第28話【偽りの凶行】毒殺未遂という名の台本。物語の「修正力」を無視して、俺は持ち場へ強行復職する
【前回までのあらすじ】
牢獄塔を脱出したセブンは、物語の誘導を拒むため“黒幕討伐”を宣言し、仲間たちを混乱させた。
しかし王妃殿下・ガルド隊長・ライエル・エリシアは、セブンが知らない“重大な事件”を共有しようと彼を控の間へ連れていく。
そしてついに明かされる――セブンが冤罪で捕らえられた裏に潜む「王妃殿下暗殺未遂事件」の真相。
「セブン。お前が生きていることで証拠になる事件とは…“王妃殿下暗殺未遂事件”だ。」
ガルド隊長が真剣な顔で説明する。
「王妃殿下の部屋で“毒物”が発見された。」
「殿下が口にするはずだった飲み物に“毒”が混入されていたのだ。そして、その直前まで部屋の近くにいたのはセブンお前だけだ。」
ガルド隊長はまっすぐセブンを見て言う。
「そこから”セブンなら毒を仕込めたはずだ”という筋書きが作られた。
ヴァルステイン卿の息がかかったものの証言によってだ。」
王妃殿下が続ける。
「”セブンは私のそばで不審な行動を一切していない。”そう申し出たのですが私の証言は無かったものとされました。」
この証言は、ヴァルステイン卿一派の主張と完全に矛盾する。
もみ消されたのは、そのためか。
ガルド隊長が続ける。
「さらに、毒が仕込まれた“時間帯”に矛盾がある。毒が混入されたのは、セブンが持ち場を離れた後の時間帯だったのだ。」
俺にはまったく覚えがないし、やってもいないが、
そもそも時間的に、毒を仕込むこと自体が不可能ということか。
ライエルが補足する。
「だからだ、お前が生きて証言すれば、“毒が仕込まれた時間帯にお前はそこにいなかった”って証明できる。それだけでヴァルステイン卿の筋書きは崩れる。」
王妃殿下が続ける。
「さらに…毒の種類は“宮廷薬師しか扱えないもの”でした。つまり、近衛兵であるセブンには入手不可能なのです。」
「あなたが生きていることは、“私の暗殺未遂はあなたの仕業ではない”という証拠になります。そしてその矛盾は、ヴァルステイン卿の偽りを暴く鍵となるのです。」
生きろだの、証拠だの、鍵だのと、理解しがたい言われ方をしてきたが…こういうことだったのか。
ガルド隊長がセブンの肩を掴んで言う。
「つまり、お前が生きている限り、ヴァルステイン卿の計画は破綻する。
だから奴はお前を消したい。そして俺たちはお前を守る。」
これが”俺が生きていることが証拠になる事件”の正体か。
ライエルが得意げに言う。
「”無礼罪”はただの口実だ。王妃殿下への無礼罪となれば取り調べなどせずに即刻投獄できるからな。本当の狙いは、お前を“王妃暗殺未遂の犯人”に仕立て、闇へ葬る事だったってワケさ。」
ガルド隊長が結論を述べる。
「セブン。お前が生きていることそのものが、ヴァルステイン卿にとって最大の脅威だ。
ここまでが、事件の全貌とお前が狙われる理由だ。」
俺はこれを知らずに今まで投獄されていたのか。
たしかに即投獄される罪状で牢に拘束しておき、後で王妃暗殺の罪を着せて殺すというのは、計画としては有り得る話だ。
「王妃殿下の暗殺なんて計画を立てただけでも大罪じゃないですか…ヴァルステイン卿一派はそれを実行に移したと…毒殺で?」
ガルド隊長は、俺の問いに対してゆっくりと頷いた。
その表情には怒りと悔しさが宿っていた。
「お前の言う通りだ。王妃殿下の暗殺を“計画した”だけでも国家反逆に等しい大罪だ。ましてや――それを実行に移したとなれば、死罪でも足りない。」
隊長は拳を握りしめ、続ける。
「ヴァルステイン卿一派は、殿下の飲み物に毒を混入させた。これは事実だ。毒の種類も判明している。宮廷薬師しか扱えない、極めて強力なものだ。」
ライエルが苦々しい顔で言葉を継ぐ。
「つまりだセブン。あいつらは“計画した”どころじゃない。実際に毒を仕込んだ。あとは殿下が飲むだけだった。」
王妃殿下が静かにセブンを見つめる。
「セブン。あなたを罪人に仕立てたのは、私の暗殺未遂を“あなたの仕業”に見せかけるためです。あなたが牢に入れられたのは、無礼などではありません。真実を語らせないためです。」
ガルド隊長が結論を述べる。
「ヴァルステイン卿は、王妃殿下を毒殺し、王宮の権力構造を塗り替えるつもりだった。だが計画は未遂に終わり、唯一その矛盾を証言できるお前が生きている。だから奴は焦っている。」
これは?
「セブン。お前が生きていることは、ヴァルステイン卿の“暗殺未遂の証拠”そのものだ。」
…またか。
『同じ説明を、別の口が、少しずつ言い回しを変えて繰り返す。
まるで、見えない誰かが「正しい流れ」に戻そうとしているかのように。』
俺は大変なことに巻きこまれてしまった。
大変なことというのはこの事件のこともあるが…”この物語”のことだ。
また始まった。
登場人物たちが、示し合わせたかのように同じ意味の言葉を、別の口で繰り返し始める。
これはおそらく、ストーリーを本筋に戻そうとする”物語の修正力”だろう。
罪が晴れて牢を出られたところまでは俺の考え通り。
しかし、このまま何もなかったかのように近衛兵に復帰するという目標は…諦めるしか無いのか。
現場復帰が理想であり目標ではあったが今現在、王妃前室の警備のそこには別な兵士が居座っている。
俺は少し考えた。
このままではいけない、なにか自分から行動を起こさなければ大きな流れに流されてしまう。
「わかりました。」
事件の全容を話してくれた三人に静かに告げた。
そして扉のもとにいたライエルを押しのけ、ドアを開ける。
ガチャ…。
「王妃の前室を警備することこそが私が近衛兵として与えられた責務。」
そう言って俺は前室警備の二人の兵士の元へ歩き出した。
ライエルは押しのけられた勢いのまま、
「お、おいセブン!?」
と声を上げたが、俺は振り返らない。
扉を開き控の間を出て、王妃前室へとズカズカ歩き出す。
その背中に近衛兵としての誇りと覚悟を宿して。
前室の警備に立つ二人の兵士は、セブンの姿を見た瞬間、まるで”想定外の人物が来た”と言わんばかりに固まった。
一人が慌てて姿勢を正し、もう一人は視線を泳がせながら言葉を探す。
「せ、セブン殿…?ま、まさか…もう解放されたのですか…?」
『……………』




