第55話【不戦の決定打】「俺は何もしない」――宣言ひとつで戦場と“物語”を止めた瞬間、レオニードは……
【前回までのあらすじ】
セブンたちの前に、黒幕レオニードが自ら現れ、前室は一触即発の戦場と化す。
セブンは隊長に「物語の駒か、それとも俺たちの隊長か」と問い、ガルドはついに“物語”からの自立を宣言した。
覚醒した隊長が前に出る中、セブンは胡坐のまま動かず、ただ“その瞬間”を狙って戦いを見極める。
「レオニードォ!!―― 後ろだァ!!!!」
レオニードの目が――
一瞬だけ、 後ろへ向く。
ほんの一瞬。だが、それで十分。
「……ッ!!」
隊長はその一瞬を逃さない。
踏み込み、剣閃。重い衝撃。
レオニードの防御魔術が砕け、黒いローブが裂ける。
「ヴォオッ……!?」
操られていた近衛兵たちが、その場に崩れ落ちる。
(レオニードの精神干渉魔法が阻害され呪縛が解けた!?)
彼は明らかに動揺していた。
俺の“嘘の一声”が効いたのだ。
「……セブン……君……本当に……口で戦う気か……?」
俺は胡坐のまま、堂々と胸を張る。
「当然! 俺の武器は“口撃”」
ガルド隊長は笑った。戦場で笑った。
「フッ……!セブン……! 最高だ……!!」
レオニードは歯噛みし、魔力を高める。
「……面白い……本当に面白いよ……セブン……! 君の“言葉”が、ここまで戦況を動かすとは……!」
ローブに傷がついた……次は、必ず攻撃が入る!
「が、ガルド隊長っ……!がんばってください……っ!!」
リオは必死に応援している。
声が震えているが、その声は確かに隊長の背中を押している。
残るはレオニードのみ。一対一。
ガルド隊長が、剣を構え、じりじりとレオニードの隙をうかがう。
音が……再び、鎮まる。
一足一刀。
お互いに見合い止まったその瞬間。
レオニードの目が―― 誰もいないはずの後ろに――
一瞬だけ、 後ろへ向く。
ほんの一瞬。だが――
俺は、何も言ってない。
……なぜだ?
「……ッ!!」
隊長は一瞬で判断。
近距離からの飛び込み。剣閃。速い衝撃。
レオニードの防御魔術が再び砕け、また黒いローブが裂ける。
「ヴォオッ……!?」
(……同じだ)
だが俺は、 追わない。
腕を組み、胡坐をかく。
物語はそれを“異常”と判断した。
”異常”な俺を正すため、強制イベントを前室へ送り込んできた。
同じ展開が繰り返されるのは、”物語”が”異常“を受け入れられないから。
物語が混乱し、ループし始めた。
ループを… 絶つ!
ガルド隊長は俺の言葉で覚醒し、レオニードは俺の嘘で隙を見せ、
リオは俺の判断に従い、前室は“戦場”になった。
俺は動かない。だが世界は動く。
考えろ、このループを抜け出す方法を……
主人公が応援した上司が、目の前で勝つ。ドラマチックだ。
主人公が応援した上司が、目の前で負ける。これもドラマチックだ。
俺はある考えで、また胡坐で座ったまま事の顛末を見守ることにした。
座ったまま、ぼそっと呟く。
「リオ、酒とつまみでこの戦い観たいよなぁ」
「……!?」
戦場の緊張に日常が入り込み、妙な空気が流れる。
だがこれはどちらに転んでもドラマチックな名シーンになる。
どちらの結果も“物語”として美味し…いや、美しい。
だから俺は、動かず、ただ見守るという最高の選択をした。
ガルド隊長が出す”結果を受け入れる”という選択。
まるで“VIP席の観客”のように。
リオは隣で震えながらも、冗談なのか本気なのか俺の顔を覗き込む。
「酒とつまみ…ですか?……隊長の戦い、緊張で胃が死にそうです……」
俺は静かに頷く。
「気持ちは分かる。だが今は我慢だ。これは――手を出す場面ではない」
「……はい……セブン殿の言う通りです……」
レオニードは、俺とガルド隊長、両者を警戒している。
「……君は本当に……戦わずに戦場を支配するつもりか、セブン」
俺は腕を組んだまま、堂々と答える。
「俺は動かない。殿下の命令だからな」
「……なるほど」
「レオニード。相手はこっちだ。まずはこの私を倒してからにしろ」
レオニードの魔力が膨れ上がる。
隊長の気迫がさらに燃え上がる。
「リオ、俺は最も効果的な“口撃”の瞬間を狙い、二人の動きを見守る。
その瞬間はきっとくる!必ず!目を離すな!!」
「はい!」
俺が“その瞬間”を待つ姿勢は、もはや戦場の観客。
物語の外側から戦況を操る存在そのものだ。
そして――俺の予感はおそらく正しい。
きっとくる。必ずくる。物語が“揺らぐ瞬間”が。
隊長の剣は重く鋭さを増す。
レオニードから溢れる魔術は冷たく歪んでいる。
そして――その瞬間が。
ガルド隊長とレオニードが、互いに一歩踏み込み、間合いが完全に重なる。
一足一刀。
互いの呼吸が鎮まり、空気が張り詰める。
俺は腕を組んだまま、微動だにせず、ただその瞬間を待つ。
リオが息を呑む。
「来るッ……!」
ガルド隊長が大きく素早く振りかぶる! ここだ!!
「かかったな“物語”め!! 俺は何もしないッ!!」
その瞬間、戦場そのものがビクッと反応した。
まるで“物語”という巨大な存在が、
「……は?」
と固まったかのように。
リオは隣で「えっ……」と声にならない声を漏らす。
だが――その一瞬の静寂こそ、俺が狙っていた“最も効果的な口撃”だった。
隊長は、俺の叫びを聞いて――笑った。
戦場で、敵を前にして、命のやり取りの最中。
「お前という男は……! “何もしない”と宣言して、ここまで戦場を揺らすか……!」
レオニードは――動揺。
「……な、何……“何もしない”……? そんな宣言で……どうして魔力が乱れ……?」
俺の叫びは、レオニードの精神干渉魔術に“ノイズ”を走らせた。
なぜなら――精神干渉魔術は、行動予測が前提。
しかし俺の“何もしない”その瞬間、レオニードの魔術は“対象の行動モデル”を失い、乱れた。
「終わりだ、レオニード!!」
「馬鹿な……! “動かない選択”が……ここまで……!」
レオニードの魔術が乱れた“その瞬間”を逃さず、隊長は深く踏み込み、剣を振り下ろす。
地面に響く踏み込み。鋭い剣閃。空気ごと全てが裂ける音。
ズヴォッッ!!
レオニードの胸元に、決定的な一撃が走った。
黒いローブが裂け、精神干渉の魔力が霧散する。
操られていた近衛兵たちが、次々とその場に崩れ落ちた。
レオニードは膝をつき、苦しげに息を吐く。
「……くっ……まさか……」
彼は俺を見上げる。その目には――理解できないものへの恐怖 があった。
「レオニード。お前の計画はここで終わりだ」
『……ゥグ』
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