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無能とバカにされてきた宿屋の主人は、今さら聖女になんてなりたくない!  作者: 九重


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第二幕 第二場 勇者(四)

 そして同じ裏庭。

 ユディの前にいるのは、ペーターと入れ替わりで呼びだされたリックだ。

 茶色いくせ毛の少年は、ユディを見るなりガバリと頭を下げた。


「ごめんなさい、父さん。僕、止めたんだけど――――」

「ああ、わかっている。それでどんな経緯でああなったんだ?」


 エドガーが割った薪を束ねた上に腰掛けたユディは、リックに薪割り台に座るよう促す。

 焦って話そうとする子どもを落ち着かせながら、話に耳を傾けた。



 リックが言うには、エドガーが彼らのところに現れたのは、ユディが最初に穢れを祓った一週間後の朝だったそうだ。


「――――あの人、死にそうになっていた自分を父さんが看病してくれたって、僕らに教えてくれたんだ。それにものすごく感謝しているって。……『きみたちの父さんはすごい!』『あんなに優しい人は、世界中探したっていないぞ!』『最高の人だ!』って褒めまくって――――それが僕たちとっても嬉しかったんだよ。ようやく父さんの本当の価値に気づいてくれる人が現れたんだって思って」


 リックもペーターも、孤児院で居場所がなく困っていたところをユディに引き取られている。そのためか、二人はとてもユディを好いてくれていた。スキルなしでも宿屋を経営し、当たり前に暮らしているユディを尊敬していると言ってもいい。


 しかし、そんなユディに対する世間一般の評判は、スキルなしの『無能』

 そのことに一番怒り悔しく思っているのも、リックとペーターだった。


 そんな中、エドガーは手放しにユディを褒め、心からの感謝の言葉を口にしたのだ。彼らがエドガーに好意を抱くのは、自然な成り行きだっただろう。


「それで、エドガーさんは父さんに『惚れた』って言ってきて、どうしても『両想いになりたいから協力してほしい』って頼んできたんだ」




「………………は?」


 ユディは、ポカンと口を開けた。


「なんて?」


 思わず聞き返す。


「もうっ、父さんったら。僕、恥ずかしいからあんまり何度も言いたくないのに――――あのね、エドガーさんは父さんのことが()()()で、すっごく()()()()()んだって。そして父さんにも自分のことを大好きになってほしいと思っているんだよ。ホントにベタ惚れみたいで『ユディのことを想うと、胸がドキドキして苦しい』って言っていたよ。……他にもどこがどんなふうに好きかとか、いろいろ力説してくれて――――ちょっと()()んだけど、全部聞く?」


 もじもじしながら聞いてくるリックに、ユディはブンブンと首を横に振った。


「……いや、だって……俺は男だぞ。エドガーだって男だろ?」


 あの長身と引き締まった筋肉は、女性のものとは思えない。つい先ほど裸の上半身を見たばかりだが、柔らかな膨らみなんて欠片もなかった。


(…………あ、いや。別の意味で発達して厚みのある胸筋ではあったな)


 エドガーの裸体を思い浮かべたユディは、なんとなく顔を赤くする。


「本物の恋の前では、性別なんて些細なことなんだってさ。それに、王さまと王配殿下だって男同士で結婚しているじゃないか」


 たしかにリックの言うとおりだった。

 この国は、()()()()()()()()()()()()()


(でも、それもこれもスキルのせいなんだよな。『国王』も『王配』もスキルで決まるから、性別なんて二の次なんだ)


『国王』は、代々王族にのみ現れる血統スキルだ。一世代にひとりで、王族であれば男女問わず、王子や王女のみならず、王の甥姪や、年の離れた弟妹が次代の国王に選ばれたこともある。


 対して『王配』は、身分を問わないスキルだった。『国王』スキルの発現と同時に現れて国の統治を補佐する能力が授けられる。


(まあ、そうは言ってもほとんどは貴族家の子どもに現れるんだが。……ああ、でも前々代の王配は、裕福な商人の息子だったかな?)


 スキルがあるだけで資質は十分なので、身分で不都合が起こったことはない。


『国王』と『王配』が同性同士なのはよくあることで、このため同性同士の結婚も法で制定されたのだ。

 次代の国王の選定基準はスキルの有無だけなので、『国王』に子ができなくとも他の王族に子がいれば問題はない。


(高位貴族の配偶者も『家宰』のスキル持ちが推奨されているからな。性別よりもスキルの有無を優先して婚姻を結ぶって聞いている。……後継者は愛人に産ませるか、養子を迎えるかすればいいだけだからな)


 とはいえ、同性婚は王侯貴族に多く、平民は異性と結婚するのが一般的。


(愛人を囲うには金がかかるからな。……実に世知辛い理由だ)


 ユディは、そもそも『無能』な自分が結婚できるとは思っていなかった。

 ただ、万が一するにしたって、相手は女性だと当たり前に思っていた。恋愛も然り。


(なのに、エドガーが俺を愛しているだって?)


 そんなバカなと、ユディは思う。

 ズキズキと頭が痛くなってきて、こめかみに手を当てた。


「……あのな、エドガーは、死にたくないから必死なだけだぞ。……詳しくは言えないが、父さんはエドガーが元気になるための手伝いをしているんだ」


 エドガーが『勇者』だとか、呪いを受けていてそれを『聖女』のユディが治しているのだとか、そんなことを子どもたちに教えるわけにはいかないだろう。

 その辺をぼかしながら、あくまで自分とエドガーは、もっと利己的な関係なのだと、ユディは強調する。


(きっと、エドガーは完全に呪いを祓ってもらえるまで、宿から追い出されたくないんだろうな。俺が聖女だと言いふらさなければ、ちゃんと浄化するって約束したのに。……まあ、会ったばかりの相手を信じ切れないのは当然か。……だからって『好き』だの『惚れた』だの、嘘をついてまで子どもたちを味方につけなくともいいのに)


 エドガーの(たち)の悪さに、ユディは舌打ちしたくなる。


「元気に? ……そっか、エドガーさんは父さんがいないと元気にはなれないんだね」


 ところがリックは、何をどう感じ取ったのかしみじみとそう言った。


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