第24話【無能たちの集結】全員集合という「悪手」の解放作戦。俺は物語の正解を、力ずくで書き換える
【前回までのあらすじ】
冤罪で投獄されたセブンは、脱獄せずに無実を証明する道を選んだ。
ガルド隊長は王宮が“段取り=フラグ管理”で動いていると認め、無罪復職ルートの存在を明かす。
だがその瞬間、セブンは囮として物語の中心に立たされる危険を突きつけられる。
「そういう計画なのですね、わかりました。」
もう俺に関わる人々に振り回されるのは御免だ。
「この牢から囮として出る瞬間が最も危険だというのなら…俺は勇気を持って、お断りさせていただきます。そこで命が途絶えるなど、あってはなりません。」
その言葉を聞いた瞬間、ガルド隊長の表情が変わった。
ああ…そう来るか。
深い理解と、同時に切なさを含んだ顔だった。
そして。
「お前の“勇気ある拒否”は、俺にはよく分かる。だがな、囮になるというのは“死ぬ役”じゃない。そこを誤解している。」
隊長は鉄扉に手を置き、セブンの目を真っ直ぐに見据える。
「囮というのは、“敵の動きを誘導する役”だ。お前が死ぬような状況を作るつもりは、俺には一切ない。むしろ、お前が生きているからこそ成立する作戦だ。」
隊長は、俺の拒否の裏にある恐れを理解していた。
「無実で、理不尽に投獄され、そのうえ囮になれと言われれば、誰だって身構える。だがな…俺はお前を死なせるために動いているんじゃない。それでも拒否するなら、俺は別の方法を探す。」
柔軟な態度になってきてはいるが…おそらく誘導してくるだろう。
「だが…お前が協力してくれれば、この王宮の闇は一気に崩れる。」
俺が思ったとおりだ。
だんだん分かってきた気がする。
「…死ぬ危険はないのですか。それなら、やりましょう。囮を。この国の為に!」
駆け引きが大事だ。
引くところは引く。押すべきときは押す。
その力強い宣言を聞いた瞬間、まるで胸の奥に灯がともったように、
ガルド隊長は静かに、しかし確かに微笑んだ。
セブンという部下を誇りに思う、“ひとりの男”の表情だった。
力強く頷く。
「…セブン。よく言った。」
「お前の覚悟、確かに受け取った。そしてその覚悟に、俺が必ず応える。その覚悟が、この国を救う鍵になる。」
そして。
俺の答えを待っていたかのように、鳴り始める足音…。
足音は、ひとつではなかった。
重い革靴の音。
軽やかな靴音。
そして、布が擦れるような静かな気配。
ガルド隊長が一瞬で表情を引き締め、鉄扉の前に半歩出る。
「セブン…来る。味方だ。」
だがその声には、どこか緊張が混じっていた。
味方であっても、この牢に来るということは、事態が動く合図だからだ。
最初に姿を見せたのは侍女エリシア。
天井裏からではなく、正面の通路から堂々と現れた。
その顔は、いつもの柔らかさではなく、覚悟を決めた者の表情。
「…準備は整いました。」
続いて現れたのは近衛兵ライエル。
いつもの軽口も笑顔もない。
鋭い目つきで周囲を警戒しながら、俺に短く頷く。
「囮役、引き受けたんだな…さすがだ。」
そして最後に、通路の奥から、ゆっくりと、しかし威厳ある足取りで現れた影。
ガルド隊長が姿勢を正す。
薄いヴェールをまとい、その瞳には強い意志が宿っていた。
最重要人物、王妃殿下。
「セブン。約束通り…あなたを迎えに来ました。」
牢の前に、味方が全員揃った。
しかし…これは。
”一斉に動く”と言ってたのは、
各メンバーを王宮の各所に配置して同時に動くという作戦ではなかったのか…。
俺は思わず頭を抱えた。
作戦も何も、ここに固まってしまっただけじゃないか…大丈夫なのか。
これはもう、ただの面会ではない。
解放の前兆、作戦開始の合図。
王妃殿下が鉄扉に手を添え、静かに告げる。
「セブン。これよりあなたを解放します。…覚悟はできていますね。」
覚悟も何も、真実を知る者がここに集結してしまうという作戦は、ちょっと……。
この牢獄塔で襲撃されたら、目撃者もなく一網打尽だ。
ヴァルステイン卿の手間が省けるだけじゃないか。
誰だ、こんな作戦を考えたのは…。
これは無理だ。なんとかしなければ。
「皆さんはここに集まってくれましたが…ここに国王を呼んで告発するという、俺のプランは実現しなかったわけですね。」
誰の目を見ても、漲っている。
…やる気しか感じられない。
ライエルに至っては、不敵な笑みを浮かべている。
「し…仕方ないのでしょうね…私も覚悟を決めました。」
ガルド隊長は、その静かな覚悟の言葉を聞いた瞬間、ゆっくりと目を閉じた。
王妃殿下も、ライエルも、エリシアも、
その言葉を真正面から受け止めていた。
「…セブン。お前の案は正しかった。だが、王宮の事情がそれを許さなかった。それでも、お前がこうして覚悟を示してくれたこと。それが何よりも大きい。」
「あなたの案は、決して間違っていません。むしろ…私たちが望んだ形でもありました。」
王妃殿下、もしかしてこの“国王抜き集結・無能プラン”に、あなたも噛んで?
「あなたが覚悟を決めてくれたこと、私は誇りに思います。」
殿下の声は静かだが、その瞳には強い光が宿っていた。
そして、隊長が鍵を取り出す。
鉄扉の前に立つ。
牢獄の空気が張り詰める。
「これより、解放作戦を開始する。」
…なにか、嫌な予感がする。
このまま進んでいいものなのか。
失敗したら死ぬ…そして、あの影のような存在に。
そう思うと、俺は“物語”に反抗していた。
「…投獄されて以来、全くと言っていいほど看守が来ていません。」
急に話し始めた俺に、視線が集まる。
「看守がなかなか見回りに来ないのに、貴方たちだけが頻繁にここへ来ては『セブン、セブン。お前が動くなら。おまえが生きるというなら。』みたいに、まるで意思統一されているかのような物言い。」
全員の目が点になる。
「果たして俺は、それを素直に信じていいのだろうか?なぜ牢の鍵を持っている?どこで入手を?」
まさか、お前たちがヴァルステイン卿の手先で、俺を殺そうと…?」
全員の口がぽかんと開く。
「正直に言え!看守を大声で呼ぶぞ!」
ガルド隊長の額に、汗が吹き出る。
「せ…セブン。その疑いは、もっともだ。まず、この鍵だが……俺が持っているのは当然だ。
近衛兵隊長は、王宮内の全牢獄の緊急用の鍵を所持している。ここ牢獄塔は、ヴァルステイン卿の管轄ではない。王妃殿下と国王陛下の直轄だ。」
隊長が鍵を持っているのは、正当な権限ということか。
王妃殿下が続ける。
「あなたが疑うのは当然です。看守が来ないのは、私が来させないよう命じたから。あなたの身に危険が及ばぬよう、牢獄監視の動きを止めていたのです。」
殿下の言葉は、疑念をひとつずつ丁寧に解いていく。
ライエルが肩をすくめる。
「俺たちが頻繁に来てたのは、お前が孤立しないようにするためだ。ヴァルステイン派の連中が看守に“何か仕込む”可能性がある。だから、あえて俺たちが来ていたんだ。」
エリシアが、優しく微笑む。
「セブン様。あなたが疑うのは自然なことです。ですが私たちは、あなたを守るために動いていました。あなたを殺すためではありません。」
そして、ガルド隊長が最後に告げる。
その声は、揺るぎなかった。
「俺たちが、もしヴァルステイン卿の手先なら、とっくにお前は死んでいるだろう。だから安心しろ。俺たちは味方だ。」
牢の前に立つ全員の視線が集まる。
疑念は理解され、その上で、全員がセブンを守る意思を示した。
まぁそれを知っていて揺さぶったのだが…。
「セブン。もう一度聞く。俺たちを信じて、この牢から出る覚悟はあるか。」
牢から出たら、俺は囮になる。
それがこの世界の“正解ルート”なんだろう。
…でも。
その正解、俺が書き換えてやる。
『フゥゥゥゥゥ………ュ』




