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無能とバカにされてきた宿屋の主人は、今さら聖女になんてなりたくない!  作者: 九重


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第二幕 第四場 勇者(十)

「お前の仲間?」


 突然そんな依頼を聞いたユディは、戸惑ってしまう。急な話題の変化にもついていけなかった。


(いや、話題が変わったわけじゃないのか? こいつは、自分がどうしてこんなに俺に執着しているのか、その理由を教えてくれようとしている?)


 たしか、そう言っていた。

 他にも、ユディを傷つけたくないとか、よくわからないことを言っていたが――――。


(そんなの、嘘だ)


 だって、ユディの胸は、今ツキンと痛むから。


(――――やっぱり、こいつは俺の『聖女』の力が欲しかったんだ。自分だけじゃなく、自分の仲間も救って欲しくて……だから俺の傍に居ようとした)


 ストンと納得し、同時に落胆した。


 それでも、先ほどまでの訳のわからぬ不安よりずっといい。

 今のエドガーの言葉なら、ちゃんと理解できるから。


(それでいい。……いいはずだ。どの道、俺が本当に欲しい愛は、もう絶対手に入らないんだから)


 ユディは、無理やり自分を納得させる。視線でエドガーに話の先を促した。


 彼の目を見たエドガーは、ほんの一瞬痛みを堪えるような顔をする。でも直ぐに笑顔に戻り「ああ」と頷いた。


「あ! でも『聖女』は別だぞ! アレは自業自得だ。ユディの苦労を思えば助ける必要なんてない! ……俺が浄化してほしいと願うのは『聖騎士』と『賢者』だ。あいつらも呪いをかけられて苦しんでいるからな」


 此度の勇者一行は、四人のパーティーだった。『勇者』と『聖女』、『聖騎士』それに『賢者』だ。

 勇者の仲間に選ばれるスキルはいくつかあって、仲間の顔ぶれや人数は代々違う。固定されているのは『勇者』のみ。

 今までは、最低でも五人はいたのに、今回はずいぶん少人数だなと思われていたのだが……何の事はない『盗賊』が『聖女』を騙っていたせいで、本来五人のところが四人になっていただけだった。


「あの女が、ユディからスキルを盗まなかったら、魔王討伐はもっと簡単だったし、俺とユディはとっくに出会っていて、今頃結婚していたかもしれないのに――――」


 恨めしそうにエドガーが呻く。

 そんな可能性は微塵もないので、嘆かないでほしい。


「……その二人の症状も、お前と同じなのか?」

「俺よりは幾分軽いが、ヒドい状況なのは変わらないな。……『賢者』は早々に自分の体を石化させたから痛みは感じていないらしいが、意識はあると言っていたし……狂っていないといいんだが」


 エドガーは、心配そうに眉をひそめる。

 常時強い痛みに苛まされる体と、痛くはないがピクリとも自由に動かせない体。どちらがマシかは、あまり考えたくない究極の選択だ。




「――――わかった。呪いを祓おう」


 ユディは、あっさり頷いた。


「いいのか?」

「ああ。断る理由がないからな。もちろん、俺が聖女だっていうことはバレないようにしてもらうが……そこは任せていいんだろう?」


 魔王の脅威とはまったく無縁の王都で暮らしているユディだが、それでも勇者が魔王を倒してくれた意義がわからないわけじゃない。

 魔国と隣接している北方では、毎年多数の死者が出ていたし、フラリと現れた魔族によって消滅させられた村や町の話も、いやというほど聞かされた。騎士になったアーサーやティムだって、いつ何時魔国との戦いに派遣されるかわからなかったのだ。

 それらの脅威や心配をなくしてくれた勇者一行に、ユディは感謝していた。


(……まあ、その勇者が目の前の男だってことには、いまいち納得できないものがあるんだが)


 ユディに任せると言われたエドガーは、「おう!」と自信たっぷりに自分の胸を叩く。


「当然、ユディの秘密は守るから安心してくれ。聖騎士と賢者にはバレてしまうが、あいつらは口が硬いから大丈夫だ。…………ユディ、ありがとう」


 エドガーは、パッと立ち上がるとユディに抱きついてきた。


 あらためて言うまでもないことだが、エドガーが今身につけているのはパンツ一枚のみ。がたいのいい男の裸の胸に抱き込まれたユディは、いやそうに顔を顰める。


「離せ」

「いいじゃないか。どうせ浄化する予定だったんだ。このままやってくれ!」


 エドガーはそんなことを言いだした。

 たしかに言われてみれば、そのとおりではあるのだが。


(どうせこいつは、言いだしたら聞かないからな)


 ユディは、大きなため息をついた。


「……仕方ない。だったらせめて位置を入れ替えろ。お前は浄化するとそのまま眠ってしまうことが多いからな。俺はお前に押し潰されて寝るつもりはないぞ」


 ユディはベッドに腰掛けていて、その上からエドガーが抱きついている。このままエドガーが寝てしまえば、ユディが下敷きになるのは確定だ。


「残念。このまま押し倒すのも、ありだと思っていたんだが」

「おいっ」

「はいはい。わかったよ」


 言うなりエドガーは、あっという間にユディと体を入れ替えた。

 気がつけば、パンイチの男がベッドに寝ていて、ユディは彼の裸の腹の上で馬乗りになっている。


「なっ……重いだろう!」

「羽みたいに軽いぞ」

「そんなわけあるか! さっさと離せ!」


 ジタバタと暴れるが、ユディの体は動かなかった。エドガーが腰をガッシリ掴んでいるせいだ。


「このままでいいだろう? ほら、さっさと浄化をしてくれ。……服が脱げないなら、俺が手伝ってやるぞ」


 言葉と同時に伸びてきた手を、ユディはパシリと叩いた。


「断るっ! あと、ボタンを外すだけだ。全部は脱がないからな!」


 真っ赤になって怒鳴りながら、ユディは仕方なく上着の前をはだける。白すぎる自分の肌をあまり見られたくなくて、急いで横たわるエドガーの上に体を重ねた。


 胸の鼓動が早まる。


(べ、別に男同士なんだから、ドキドキする必要はないんだが……エドガーが、俺に惚れているとか言いだすから、妙に意識してしまうんだよな…………まったく。さっさと浄化してしまおう)


 考えていれば、ギュッと抱き締められた。


「グェッ」と変な声が出る。


「ちょっ! 力を緩めろ。俺を殺す気か?」


 怒鳴りつけてもエドガーはへっちゃらだ。幸せそうにヘラリと笑う。


「ユディが死んだら、俺も死のう」


 馬鹿も休み休み言え!


「せっかくここまで浄化したんだから、死ぬな! ……ったく、ほら、はじめるぞ」


 目を閉じたユディは、聖女の力をエドガーの体に注ぎはじめる。

 柔らかな光が、二人を包んだ。


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