第35話【無罪と復職】ついに手にした「日常」。物語の外側に“安全地帯”を築く、執念の目標達成
【前回までのあらすじ】
狂気の演技の裏に隠されたセブンの本心は、ただ「職務を果たし、昇進し、家を買って平穏に暮らす」という健全すぎる野望だった。
ガルド隊長はその願いを守るため“内部監察補助”という安全な役割を与えるが、それこそが物語の修正力が押しつける新たな主人公ルートだった。
セブンはその誘導を察知し、前室警備との“兼任”を提案してプロットの強制を押し返そうとする。
「ではこうしましょう。前室警備と兼任という形にしてください。隣にライエルを置き、王妃の部屋にはエリシアを配置する。警備を万全にしつつ、俺は補助に徹する形です」
ガルド隊長は、予想外の方向から矢が飛んできたような顔で目を見開いた。
だがすぐに冷静さを取り戻し、俺の意図を慎重に読み取るように、ゆっくりと口を開く。
「……セブン。お前は本当に、物語の中心から逃げるのが上手いな」
呆れではない。むしろ感心に近い響きだった。
腕を組み、隊長は俺の提案をひとつずつ吟味する。
「まず、前室警備との兼任だが……」
わずかな沈思ののち、結論を出す。
「――可能だ」
「前室警備は王妃殿下の最終防衛線だ。そこにお前を戻すのは危険だが、“内部監察補助”の立場を持ったままなら、逆に安全が増す。前室に立てば、不審な動きは即座に俺へ届くだろう」
「ライエルを隣に置くのも悪くない判断だ。あいつはお前の性格も癖も理解している。余計な方向へ走り出せば、首根っこを掴んで止めるだろう」
「何より――お前を守ることに関しては、誰よりも信用できる」
隊長の表情が、わずかに引き締まる。
「エリシアを王妃殿下の部屋に、か。……非常に良い。冷静で判断力があり、王妃殿下への忠誠も揺るがない。安全を考えるなら最適だ」
ガルド隊長は俺に向き直り、はっきりと言った。
「お前の提案を採用だ」
「前室警備に復帰しつつ、内部監察補助として動け。ライエルを隣に置き、エリシアを王妃殿下の部屋に配置する。これで警備は万全だ」
そして、少しだけ声を落とす。
「この配置は最適だ。事件の中心には立たせない。そして、お前の望む現場復帰も叶える」
隊長は俺の肩に手を置き、短く、力強く告げた。
「これでいいな、セブン」
「はい! セブン近衛兵! これより前室警備の任に戻ります!」
俺は鋭く敬礼した。
その堂々たる動作を見た瞬間、隊長の目が見開かれる。
驚きというより、「ようやく戻ってきたな」という安堵の色だった。
ゆっくりと、しかし力強く敬礼を返す。
「……セブン近衛兵。前室警備への復帰を正式に認める」
凛とした声。近衛兵隊長としての威厳が宿っている。
一歩近づき、俺の肩に軽く手を置いた。その手は重くない。だが、確かな信頼が込められていた。
俺は控の間を出て、前室へ戻る。
そこには、先ほど警備を頼んだライエルが待っていた。
「ガルド隊長から正式に前室警備を任された。復帰だ」
俺の姿を見た瞬間、ライエルの口元がわずかに緩む。
「……おかえり」と言いたげな表情。
だが、俺の宣言を聞くや否や、その顔はいつものライエルに戻った。
「ガルド隊長から正式に、ね。……やっと戻ってきたか、セブン」
「喜べライエル。お前と入口の両脇に立つことになった。」
ライエルはわざとらしく肩をすくめ、ため息をつく。
「喜べ、ねぇ……。お前とまた並んで立つってだけで、面倒事が倍になる気しかしないんだが」
皮肉な言葉とは裏腹に、声の奥にははっきりとした安心があった。
俺の肩を軽く小突く。
「……でもまあ、悪くない。やっぱり、お前がいないと落ち着かん」
「ガルド隊長がわざわざ俺を隣に置くくらいだ。お前のこと、相当買ってるんだろうよ」
ここで自分を上げるのがライエルらしい。
ライエルは入口の両脇を指さし、いつもの調子で配置につく。
「じゃあ、セブン。今日からまた“いつもの仕事”だ」
俺の望んだ日常が、ゆっくりと戻ってくる。
王妃の部屋の扉は静かに閉ざされ、廊下には規律ある静寂が満ちる。
俺とライエルが立つ前室は――
まるで、物語の中心から一歩外れた、安全地帯のようだった。
これで獄中からの目標、『無罪と復職』が叶った。
『…………………ヴヴセブン』




