第10話【殿下!お気を確かに!】
王妃殿下の気品に満たされた牢獄内の空気
ひんやりとしているのに温かみがある
殿下は、背筋を伸ばして立っていた。
『王命すら破る覚悟』
その目には、もう迷いがなかった。
小窓越しに、まっすぐこちらを見据え、俺の言葉を待っている。
しかし俺の考えを覆すほどのものではない。
王妃殿下、お覚悟はよろしいか。
「王妃殿下、お気持ちはわかりますし、努力なさってるのも分かります。
ですが…殿下は“役を演じ直そう”としているだけに見えます。」
殿下の”ウグッ”という喉の音が聞こえる。
「NPCではないということを証明するというならば、殿下ご自身の考えをただ述べるのではなく…
例えば”一緒に投獄されてしまう”とか、後々明らかになるであろう”黒幕をバラしてしまう”とか、そのくらいのものが欲しいところでございます。」
大丈夫だろうか。俺は殿下より自分自身の心配をした。
この要求は王宮どころか、この世界そのものに喧嘩を売るレベルの無茶ぶりだ。
だが殿下は逃げなかった。
むしろ、言葉を真正面から受け止めた気配がある。
そして。
「…セブン。あなた…本当に…私にそれを求めているのね?」
殿下は一瞬、言葉に詰まった。
困惑と、照れが見えた。
「一緒に投獄とか…黒幕を今ここで暴露とか…そんな…王妃がしてはいけないことを…?」
なぜちょっと照れた…。
殿下は腰に手を当て仁王立ちし、小窓からセブンをじっと見つめる。
少しずつ開き直ってきたのだろうか。
「…あなた、私をNPC扱いした上に、今度は“物語の枠を壊せ”と言うのね…?」
その声は、呆れと、ほんの少しの笑い。
殿下は、静かに息を吸う。
「…いいわ。」
その一言で、空気が変わった。
殿下の声から、いつもの硬さが消えていた。
それは王妃の声ではなく、ひとりの人間のそれだった。
殿下は周囲を確認し、鉄扉の小窓に再び顔を寄せる。
そして、王妃として絶対に言ってはならない言葉を、あなたにだけ囁いた。
「セブン…よく聞いて…黒幕は」
殿下は、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
「黒幕は…王の側近長、ヴァルステイン卿よ。」
俺の喉が、ひくりと鳴った。
その名前を、殿下の口から聞くとは思っていなかった。
「王妃である私を監視し、あなたを投獄させ、王の命令を偽造しているのは…あの男。」
俺は思わず殿下を見上げる。
殿下はあえて強気な表情を作って続けた。
「これで…NPC扱いは撤回してくれるかしら?」
その声にはほんの少しの意地。
そして殿下は、さらに踏み込む。
「それと…あなたが望むなら…私も一緒に投獄されてあげる。 その方が、あなたは安心するのでしょう?」
強気に声を張りながらも。
鉄扉の向こうで、殿下の指が震えていた。
決意の震えだ。
「どう?セブン近衛兵これでもまだ私が物語をレールに戻そうとしているNPCに見える?」
殿下は、確かに一線を越えた。
…だが、俺にとっては、むしろ都合がいい。
「殿下、やはり殿下はまごうことなき王妃殿下にあらせられます。
大変重要な情報、誠にありがとうございます。
では、さっそくその事実を公にし私をここから出してください。」
そして返答を聞かず続ける。
「それが一番"普通"の事です。何故そこまで知っていて
ここに来てただの近衛兵と話をしてるんですか。」
その言葉は、王妃という立場にとって“最も痛いところ”を突いていた。
そして、殿下はゆっくりと目を閉じた。
まるで覚悟を固めるように。
やがて。
「あなたの言う通りよ。
普通なら、私は真実を公にし、あなたを解放し、
王宮の腐敗を正すべき立場にある。」
その声は、これまでで一番“人間らしい”揺らぎを含んでいた。
殿下は鉄扉に手を添え、指先が白くなるほど力を込める。
「でも…“普通”が通じる状況ではないの。」
殿下は、あなたの目をまっすぐに見つめなおす。
「ヴァルステイン卿は、王の側近長でありながら…王宮の半分以上の権限を握っている。
侍女、侍医、近衛の一部、文官、書記…彼の手の者が、王宮の至るところにいる。」
静かに告げる。
「私が真実を公にした瞬間、私は“反逆者”として処分される。 たとえ王妃であっても…です。その危険を冒してまでもここへ来たということです。」
殿下の声は、驚くほど落ち着いていた。
まっすぐに通るその声が、冗談ではないと告げていた。
そして鉄扉へ一歩近づく。
「…あなたは“ただの近衛兵”ではないわ。」
その言葉は肩書きではなく、“セブンという人物”を指していた。
「あなたは誰の派閥にも属さず、誰にも媚びず、誰にも利用されない。だからこそ、だからこそ…あなたにしか頼れないの。」
ほんの少しだけ声を落とす。そして決意をもって話し出す。
「私があなたをここから出すためには、あなた自身が“動く意思”を示さなければならない。そうでなければ、私が動いた瞬間にあなたごと消される。」
「私は…あなたを守りたい。でも、あなたを守るためには…あなたが生きる意思を示す必要があるの。」
「だから私はここに来た。あなたに“選ばせるため”に。」
殿下…
やはりあなたは…
俺はこう答えられずにはいられなかった。
「殿下!お気を確かに!!言動がまたNPCのようになっておられます!!」
その瞬間、殿下の目が、ほんのわずかに見開かれた。
あとがき
王妃殿下は愛されいじられキャラ
性格は可愛いので読んでくれてるあなたのようです!感謝!




