第二幕 第二場 勇者(五)
リックの言うとおりなのだが、なんとなく肯定してはいけないような気がするのはなぜだろう?
(『元気』の意味合いが、違って聞こえるのは気のせいか?)
ユディは、答えをためらってしまう。
そのうちにーーーー。
「わかった。僕、やっぱりエドガーさんを応援するよ!」
リックは、そう言った。
なんでそうなるのか?
ユディは頭を抱える。
「応援は止めてくれ」
「どうして? 父さんだって、自分に好意を持ってくれる人が増えたらいいって思うでしょう?」
「それはそうだが……エドガーが父さんに好意を示すのは、自分を助けて欲しいっていう下心があるからなんだぞ」
だからそんなに応援するとかしなくていいのだと、ユディは言いたい。
リックは、少し考えた。
「……でも、父さん、前に下心のない好意なんて、この世にはないんだって言っていたじゃない? 父さんが、僕らを引き取って面倒見てくれるのも、宿屋を手伝って欲しいっていう下心があるからなんでしょう?」
ユディは、グッと言葉に詰まった。
たしかに子どもたちにはそう教えたのは、ユディだ。
子どもたちから過剰な感謝をされたくなかったからそう言った。
そんなユディを見て、リックはニカッと笑う。
「だったら、やっぱり僕はエドガーさんを応援するよ。下心がある方が、絶対父さんを大事にしてくれそうだもの」
ユディは、口を開いて…………閉じた。
内気で大人しいリックだが、こうと決めたら動かない強い一面も持っていると、知っているから。
「わかった。……でも、本気でエドガーの応援は止めてくれ。そんなことしなくても、俺はちゃんとあいつを元気にしてやるから」
結局ユディは、そう頼んだ。
……そう言うしかなかった。
リックは、また少し考えてから頷く。
「うん。わかったよ。こういうのは、本人同士の気持ちが一番大事だっていうもんね。僕たちが興味津々に見ていたら、父さんも素直になれないかもしれないし――――」
そんな心配はまったくいらない!
ユディは、声を大にしてそう言いたい。
しかし、下手に言い訳しても誤解が深まるだけだとわかるから、言葉を呑みこんだ。
「――――それに、ロッド兄さんにバレたら叱られるかもしれないし」
小さな声で付け足されたひと言に、ユディは首を傾げる。
ロッドとは、ユディが最初に引き取った子どものことだ。十六歳で『魔法使い』のスキルを発現し、今は賢者の塔で暮らしている。年齢は、アーサーよりひとつ年上の二十一歳。寡黙で実直、真面目な青年だ。
リックとペーターは、ロッドがひとり立ちしてから引き取ったため、一緒に暮らしたことはなかった。
しかし、アーサーやティムからよく話を聞かされているし、ロッドも帰って来た時は、二人を可愛がっているため「兄さん」と呼ばれ慕われている……と思っていたのだが?
「ロッドは、口数が少ないから怖く見えるのかもしれないが、すごく優しい男だぞ」
だから叱られるなんてあり得ないのだと、ユディは言おうとした。
「そうだよね! ロッド兄さんは、口数が少ないのがダメダメなんだ。黙っていても想いは伝わるとか、相手によると思うんだよね。……少なくとも、父さん相手じゃ絶対無理なのに!」
なにやら勢いよくリックに叫ばれて、ユディはタジタジになる。
「……リ、リック?」
「だから、僕は有言実行のエドガーさんの方を応援しようと思ったんだ。父さんには、多少強引な人の方がいいと思うし。……そうでしょう? 父さん!」
普段内気なリックにグイグイと迫られて、ユディは焦った。
「お…………おう?」
つられてついつい頷いてしまう。言われた意味は、あまりよくわかっていない。
「やっぱり! 大丈夫だよ。ロッド兄さんには、いざとなればアーサー兄さんがいるしね。父さんは、安心してエドガーさんにくどかれて!」
どこにも安心できる要素はないような気がするが…………。
「エドガーの応援は止めるんだよな?」
「うん。二人の邪魔はしないよ」
とりあえず、その言葉さえ聞ければそれでいい。
というか、それ以外の言葉は理解したくなかった。
「約束だぞ。ペーターにもきちんと言い聞かせておけよ」
「はい!」
この日、精神的にぐったり疲れながら、ユディは子どもたちとの会話を終えた。
ずっと面倒を見ていて誰よりわかっていると思っていた子どもたちのことが、ちょっぴりわからなくなったユディは「これが反抗期か?」と悩んだのだった。




