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無能とバカにされてきた宿屋の主人は、今さら聖女になんてなりたくない!  作者: 九重


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第三幕 第二場 聖騎士(四)

「美味しいです!」


「そうですか。たくさん食べてください」


 コカトリスを料理してから十日。

 客がはけた夜の食堂で、ユディはローレンスにペリュトンのステーキを振る舞っている。


 ペリュトンとは、頭と足が鹿で体は鳥の怪物だ。


 エドガーが解体を一手に担うようになった宿屋では、毎日物珍しい料理が提供されるようになっていた。一昨日などは、ワイバーン肉のシチューまで出たほどだ。


 当然、そのすべてを狩ってきたのはローレンスだった。

 解体したのは、もちろんエドガー。


「ユディさんは、本当に料理上手ですね」


 ローレンスは、ステーキを満足そうに食べ終えた。

 椅子に深く腰掛けピンと背筋を伸ばした彼のテーブルマナーは美しい。平民として生まれ育ったユディでも、わかるくらいの上品さだ。

 きっと彼はそれなりの家の出身なのだろう。話し方も身のこなしも、とても洗練されているように感じる。


(だから、何も出来ないのかな?)


 今日も今日とてローレンスのせいで、トンカツの予定だった昼食のメニューはハンバーグになった。筋切りを頼んだだけのはずの肉がミンチになったためだ。

 ユディがその時の惨状を思い出していれば、厨房の奥から声がした。


「それを食べたらさっさと出て行けよ」


 不機嫌そうな声の主は、エドガー。白いエプロンの似合う勇者さまは、カチャカチャと食器を洗っている。

 こちらは安心して任せられる手際の良さだった。


「君は冷たいな。それでも一緒に魔王を倒した仲間なのかい?」


「フン……出て行きたいと言ったのはお前だろう?」


 恨めしそうなローレンスの声にも、エドガーは素っ気ない。

 いや、素っ気ないと言うよりは、機嫌が悪いと言うべきか?


(ひょっとして、ローレンスがいなくなることを寂しく思っているのかな?)


 ユディは、チラリとエドガーに目を向けた。





 昨晩、ローレンスの浄化が終わった。

 エドガーに比べてずいぶん早かったのは、ユディの腕が上がったためだろう。

 無事に浄化出来て良かったとホッとするユディに、ローレンスは心からの感謝を伝えると同時に、一旦宿を払うと言い出したのだ。


 理由は、里帰り。


「私には、可愛い天使な妹がいるのです。他の奴らは()()()()()()のですが、彼女の無事だけは確認しなければなりません」


 ローレンスは、蕩けるような顔で「妹」と言った。その顔だけで、どれほど妹を可愛がっていたのかよくわかる。

 なんでも、魔王討伐に旅立って以降、ローレンスは妹と会えていないのだとか。


「私は妹に『必ず生きて帰ってくる』と約束しました。……国や神殿が、私のことをどこまで妹に伝えたのかわかりませんが……彼女は、まだ私の帰りを待っているかも知れません」


 だから、せめて妹にだけは自分の消息を伝えたいと、ローレンスは話す。


「……お前が、どこで誰と会おうが勝手だが、ユディの情報を漏らすようなことだけはするなよ」


 エドガーは、顔を顰めながらそう言った。


「もちろんだとも。そんなことになるようなら、この命を絶つ!」


 いや、せっかく呪いを祓って救った命だ。そんな簡単に絶つとか言わないでほしい。

 胸をドンと叩いて宣言するローレンスに、ユディは苦笑した。





 そして今日、夜闇に紛れて旅立つローレンスに、ユディは最後の食事を食べさせたのだ。

 名残惜しそうにナイフとフォークを置いた聖騎士に対し、ユディは小さな箱を差し出した。


「ローレンスさん、これを持っていってください」


「これは?」


 箱を受け取ったローレンスは、少し首を傾げながら蓋を開けようとする。


()()()()()の劣化版ですよ」


 ユディの答えを聞いて、手を止めた。


「…………へ?」


 ポカンと口を開けた顔が、ちょっと可愛い。


「出来るんじゃないかなと思って作ってみたら、出来たんですよね」


 ユディは、ヘラリと笑った。


「そ、そ、そんな! エリクサーですよ! そんな簡単に『出来た』なんて、言っていいものじゃありません!」


 ローレンスは、大騒ぎ。


 たしかに、エリクサーといえば伝説の妙薬だ。飲めばどんな傷や病もたちどころに癒え、不老不死にまでなってしまうという、とんでもない代物。


(でも、俺の作ったエリクサーは劣化版なんだよな。傷や病は癒やせても不老不死にはならないし、古傷や体の欠損も再生できない)


 だからそんなに気にする必要はないものなのだ。


「大丈夫ですよ。一応エリクサーの範疇には入るみたいですが、中身は上級ポーションとあまり変わりありませんから。ちょっと浄化の力が強いくらいでしょうか? ……材料がみんな代替品だったんで、そうなったみたいです」


「代替品?」


「そのエリクサーは、ローレンスさんが捕ってきてくれた食材の余り物で作ったんですよ」


 ユディは、苦笑しながら説明した。



 本来、エリクサー作りに必要な材料は、フェニックスの羽とドラゴンの心臓、そしてユニコーンの角だ。

 聖女のスキルでユディはその知識を得た。

 同時に、スキルは揃えるのが難しい材料の代替に出来るモノも教えてくれたのだ。


「フェニックスの羽の代わりは、コカトリスの羽で。ドラゴンの心臓の代わりは、ワイバーンの心臓で。ユニコーンの角の代わりは、ペリュトンの角で。それぞれ替えられるんですよね」


 もちろん、本物の素材を使った場合に比べれば、効果は半減する。いわゆる粗悪品になってしまうのだが、とりあえずはエリクサーと呼んで呼べなくないといった代物には出来る。


(そんな代替品が、揃ってしまったからな)


 一日目には、コカトリス。

 ワイバーンは、三日前。

 そして今朝、ローレンスはペリュトンを捕ってきた。


 これはもうエリクサーを作るしかないだろう!

 そうユディが思ってしまったのは、ある意味必然だった。


「エリクサーの劣化版が出来たのは、ローレンスさんのおかげなんですよ。浄化が終わったとはいえ、予後が心配ですからお守り代わりに持っていってください」


 ユディの言葉を聞いたローレンスは、ブワッと涙を溢れさせた。


「私のために、こんな貴重なモノを作ってくださるなんて…………ユディさん! ありがとうございます! 妹の様子を見たら必ず帰って来て、一生恩返ししますから!」


 ――――いや、それはお断りしたい。


「俺のことは気にしないでください。どうか妹さんとお幸せに」


 顔を引きつらせながらユディが固辞すれば、ローレンスはますます感動したようだった。


「ユディさん! あなたは本当に優しくて謙虚で素敵な人です! そんなあなたを私は守りたい! 絶対帰って来ますから!」


 椅子からガタッと立ち上がり、ユディに迫ってくる。

 しかし、その手が届く前に、エドガーが間に立ちはだかった。


「なっ! いつの間に?」


「さっさと出て行け!」


 エドガーの手には、包丁が握られている。刃渡り三十センチの大型万能包丁だ。


「この私に剣技で叶うとでも?」


「剣ではなく包丁だからな。包丁捌きなら、お前に勝ち目はないぞ!」


「ぐっ…………たしかに」


 キラン! と光った包丁の前に、ローレンスはガクッと頭を下げた。


 勇者と聖騎士の戦いは、勇者に軍配が上がったらしい。

 なんだかんだ言って、仲の良い二人だとユディは思う。


「ローレンスさん、気をつけて行ってください。あなたが元気で笑っていられるのなら、そこがどこであろうと俺はかまいませんよ」


 ユディがそう声をかければ、ローレンスは涙ぐんだ。


「はい。行ってきます!」


 その夜、ローレンスの姿は闇に消える。





 ――――と思ったら翌日帰って来た。

 その腕に、瘴気で黒く染まった女性を抱えて。


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