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無能とバカにされてきた宿屋の主人は、今さら聖女になんてなりたくない!  作者: 九重


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プロローグ とても傲慢で愚かな令嬢のお話

なろうチアーズプログラム「連載投稿チャレンジ」企画参加作品です。

毎週一回程度の更新を目指します!

 少女は、高位貴族の末娘だった。

 男ばかり四人続いた後に生まれた待望の女の子。

 とても可愛がられて育ったことは言うまでもない。


 当然の結果として、彼女は我儘で自己本位な人間になった。愛され特別扱いされて当たり前。世界で一番尊いのは自分だと、心の底から信じている。


 そんな彼女にとって、今のこの状況は耐えがたい屈辱だった。

 五歳になって、スキルを得るためにわざわざ教会に足を運んだのに、自分に与えられたスキルが、()りに選って『盗賊』だったのだ。


(こんな、わるものスキルいらないわ!)


 本来『盗賊』は、悪いスキルではない。

 手先は器用になるし、敏捷性は上がるし、なにより偵察や潜入のスペシャリストになれるスキルで、非常に役立つ有用なものだ。

 特に魔王がいて、その魔王を討伐するため『勇者』のスキル持ちが現れるこの世界においては、勇者の仲間になることも可能な特別なスキルだった。


 しかし、そんなことは少女にとって、どうでもいいこと。

 彼女は『盗賊』という犯罪者の名を持つスキルを忌み嫌い、そのくせ無意識にスキルを使って、周囲を()()()()


 すると、自分の並ぶ列の端、自分と同じように跪き神に祈っている麦わらみたいな冴えない髪の少年に目が引きつけられる。

 少女よりかなり年上で十歳くらいに見える少年の頭上には、なんと『()()』というスキル名が浮かんでいたのである。


(あれよ! あれこそわたしにふさわしいスキルだわ!)


 そう思った少女は、また無意識に『盗賊』スキルを発揮した。

 少年の『聖女』スキルを()()()、自分のものとして()()したのである。


 そして、ちょうどそのタイミングで少女の前に神官がやってきた。

 少女のスキルを確認した神官は、喜びの声を上げる。


「おお! この子は『聖女』のスキルを授かっています! 皆さん『聖女』の誕生です!」


 途端上がる祝福の声。


「おめでとう!」

「すごい! 聖女だなんて素敵だわ」

「可愛いあなたにピッタリなスキルね」


(これこれ、こういうこえがききたかったのよ! こんなふうにほめられるのは、わたしでなくっちゃ)


 見れば、麦わら色の髪をした少年は、口をポカンと開けびっくりしたように少女を見ている。

 その頭上には、もうなんのスキルも浮かんでいなかった。


(あんなこに『せいじょ』はもったいないわ。わたしのものにして、せいかいよ。だいたいおとこのこなのに『せいじょ』なんて、おかしいわ)


 少女は、心からそう思う。




 そしてこれ以降も、彼女はこのとき見知らぬ少年からスキルを盗んだことを、ずっと反省することはなかった。

 少女から成熟した女性になり『聖女』として称えられて、勇者一行の仲間になったときも。

 魔王討伐に旅立ち、民衆の期待と声援を受けたときも。

 聖女の力を振るう度、浴びる賞賛も賛美も当たり前に受け取って、悦に入っていた。


 魔王と対峙したその瞬間まで。


「ハ……ハハハハハ……なんだ、その『聖女』()()()は」


 勇者の聖剣に胸を貫かれ瀕死になった魔王は、聖女をひと目で偽物と見破った。


「そんな()()で、我を阻めるとでも?」


 そう言った魔王は、最後の力を振り絞り、彼女から『聖女』のスキルを()()()()()()

 同時に、勇者一行に呪いをかける。


「ぐっ!」

「ガッ」

「うぉっ!」


『勇者』と『賢者』『聖騎士』が、胸を押さえ蹲った。


「ギャァァァァァァァァァ!」


『聖女』――――いや、もはや『盗賊』に戻った女性は、一際大きな聞くに堪えない悲鳴を上げる。


「イタイ、イタイ、イタイ……イヤァァァァ!!」


 髪を振り乱し、地面をのたうちまわった。


「聖女っ! 早く解呪をっ」


 勇者の願いを、魔王が嘲笑(あざわら)う。


「フ……無駄、だ。もはや、その偽物に、聖女の力は、ない……我を滅ぼし者よ……永劫、の、苦……しみを味わうが……いい」


 最後にゴホッと黒い血を吐いて、魔王は大地に沈んだ。

 しかし、()()()()()()()()魔王の死体からは、どす黒い瘴気が立ち上り周囲を汚染していく。


「……ぐっ……ダメだ。撤退するぞ」


 聖女が使い物にならないと判断した勇者は、仲間と共に這々の体で逃げだした。


(痛い……苦しい……いや、いやよ……助けて、誰か…………ごめん、ごめんなさい! 謝るから、だから…………だから!)


 叫びすぎて喉がかれ、声が出なくなった女性は、心の中で叫ぶ。


 ――――はじめて謝った。


 でも、それはもう手遅れで……ふと開けた目に、真っ黒に染まったしわがれた手が映る。

 それが自分の手だと気づいた彼女は、絶望した。


(ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい……)


 どれほど謝っても、彼女の苦痛が和らぐことはない。





 この日、勇者一行は魔王を討ち果たした。

 世界に平和がもたらされたが、その平和の陰で勇者一行が呪われたことを知る者は、ほとんどいない。


本日は、二話同時投稿です。

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