陰謀が渦を巻くが、俺は抗って見せる!
「その真実を聞く前に教えてくれ…聞くとどうなる…?」
彼女の覚悟を試すような響きだった。
しばらく沈黙が続き、やがて震えを押し殺した声が返ってくる。
「…聞けば、戻れなくなります。」
恐怖や脅しなどではなく“事実”として淡々とその場に落ちた言葉。
「あなたが知れば、もう“ただの濡れ衣を着せられた近衛兵”ではいられません。
王宮の闇に踏み込み、誰かの思惑を壊す存在になる。
そして…その瞬間から、あなたは“狙われる側”になります。」
鉄扉の向こうで、彼女が手を胸に当てる気配がした。
祈りにも似た仕草。
「でも…聞かなければ、王妃殿下は救われません。
あの方は今、孤独で誰も信じられず……
それでも、あなたの名だけは口にしようとしていました。」
悔しさで声が震えているのが分かった。
「セブン、あなたが真実を聞けば殿下を救う道が開けます。
けれど同時に…あなた自身の運命も変わる。それでも……聞きますか?」
「…聞かないでおく。」
鉄扉の向こうで、エリシアのヒールがコケた様な音がした。
その返答の意外さが体勢を崩すほどのショックだったのだろう。
“聞かないでおく”
俺にとってその選択は逃避ではなく、むしろ覚悟。
このままこの陰謀の渦に巻き込まれるわけにはいかない。
俺はただ冤罪で投獄されただけの近衛兵。その冤罪を晴らして外に出る。
それがもっとも”普通”の事なのだ。
エリシアはそれを理解してくれただろうか。
やがて、彼女は小さく息を吐いた。
「…そう、ですか。…いえ、あなたらしい選択です。」
飲み込んで理解する、そして続ける。
「真実を聞けば、あなたは“巻き込まれる”そしてあえて聞かない事を選んだ
それはつまり、”自分の足で真実に辿り着く”その道を選んだ ということですね。」
彼女が姿勢を正す気配がする。
「分かりました。私は、あなたの選択を尊重します。」
先ほどまでの怯えた侍女ではなかった。
現実を受け入れ決意した者の声だ。
「ですが一つだけ言わせてください。
あなたがあえて“聞かない”と決めた以上、私もあなたの行動を信じます。
どうか…殿下を救ってください。」
断られてもなお、繰り返される救済の言葉、それは祈りにも似ていた。
そして彼女は鉄扉から離れかけ
ふと、思い出したように立ち止まる。
「…セブン、牢の食事が美味しいと仰っていた様ですが
それは、私が“手を回した”からですよ。」
と静かな告白。
「あなたが…ここで折れないように。」
しなやかな足音が階段へと消えていく。
石牢に残された静寂。
俺はエリシアからの”真実”を聞かない事を選んだ。
それはこれ以上、俺から見ての事態を悪化させたくなかったからだ。
しかし彼女は、まくしたてるように自分の気持ちを表明し
俺が”自分の足で真実に辿り着く”のだと誤解したまま行ってしまった。
投獄されている状態で使う足も何もないというのに。
殿下を救ってほしいと繰り返す彼女の言葉を、
目の前ではっきりと断る事が出来なかった俺が悪いのだろう。
美味しい食事がここでの救いだったのは確かだ。
これは彼女に返すべき恩なのだろうか。
訪問者の言葉を整理し並べなおす…
陰謀が渦を巻き大きくなっているのは間違いないだろう…
しかし、俺が鍵とはどういうことなんだ…
なぜ俺に人が集まる…情報が来る…なぜ…
答えのない問いが頭の中で繰り返されている。
そして…
石牢の壁から、かすかな砂の落ちる音がした。
…上から大柄な男が…来る!?




