に消えた”……」
ガルド隊長が寄りかかった壁から背中を離し、目を見開く。
「殿下は……さらわれたのではない……“自分の意思”でアリシアと共に……王宮を離れた……そしてアリシアは……」
「……王宮魔術師長レオニード」
セブンは、レオニードの横に立つ。
「誰が事件に関することを答えろと言った」
「だ れ が…………
事 件 の…………
事 を…………
答 え ろ と…………
言 っ た 」
静かで、低く優しく。
レオニードの肩が震える。
「……っ……す、すま……え?」
俺は遮る。
「俺が聞いたのは――好きな異性の名前だ。それ以上のことを勝手にしゃべるな」
「尋問は“俺が聞きたい順番”で進む。お前が勝手に話すことは許さない」
「次に事件の話をするのは――俺が質問した時だけだ。」
レオニードは血の気が引いている。
そしてこの戸惑い。セブンたちを倒すために現れてから、いくつの感情を経て今ここにいるだろう。
「……わ、わかった……すまない……勝手に……話した……」
セブンは深く頷く。
「よし。では次の質問に移る――アリシアのどこが好きだ?」
そして――声を跳ね上げた。
「などと事件と関係のない事を聞くとでも思ったか!!この人の心も読めないウスノロめ!!」
レオニードの顔が驚きで蒼白になる。
「人の気持ちが分からないから、37歳になっても独身のままなんだろ、この魔術研究バカが!!」
「……っ……!そ、それは……関係……ない……!」
俺は机を軽く叩き、レオニードの顔のすぐ近くまで身を寄せる。
「関係あるかどうかを決めるのは――俺だ……………研究バカは言い過ぎた。悪かった。」
「……ではレオニード。次の質問だ」
「風呂に入ったらどこから洗う・・・?」
『ヴァオオオウウ…………………』
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