第20話【生存の論理】影は「詰んだ」前任者? 隊長が提示する“人外の痕跡”と、次なるフラグの全力拒絶
【前回までのあらすじ】
影は自らを“存在を消された元人間”と明かし、セブンも無実のまま消されれば同じ運命だと警告した。
行方不明だったガルド隊長が重傷で帰還し、王妃直筆の証言と“影の痕跡”という二つの証拠を持ち込む。
だがどちらも決定打にはならず、ヴァルステイン卿の反撃が迫る中、セブンの解放は依然として不確実なままだった。
ガルド隊長は影の存在をどう理解してどこまで知っているのか。
ここは少し探ってみる必要がある。
「影が王妃殿下の部屋に…その証拠があるとは!
殿下の部屋に侵入してあんなことやこんなことを…くっ、卑劣な奴め!」
「落ち着けセブン。お前は何を想像しているんだ。
影は“そういう意味”で王妃殿下の部屋に入ったわけではない。」
あなたの誤解を正すために一切の冗談を排していた。
「影が残した痕跡は“侵入の証拠”だ。王妃殿下に危害を加えた形跡はない。
ましてや、お前が想像しているような行為など…断じてない。」
その言葉には王妃殿下への敬意と、影への警戒が同時に宿っていた。
「影は“観測者”だ。何かを盗むためでも、欲望のためでもない。
王妃殿下の部屋に入ったのは、何者かの動きを追っていたからだ。」
「むしろ王妃殿下を守るために近づいた可能性すらある。」
隊長は影の存在を認識している。
ここまでの情報を整理すると、影は一般人には見えない存在だ。
だが、ここに来た四人は全員、影を認識している。
物語の進行に深く関わる者だけが、影を見られる…そんな仕様にも思えた。
少し考えてみる。
影が前に言っていたこと…ふと、発想が頭をよぎった。
影は、ゲームオーバーした“前の主人公”なんじゃないか。
俺以前にこの世界の物語の主人公に選ばれた者。
そしてこの世界の物語の選択肢を誤りバッドエンドでゲームーバーになり影になった…のかも。
その瞬間、胸の奥に引っかかっていた記憶が、ふいに浮かび上がった。
…転生前の記憶だ。
【ゲームオーバーしたプレイヤーが影になり、次のプレイヤーにヒントを残せるゲーム】
…まさか、そういうこと!?
影になると、表舞台には立てない。
直接、物語の選択には関われない。
だが…次のプレイヤーである俺に、ヒントだけは出せる存在なのか?
ちょっと鳥肌が立ったが…転生まで経験してしまっているので、有り得なくはない話だなと納得する。
考えすぎかもしれないが登場人物の不自然な言動やそれとは少しズレた位置の影の存在。
今のところ、この考えは……そこまで的外れでもなさそうだ。
よし、この考えを前提に進めていくとしよう。
冤罪を晴らすと言ってもやり方次第ではバッドエンド。
選択を間違えるとゲームオーバー…からの”影”になるかもしれないという推測。
慎重にならざるを得ない。
だから今は、何も知らない普通の近衛兵のフリを続ける。
それが、いちばん生存率が高そうだ。
「…隊長、改めてありがとうございます。おかげで証拠を手に入れることができました。」
「ああ、セブン。この証拠があれば、お前は自由になれる。
いや…誰であろうが自由にせざるを得ない。」
俺の胸に“現実的な希望”が灯る。
王妃殿下の直筆の証言書をガルド隊長は巻物を軽く持ち上げる。
そして黒い羽根のような痕跡を見せながら、ガルド隊長は続ける。
「これが“侵入者がいた証拠”だ。王妃殿下の部屋にいたのはお前ではない、それを示す裏付けになる。
影そのものが残した痕跡は、王宮の記録上“前例がない”。だからこそ、国王は無視できない。」
俺の推理が正しければたしかにそうだろう。重要ではない登場人物は影を認識できないし、影がなにか物理的な証拠を残せるゲームは聞いたことがない、残せるのはメッセージだけだ。
…ゲームだと決めつけるのは早すぎるか。
しかし影はある程度自由に行動できるということだな。
「お前はもうすぐ自由だ。だが…解放される前に、お前に伝えなければならない“もう一つの事実”がある。」
ガルド隊長の表情がわずかに曇る。
「この事件は、お前の無実を証明するだけでは終わらない。 王宮の奥で、もっと大きな何かが動いている。」
おっと来たぞ…。
また物語が、俺に“次の役目”を押し付けようとしている気配がする。
だが俺は俺の現実で生きている以上、このゲームに振り回されるわけには行かない。
今はまだ想像の域を出ないが、このゲーム…このストーリー…この現実…
当面の目標は『無実の証明』と『復職』。
それだけは、何があっても外さない。
その上でゲームオーバーにならないように話を捻じ曲げていく。
「ガルド隊長お戯を…"だが…解放される前に"とはいやはやなんとも。」
俺は柔らかく苦笑いしつつも目は真剣に圧をかける。
「ここはガルド隊長が手に入れた証拠もございますし、解放を優先しましょう!
そうして頂ければ俺も自由に動けるわけですし、その”何か”対策にも勿論ご協力いたします。
王宮がどうこうという難しい話ならここから出た後にいくらでも聞けます!近衛兵として!」
ガルド隊長は、俺の必死の訴えを聞いた瞬間、
まるで胸を撃ち抜かれたように、ぐっと言葉を飲み込んだ。
『ウウウ…………』




