第33話【名探偵の風評被害】「撲殺拷問の名探偵」誕生。恐怖と理不尽で兵士を司法官へ走らせる最短攻略
【前回までのあらすじ】
密室に連れ込まれた二人の兵士を前に、セブンは“狂気の尋問者”を演じて心理的に追い詰める。
一方ガルド隊長は沈黙と威圧だけで兵士たちの逃げ道を塞ぎ、いつしか“証拠隠滅のガルド”という虚構が現実味を帯び始める。
狂気を装うセブンと、静かに詰める隊長――二人の圧に挟まれた兵士たちは、ついに嘘も逃走も許されない“詰み”の状況へ追い込まれていく。
“脅されていない”という言葉を彼ら自身に言わせることで、逃げ道を塞ぐ。
二人の兵士は、次の言葉を待ちながら、震えている。
「じゃあこれは、尋問や拷問だとおもうか?同じ場所を警備した同業さん。」
二人の兵士は、その声を聞いた瞬間――
跳ねるように震えた。
ロルフは声にならない声を絞り出す。
「…尋問でも、拷問でも…ないです同業のせ、世間話です…。」
ダリオも続く。
「は、はい…お話…です…同業の仲間として…。」
二人とも、“セブンを刺激しない答え”を必死に探している。
「俺は面倒事が嫌いなんだよ。あの現場に復帰したいだけ…わかるよな?」
控えの間の空気が、“狂気の演技”で完全に支配された。
二人の兵士は縮こまり動けない。
そこにガルド隊長が助け舟を出す。
「セブンはただ“現場に戻りたい”と言っているだけだ。それを邪魔する理由があるなら――今ここで話せ。」
二人の兵士は、セブンと隊長の視線に挟まれ、
完全に追い込まれた状態で震えている。
「俺が現場に戻るには、この『撲殺拷問のガルド』様が言う通り、
王妃暗殺の証人である俺と、王妃殿下の命が危険にさらされるのが問題らしいんだわぁ。」
そしてもちろん、そんな二つ名はない。
二人の兵士は、『撲殺拷問のガルド』 という謎の二つ名を聞いた瞬間――
ガタッ!!と一歩下がる。
存在しないはずの恐怖を彼らは勝手に補完し、勝手に震え上がっている。
そして――ガルド隊長本人はというと。
腕を組んだまま、ゆっくりと目を閉じた。
深く、深く、ため息をつく。
「…セブン。おまえは…。」
“心底困っている”のが分かる声だった。
しかし、二人の兵士は隊長のため息すら“処刑前の静けさ”と受け取ってしまった様子。
「た、隊長…!ど、どうか…どうか命だけは…!」
「わ、我々は…命令されただけで…!し、知らなかったんです…!王妃殿下が狙われているなんて…!」
ここで十分だ。
ダリオの口から“命令”という言葉が出た。
それはガルド隊長が言っていた“王命による警備”とは明らかに違う。
ここでもう少し楽しむ選択もあるが、俺の目的は違う。
命の危険を回避し、事件を解決し、仕事に復帰することが全てだ。
「ということで…。」
俺は意味深に言葉を止める…。
そして室内の緊張感が最大に高まったところで。
「ロルフ、ダリオ。」
二人の兵士の顔色が蒼白になる。
俺はガルド隊長の背中を押し、声をあげる。
「三日以内に『名探偵ガルド』様と王妃暗殺事件を解決してこい!」
――ガルド隊長のこめかみがピクッと動いた。
「…セブン。その…いや、なぜ俺が事件解決の中心に。」
怒ってはいない。
だが“本気で困っている”声だった。
俺は”物語”の修正力が一番弱いのは、ガルド隊長ではないかと思い始めている。
「わ、わかりました!!三日以内に…三日以内に必ず…!」
「や、やります!やりますから…どうか…どうか抹殺だけは…!」
二人はセブンとガルド隊長に深々と頭を下げた。
ガルド隊長は深くため息をつき、仕方ないという顔で続ける。
「ロルフ、ダリオ。今からお前たちは司法官のもとへ行き、知っていることをすべて話せ。
三日以内ではない、今すぐにだ。」
「は、はいぃぃぃぃ!!」
二人は焦りながら鍵を開け、競い合うように扉を開き、控えの間を飛び出していった。
扉が閉まる。
静寂。
そして――ガルド隊長は小さく、しかし確かに笑った。
「お前のやり方は…本当に予想がつかん。」
“狂気の演技”と“揺さぶり”は、
見事に二人の兵士を司法官の元へ走らせた。
「隊長と一緒にと言ったのにあいつら…隊長を忘れていってしまいましたね。」
勢いで”ガルド隊長に事件解決を委ねる”という作戦が…”物語”に修正されたか。
「…ああ。」
とだけ答え、ガルド隊長ほんの少し目を伏せた。
「お前の演技と、いい加減な二つ名が効いたのかもな。」
淡々とした声だが、どこか呆れと苦笑が混ざっている。
「それに…俺が行く必要はない。
あいつらは今、“俺に背を向けたら消される”と本気で思っているようだ。
つまり――全力で司法官のところへ走っているだろう。」
「だから俺はここに残る。そして、お前と話すことがある。…セブン。お前は、なぜそこまでして“現場に戻ろう”とする?」
隊長は真剣な目でセブンを見つめている。
「…聞きたいですか?」
俺は隊長に表情を見られないよう背を向けた。
「…ああ。聞きたい。お前が何を抱えているのか、どこまで本気なのか…。」
「セブン。話したくないなら、それでもいい。だが――話したいなら、俺は聞く。」
俺が何人かを相手しているときはこうだ…。
『同じ意味の言葉が、口を変え、人を変え、繰り返される。
まるで見えない何かが、「正しい流れ」に戻そうとしているかのように。』
そして一対一になると始まる”物語”の誘導。
『俺に選択を委ねる。』空気。
まるで、俺が“物語の主人公”であるかのように。
『…………………グヌ』




