序章 スキルが帰ってきた日
――――勇者一行が魔王を倒した日。
「……こんなっ! 今さらっ……馬鹿にするなっ!」
深夜。ひとりの青年が、肩をふるわせむせび泣いていた。
ここは彼の営む宿屋の私室だ。簡素なベッドに座る青年以外に人影はなく、その声はいったい誰に向けられたものか。
「俺が、これまでどれほど辛酸をなめてきたか……それを今になってスキルが現れるなんて……しかも『聖女』だと! ……要らないんだよ、こんなモノ!」
青年――――ユディは、毛布を握り締めた。
ブルブルと拳を振るわせ、フーフーと荒い息を吐く。
いつもは穏やかな茶色の瞳が、今は小さなランプが作りだす薄闇をキツく睨んでいた。
ランプに照らし出された彼の髪は、くすんだ麦わら色だ。
しばらくそうしていた彼は……しかし徐々に呼吸を落ち着かせていった。
最後に大きく息を吐く。
「こんなスキルを得たからって、俺は変わらない。……なにも変えさせやしない! 俺は、今までどおり生きてやる」
ユディは、自分で自分に言い聞かせるかのように声に出す。
その後、体を横にすると目を閉じ布団を被った。
なかなか寝つけないのだろう何度も寝返りを打っていたが、一時間も経つ頃にようよう動かなくなる。
夜の静けさに寝息が溶け、月明かりが窓からこぼれ落ちた。
涙の残る頬は、透けるほどに青白い。
常人ならば十歳までに発現するスキルを、三十路になっても手に入れられず無能と蔑まれていたユディが、はじめて己のスキルを知った夜のことだった。




