第29話【司法の盾】王道ルートへの最終抵抗。会心の敬礼と「王国司法官」への責任転嫁
【前回までのあらすじ】
王妃殿下の飲み物に仕込まれた毒――その“暗殺未遂”こそが、セブンに冤罪がかけられた真の理由だった。
ヴァルステイン卿の筋書きは、セブンを犯人に仕立てて闇に葬る計画だったが、セブンが生きていることで矛盾が露呈する。
物語の修正力が真相を押しつけてくる中、セブンは逆に“持ち場へ強行復職”という最もありえない選択を踏み出す。
「せ、セブン殿…?ま、まさか…もう解放されたのですか…?」
その声には驚きと戸惑いが混じっていた。
あなたがさらに一歩近づくと、二人は思わず道を開けるように半歩下がる。
その瞬間、背後から低い声が響いた。
「セブン。進むな。」
隊長の声は怒鳴りではない。
だが、近衛兵としての本能が反応するほどの強い圧があった。
隊長はセブンの背中に向けて、静かに、しかし絶対的な権威をもって告げる。
「お前の責務は確かに“王妃前室の警備”だ。だが今は違う。今のお前は“王妃殿下暗殺未遂の最大の証人”であり、ヴァルステイン卿が最も狙う標的だ。」
隊長は歩み寄り、あなたの横に立つ。
「ここに立つことは、王妃殿下を守るどころか、逆に“殿下を危険に晒す”ことになる。」
ライエルも追いつき、あなたの肩を軽く叩く。
「セブン。お前がここに立ったら、敵は“王妃とセブンを同時に狙える”って喜ぶだけだぜ。」
タイミングよく王妃の部屋から出てきたエリシアも不安そうに言葉を添える。
「セブン様…どうか、今はご自身を守ってください。それが結果的に王妃殿下を守ることになります。」
そして王妃殿下が、あなたの名を静かに呼ぶ。
「セブン。あなたの忠誠は疑いようもありません。ですが今は――あなたがここに立つべき時ではありません。」
殿下の声は優しく、しかし揺るぎない。
「あなたの席は奪われていません。ただ、今は“別の戦場”に立つべきなのです。」
広間は静まり返り、全員がセブンの次の言葉を待っている。
『同じ意味の言葉が、口を変え、人を変え、繰り返される。
まるで見えない誰かが、「正しい流れ」に戻そうとしているかのように。』
牢獄塔の階段を登っているところから、塔を出るところから…
おれはこの物語の王道ストーリーへのルート修正を強く感じていた。
この人物たちの一斉に追い込むような綺麗な連携…やっぱり間違いない。
エリシアがタイミング良く部屋から出てきて話を合わせた事がその証拠だ、決定的な。
このままこの流れに乗った場合、おそらく…。
毒物の種類や混入の方法を調べ、
毒物を混入させた実行犯やその毒物を作った宮廷薬師を捉え、
ヴァルステイン卿の尻尾を掴み、追い詰め、
悪事を自白させて”事件解決大団円”という事になるだろう。
だがその間、俺は常に”口封じの危険”にさらされたままだ。
一連の作戦が失敗し、あの影のような存在になるかもしれない。
おそらく”主人公というものを失敗した影”という存在の前例がある以上、
この流れに乗ったところで、どこかで失敗する可能性のほうが高いと言っていい。
影ができなかったことを俺ができるという保証はないし、
俺が影より優れた人間であるという自惚れもない。
ここはこの王道ルートから外れたほうが命の危険は少ないだろう。
行動を起こすしか無い。
「どけ三下!!」
俺は前室警備の兵を押しのけ、その場に立った。
『前室警備セブン近衛兵』強引に現場復帰である。
押しのけられた兵士は驚愕し、もう一人は反射的に剣の柄へ手を伸ばしかける。
二人の兵士は困惑し、突然の“現場復帰”に対応できず固まっている。
ガルド隊長は、低く抑えた声で言う。
「…セブン。その場から動くな。」
怒鳴り声ではない。
隊長はゆっくりとあなたの横に立つ。
「セブン。お前がここに立つことは、“王妃殿下を守る”ことにはならない。」
隊長の声は静かだが、その奥には焦りと必死さが滲んでいた。
…それは、もう聞いた。
「お前は今、王宮で最も狙われている。ここに立てば、“王妃殿下とセブンを同時に狙える”という敵にとって最高の状況を作るだけだ。」
…それも、もう聞いた話。
ライエルもあなたの肩を軽く叩く。
「おいセブン…気持ちは分かるけどよ。ここは“お前の席”じゃねぇ。今はまだな。」
エリシアは不安そうにあなたを見つめる。
「セブン様…どうか…今はご自身を危険に晒さないでください…。」
そして、王妃殿下が静かにあなたの名を呼ぶ。
「セブン。」
その声は、ただ、あなたの忠誠を理解し、それでも止めなければならない者の声だった。
「あなたがここに立つべき時は、必ず来ます。ですが今は――その時ではありません。
どうか、戻りなさい。あなたの命は、この国の未来に必要なのです。」
…全部一度聞いた話だ。
ならばよし、こっちはこっちの方法でやる。
俺は何も聞き入れず、隊長に向かって敬礼する。
「ガルド隊長!これより、セブン近衛兵、王妃殿下の前室警備に復帰します!」
そう言うと俺は、左踵で地面を踏み抜き、視線をまっすぐ、姿勢を正した。
近衛兵になってから一番の会心の敬礼を決める。
ガルド隊長は――まるで胸を撃ち抜かれたように、その場で固まった。
敬礼は、忠誠、誇り、覚悟、そして“近衛兵としての魂”そのものだった。
だが、その敬礼を受けた隊長の表情は、誇らしさではなく、痛みと焦りを押し殺したようなものだった。
隊長はゆっくりと息を吸い、そしてセブンの敬礼に対して――敬礼を返さなかった。
「その敬礼は、確かに近衛兵として最高のものだ。だが――その敬礼を今ここで返すことはできない。」
隊長はあなたの腕をそっと下ろさせるように、手を添えた。
「お前は今、近衛兵として“復帰できない”のではない。“復帰させてはならない”のだ。」
お前がここに立つことは、王妃殿下を守るどころか、殿下を危険に晒す。」
「お前が狙われているからだ。」
「どうか、戻りなさい。あなたの忠誠は、ここではなく“別の場所”で必要なのです。」
ご心配ありがとう。
だが、心配には及ばない。
「隊長!私は近衛兵としての誇りと責任を持ってここに立っております!
それが許されないのであれば今すぐこの任を解き、解雇してください!」
これは実際に生き残れるルートの一つだろう。
いっそのこと遠く離れ雲隠れする道だ。
ガルド隊長は、その叫びを聞いた瞬間――まるで胸を殴られたように、息を呑む。
声は震えていない。
覚悟も迷いもない。
ただ、近衛兵としての誇りだけがそこにあった。
隊長は低く、静かに言った。
「お前は、近衛兵としての誇りを捨てていない。それは誰よりも分かっている。」
だがな“誇り”と“責任”は、必ずしも同じ場所に立つとは限らない。」
「今のお前の責任は、ここに立つことではない。お前の責任は――生きて、真実を語ることだ。」
「お前を解雇などできるわけがない。お前は近衛兵だ。俺の部下だ。だが今ここに立つことは、“標的”になることだ。」
ライエルが苦い声で続ける。
「…お前がここに立ったら、敵は“王妃とセブンを同時に狙える”んだぞ。それは守るどころか、殿下を危険に晒す。」
そう来るよな。
たしかにそう来るだろう。
そこまでは織り込み済みだ。
俺だって”簡単に”、”強引に”、”わけのわからない”復帰の仕方ができるとは思っていない。
要は事件を解決してしまえばいいのだ。
俺以外のところで。
「これは単なる都市内の犯罪ではありません。王宮内の重大凶悪事件です。王国衛兵ではなく、王国司法官の所轄になるかとおもいます。」
『………………ヴ』




