第22話【確信のメタ思考】案内人(NPC)と化した最強の騎士。物語の「穴」を突き、理不尽なプロットを切り裂く
【前回までのあらすじ】
ガルド隊長はセブンの無実を証明する証拠を持ち帰ったが、ヴァルステイン卿の妨害により解放命令がまだ出ていないと告げた。
セブンは物語の誘導を見抜きつつも“解放と復職”を最優先し、国王・王妃・隊長・仲間を牢に集めて一気に告発するという完璧な解決案を提示する。
その提案を聞いた隊長は目を見開き、理想的すぎるがゆえに“できない理由”があることを示唆し、物語は次の局面へ動き出そうとしていた。
「…セブン。お前の案は、理屈としては正しい。いや、むしろ理想的だ。」
その声には、はっきりと俺の思考を評価する響きがあった。
「王妃殿下、国王、近衛兵、侍女…全員をここに集めて一気に告発する。それができれば、確かに一瞬で決着がつく。」
ガルド隊長は頷きながらも、表情はどこか曇っていた。
そして、ゆっくりと首を横に振る。
「…だが、それはできない。」
まあ、そう来るよな。
俺の予測通りではある。
「まず国王陛下は今、王宮内で監視されている。
ヴァルステイン卿の勢力が、陛下の周囲にまで入り込んでいるんだ。」
「陛下が牢獄へ向かうとなれば、必ず理由を問われる。そしてその理由が漏れれば…お前は、その瞬間に消される」
それは困る。
監視の目も緩く、しかも閉鎖空間。ここでは圧倒的に不利だ。
「王妃殿下を牢獄に連れてくるなど、あまりにも危険すぎる。殿下はすでに監視され危険な状況に晒されている。ここに来る途中で襲われる可能性が高い。」
殿下は悠長にここへ単独で来ていたが…。
それがどれだけ異常なことか、本人だけが分かっていない。
陰謀さえ絡んでいなければ、
その無防備さも“らしさ”で済んだんだが。
「俺が護衛しても、あいつらは正面から来ない。死角を突くか、罠を張る可能性もある。」
たしかに、それは考えられる。
「ライエルもエリシアも、今はヴァルステイン派の目がついている。二人が同時に牢獄へ向かえば、それだけで“異常事態”だと悟られる。」
あいつら、いい感じにイチャついてたからな…そりゃ王宮内では目立つだろう。
「そうなれば、証拠を持つ俺が先に消される。セブン。お前の案は正しい。だが王宮はもう、“正しいだけ”では動かない場所になっている。」
その言葉には、長年この宮廷の闇を見てきた者の重みがあった。
たしかに理にかなっている。
この作戦を実行に移せば、俺に協力してくれる人間たちの身が危険に晒される。
「…だがな。お前の案を完全に否定するわけじゃない。」
ガルド隊長は一拍置いて続ける。
「国王と王妃殿下をここに連れてくることはできないが、お前をここから出す瞬間に、全員を動かすことはできる。」
「つまり…お前の案を、逆順にするんだ。」
ガルド隊長は俺を見据え、力強く言った。
「セブン。お前が牢から出るその瞬間、国王、王妃殿下、ライエル、エリシア、そして俺。
全員が同時に動く。
ヴァルステイン卿が仕掛ける前に、こちらが先に包囲するんだ。」
なるほど。
各々が一斉にタイミングを合わせて動けば、敵の対応は遅れ、判断も散漫になる。
戦術に長けたガルド隊長らしい案だ。
「そのために…お前には、ある役割を担ってもらう。」
ガルド隊長の目が、鋭く光った。
…危ない。
“ある役割”。
この言い回しと、その目。
これは、乗ってはいけない流れだ。
このまま話を続けさせるわけにはいかない。
アイディアがあるわけじゃないが、とにかく止める。
「ちょっと待ってください、隊長。」
ここは、俺なりの立ち回りで行くしかない。
頭をフル回転させる。
「ライエルとエリシアって、本当に監視されてますか?
さっき、あいつらイチャイチャしながらここの天井から出てきて、イチャつきながら帰っていきましたけど…。」
その言葉を聞いた瞬間、ガルド隊長の顎が落ちた。
…あいつら、またやったのか。
という、深い諦めの色だった。
額を押さえる。
「…セブン。まず一つ言わせてくれ。
“監視されている”というのは、普通の兵士なら、の話だ。」
深くため息をつく。
「ライエルとエリシアは…あいつらは“監視されている側”でもあり、同時に“監視する側”でもある。」
つまり、監視されているフリをしながら、監視している連中を逆に監視している。」
「だから天井裏を使って動いているんだ。」
陽動、囮というわけか。
でも隊長の表情を見るに…苦しい言い訳だな。
「…で、イチャついていたのか。」
俺が頷くと、隊長は天井を見上げ、静かに呟いた。
「…あいつら、任務中だという自覚がないのか。いや、あるんだろうが…なんで天井裏で。」
俺は背伸びして、天井の蓋になっている石を開けてみせる。
「あ、ここの天井…外と繋がってて、普通に出られるみたいです。」
ガルド隊長は一瞬固まり、ゆっくりと天井を見上げた。
「…セブン。それを“普通に出られる”とは言わない。」
「天井裏の秘密通路は、本来は王宮の緊急脱出路だ。近衛兵の中でも“ごく一部”しか知らない
…ライエルとエリシアは、それを勝手に使っているだけだ。」
そういう秘密の通路や部屋を使って…いったい何に使っているんだ?
「つまりだ。あいつらは“監視されている”が、監視している側の目を欺く術を持っている。」
…さっきと同じ説明だな。
「だから表向きは監視されているように見えても、実際には自由に動ける。」
…また同じだ。
「…そして、優秀で自由に動けるからこそ、天井裏でイチャつく余裕があるんだろう。」
…隊長の言葉が、さっきの台詞をなぞっている。
個人の存在より物語の役割としての存在が濃くなってきた!
ガルド隊長は、がくりと肩を落とした。
よし。
この“落ち込み”と繰り返しによる個の弱体。
ここに合わせて、斬る。
「ガルド隊長。王妃殿下にも、つい言ってしまいましたが…。」
さぁ、どう受ける。
「俺の意見が正しくても、“色々あってそれは無理だ!”って流れで、
ある回答へと強引に導くやり方。」
「選択肢に『はい』って答えないと先に進ませてくれない物語の案内人みたいですよ…。」
ガルド隊長は、図星を刺されたNPCのように固まった。
そして俺は、確信する。
ガルド隊長へダメージが通った!
『………………ヴヴォヴォオオオオ』




