第18話【存在の消去】無実を証明できなければ「ゲームオーバー」。影が語る、敗北者の末路
【前回までのあらすじ】
セブンは自分が物語の正規ルートへ誘導されていることに気づき、登場人物の言動が“台本”に沿っていると分析した。
脱獄や英雄ルートを拒否し、あくまで“無罪と復職”という自分だけの結末を選ぶと決意する。
世界がどれだけ物語を進めようとしても、セブンは論理でねじ伏せて自分の人生を取り戻す覚悟を固めた。
他に誰もいないはずの牢獄の空気が、ほんのわずかに動いた。
誰かが近づいてくる気配がする。
…来たか。
俺の処遇に関わる“何か”が、ついに動き出したらしい。
牢獄の静けさの中、俺が感じた“気配”は、
まるで霧の中からゆっくりと形を成すように、
確実にこちらへ近づいていた。
足音はしない。呼吸も聞こえない。だが、確かに“誰か”が来ている。
そしてその気配は、牢の前でぴたりと止まった。
鉄扉の向こうに、影が落ちる。
光の乏しい牢獄の廊下に、人影がひとつ、ゆっくりと伸びた。
その影は、普通の兵士のように見えるようでいて、どこか“違和感”がある。
期待と不安の間で感情が揺れる。
「解放されるのか?」
俺の自然な問いにそれはすぐには答えない。
して、低い声が静かに響く。
「…セブン。」
その声は、俺が知っている仲間の声ではなかった。しかし、敵意は感じられない。
むしろ“観測している”ような、冷静で、淡々とした声。
鉄扉の向こうで、その人物はゆっくりと姿を現す。
影だ。
「起きているのは分かっている。」
黒い外套。足音のない歩み。存在感があるのに、気配がない。
以前、牢の中で遭遇したあの存在がまた来た。
「…解放されるかどうか。それは、お前次第だ。」
影はただ静かにセブンを見つめる。
「お前の無実は、すでに証明されつつある。だがそれを誰が証明するかで、お前の未来は変わる。
…お前は、誰に解放されたい?」
久しぶりに顔を出したと思ったら…選択を迫ってきたな。
やはりこの影も物語のなかの登場人物の一人か…。
”誰に解放されたい?”だと…誰でもいいじゃないかなぜそんな事で未来が変わるんだ。
それよりも影には聞きたいことがある。
それをはっきりさせるほうが先だ。
「久しぶりだな謎の影。それよりも正体を明かしたらどうだ?俺は逃げも隠れもしないし、実際逃げも隠れもできない状態だ。」
「一方的に自由な所から俺に何を問おうが、俺は何も答えないぞ。
まずはお前が何者なのか…話はそれからだ。」
影は、しばらく沈黙した。まるで覚悟を測るように。
そして低く、淡々とした声が落ちる。
「…正体を明かせ、か。」
影は一歩、あなたに近づく。足音はしない。
「私は…かつて、この王宮に仕えていた者だ。」
その声は、人間のようでいて、どこか“人間ではない何か”を含んでいる。
「名も、地位も、記録も、すべて消された。それは私の意思じゃない。
だから今の私は、人でも亡霊でもない。ただの“影”だ。」
影はさらに踏み込む。
「お前が私に何も答えないと言うのは正しい。
一方的な問いは、一方的な力の行使だからだ。…お前が望むなら、私は正体を明かそう。」
影は静かに、問いかける。
「セブン。お前は本当に、私の正体を知る覚悟があるのか。」
知れば、もうただの近衛兵ではいられない。」
クドイ…一度聞いているんだからもう普通に答えてくれ。
「影という表現ではなくて実際に存在が影そのものという事?
人ではないという事はそういうこと?」
「…影そのものと言われれば、そうとも言える。
私は、かつて“人”だった。だが今の私は、人という枠には収まらない。」
影は“影である理由”を語り始める。
「人は、記録され、名を持ち、誰かに覚えられることで“人”でいられる。」
だが私は名も、記録も、存在の証明も奪われた。 それは死よりも深い“消去”だ。」
影は淡々と続ける。
「その結果、私は“人”ではなくなった。だが“怪物”でもない。ただ、王宮の裏側に残った“影”だ。」
お前が言うように、私は“影という表現”ではなく、存在そのものが影に近い。
肉体はある。声もある。だが存在は人ではない。」
影は一歩、あなたに近づく。
「だからこそ、お前のように“外側”を感じる者にしか、私は見えない。」
それが、今の私だ。」
「私も、かつては“無実”だった。だが、証明される前に存在そのものを消された。
お前がもし、このまま誰にも知られず、誰にも救われず、牢の中で死んだならお前も“影”になるだろう。
名を奪われ、記録を消され、証言をねじ曲げられ、真実を封じられた者は
この王宮では存在しなかった者として扱われる。」
影はゆっくりと首を傾ける。
「それが、私だ。」
まてよ…。
それ…俺と同じじゃないか。
ただ一つ違うのは…影は無実を証明して物語を進められなかった…。
俺の前にも俺と同じように冤罪で投獄された者がいて、無実を証明できずに…終わった。
…俺も同じように無実を証明できなきゃ、名前も存在も消されるって事?
そしてなかったものとされる…って。
ここはゲームの世界?
もしくは何らかの物語の中で
クリアに失敗すると名前も存在もなかったことに…リセットか何か?
…待て。
それってつまり、ゲームオーバーじゃないか…。
嘘でしょ…。
「だがお前には、お前を信じる者がいる。王妃殿下も、ライエルも、エリシアも、そして…ガルド隊長も。
私は誰にも信じられなかった。だから“影”になったのだ。」
ということは、お互いに存在を信じ合う仲間がいれば…影にならないで済むのか。
リトライできる?コンティニューできる?
とりあえずゲームオーバーにはならないということか…。
…冗談じゃない。
俺は、影にはならない。
『………………』




