第三の訪問者がいい香りだが、俺の直感が働く!
「俺は…お前をここから出す覚悟がある。」
遂にそれを口にしたか。しかし俺にも考えがある。
「脱獄はまずい、罪状が罪状だけに今俺が脱獄した場合
俺を探すために王宮内が警戒体制になる。」
もう一つ理由がある。
「それに、ここの飯は美味い。」
実際、近衛兵に出される食事と比べてもそん色ない。
殺風景な景色の中にあってか、いつもの食事より味わい深いとさえ思えるのだ。
嘘偽りのないこの一言だったが、受け取ったライエルにとっては
あまりにも“セブンらしい”冷静さと皮肉”を含んでいてた。
緊張の中にふと出来た小さな隙間に彼は、押し殺した声で笑った。
「クッ…お前ってやつは、本当に…。」
笑いはすぐに消え、代わりに深い呼吸と安堵が滲む。
「確かに、脱獄すれば王宮は蜂の巣をつついたようになる。
影の連中は動き、近衛も動き、王妃殿下の周囲はさらに固められる。
それじゃ真相には近づけないか…。」
コンッ…と鉄扉に拳を置く音がした。
その手は、あなたの判断を“信じた”者の拳だ。
「…確かに…静かに潜る。それが一番だな。」
そして、少しだけ声を潜めて続ける。
「それにしても…牢の飯が美味いってのは初耳だ。どんな味だよ。」
冗談めいた言葉の裏に、友への安心が透けていた。
「セブン。お前がここに残るなら、俺が動く。
王妃殿下の隔離、影の動き、そして……お前を陥れた者の正体。
どれも待っている時間はない。」
鉄扉の向こうで、足を引く気配。行くのか。
「次に来る時までには、何かを掴んでみせる。だから…生きて待っていろ。」
その言葉は、命令ではなく、願いに近かった。
俺は、投獄されているだけでなく殺される危険性があるのか?
ライエルの不吉な言葉に不安を感じつつ、俺は沈黙で答えた。
階段の上へと足音が遠ざかり、石牢には再び静寂が戻る。
だが、その静寂はもう“孤独”ではない。俺のために動いてくれる親友がいる。
ライエルが去ってしばらくした頃。
石牢の隙間から、ひんやりとした風が流れ込む。
その風に混じって、微かな香りが漂った。
…香水?
王宮の上層でしか使われない、高価な香り。
そして階段の上から軽やかで、しかしどこか緊張を孕んだ足音が近づいてくる。
鉄扉の前で、しなやかなその足音が止まった。
…ひと時の沈黙。
「…セブン。少しだけ、話をさせて。」
聞き覚えのある声。だが、こんな場所に来るはずのない人物。
王妃付き侍女エリシア。
「エリシア…俺をここに叩き込んだ侍女の一人、お前が何故ここに。」
鉄扉の前で、エリシアの吐息がぴたりと止まった。
あなたの言葉は、彼女の胸に鋭く突き刺さったのだろう。
しばらく沈黙が続き、やがてかすかな震えを帯びた声が返ってきた。
「…そう、ですね。たしかに私は…あなたを“告発した”侍女の一人です。」
その告白は、堪え切れない痛みを含んでいた。
「でも…あれは、私の意思ではありませんでした。」
鉄扉の向こうで、布が握りしめられる音がした。
彼女の手が震えているのが、音だけで分かる。
「あの日、私は“言わされた”のです。王妃殿下の名誉を守るため…
と、そう言われて。」
声は震えているが、嘘の響きはない。
「でも…違いました。あれは、殿下を守るためではなく…
殿下を“縛るため”の罠 だったのです。」
その言葉は、影の男の言葉と重なる。
王妃は監視されている。
王妃は沈黙を強いられている。
そして、その監視者は、王妃の“最も近い存在”。
エリシアは続ける。
「セブン…私は、あなたに謝りに来たのです。そして…お願いがあります。」
鉄扉の向こうで、彼女が深く頭を下げる気配がした。
「どうか殿下を、助けてください。あの方は今、とても危険な状態にあります。」
必死で切実な声は、どこか“覚悟”を含んでいた。
その誠実な声に、俺も誠実さをもって答える。
「謝罪は受け入れよう。そして気持ちも分かる。
だが俺の立場も分かってくれ。この通りだ、俺は投獄されている身で自由がない。」
今すぐ助けてほしい、それはこちらも同じ事。冤罪なのだ。
そして今現在投獄されているはずの俺がなぜか暇を持て余してはいない。
「ついさっきライエルが情報をもって脱獄の手助けに来た、
影と名乗る謎の者がここへ来たりで、俺はなかなかに忙しい。どうしてか…な。」
エリシアの呼吸が一瞬、冷たい空気を吸い込んだ。
あなたの軽口は、石牢の冷たい空気に小さな波紋を広げる。
彼女は耐えきれずに小さく息を漏らした。
「こんな状況で、そんな事を言えるんですね…。」
小さな呆れと大きな安堵が混じっていた。
まるで、あなたが“折れていない”事に救われたように。
「ライエルがここへ…?そして、“影”まで…?」
彼女は言葉を失い、鉄扉の前で立ち尽くす。
そして、静かに続ける。
「あなたが忙しいのは、きっと…あなたが“鍵”だからです。」
一体何の話だ…俺が?鍵だと?
「王妃殿下を縛る者たちにとって、あなたは“邪魔”であり、そして“必要”でもあるのです。」
だから…あなたの周りに“影”が集まる。ライエルも、影の男も、そして…私も。」
なぜ俺がそんな立場にあるんだ。ただの近衛兵それ以上でも以下でもない俺が。
そしてあの影を俺は男とは言っていない…エリシアも影の正体を知っている?
俺は彼女の熱を帯びた言葉を冷静に見極める。
「私は…あなたに真実を話す覚悟をしてきました。どうか…聞いてください。」
投獄されて以来、何かに巻き込まれているようだ。
そして、その渦の中心へと引き込まれているような流れに
直感が告げる、これ以上は危険だと。
「その真実を聞く前に教えてくれ…聞くとどうなる…?」




