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第20話


 身体強化のスキルを使って森へと向かう中、頭の上のアウルムが不意に問いかけてきた。

《主、魔導回路の原料になる銅を集めるんだろう?》

「そうだよ。」


昨日ざっと村を一周した長さは凡そ10㎞未満と言ったところだろう。身体強化しなくても歩いて2時間もあれば一周できそうな広さだ。エトワールは村の大きさに対しての人口がやたら少ない。村のほとんどは畑や小川、森の一部も村に含まれ、宅地よりも自然の方が多いのだ。


昨日調べた感じ、森の中の柵はほとんど朽ちていて、それ以外のところでも朽ちて柵の機能を果たしていないところが多かった。


《主、どこに向かってるんだ?》

「洞窟だよ。通信石に使う鉱石もあるような洞窟だし、銅もあると思う。」

《いま主が向かっている方向より、あっちの方が銅の採掘が簡単そうだぞ》

「あっちの方?」


 アウルムが指したのは今向かっていたアーケールの卵が孵った洞窟の方角ではなく、少し逸れた方を指していた。


《主、探知のスキルを使ってみたらいい。広範囲だから思いっきり。》

「探知スキルか」


アウルムに言われた通り、“探知”を広範囲に向けてスキルを展開すると、矢印ウインドウが複数本森の奥へ伸びている。そのうちの1本だけ、他とは違い明らかに太く矢印が指し示している。先ほどアウルムが指した方角だ。


《その一番太い矢印の方に銅が一番多くあるって事だ。》

「なるほどね・・・アウルムにもこの矢印が見えるって事?」

《俺はルピナス様の化身であり主の従魔だからな。》

「ふうん・・・」

 ルピナス様の化身ともあれば見えない事もないんだろう。何となく納得して、その一番太い矢印の方へと駆けた。


「本当にここであってるのか・・・?」

 矢印が指したところまで来てみたものの、目の前には大きな崖。

 今まで矢印が間違ったことは無い。きっとこの先に銅があるのだろう。しかしどう取り出そうか・・・。


《とりあえず“採掘”で大まかに掘って、その後“分離”で銅を取り出せば良い。》

 アウルムにはこちらが考えていることがお見通しのように悩んでいる事を横から解決策を提示してくれる。


 頭の上で寛いでいる小さな黄金の竜は卵から孵ったばかりとはいえ、流石ルピナス様からの贈り物なだけある。

 “採掘”で広範囲で強めにかけてみた。するとビシビシッと大きな亀裂が入り、亀裂は崖の上までバキバキと広がっていった。


 おいおい・・・!こっちにまで落ちてくるぞ・・・!

 咄嗟の判断で後方に大きく飛び、少し離れた大木の枝に避難した。


 ガラガラと大きな音を立てて崩れた崖は、しばらく土煙で何も見えなくなり、ディオは土煙を吸い込まないように腕で口元を覆って様子を見た。


 しばらくした後、土埃は落ち着き状況が見えてきた。

 崖は大きく崩れ、重なり合うように大小の岩々が散乱していた。その中でも、ディオが採掘をかけたところに一番大きな岩の塊が残っていた。


 ディオは辺りがもう崩れないか視認した後、枝から降りて崩した崖に近付いた。

「これから“分離”で銅を採ればいいのか・・・」


 “分離”、調整が細かくて苦手なんだよな・・・今朝の畑の雑草抜きも神経を使った・・・。

 ディオの思考を読み取ったかのようにまたアウルムが喋り出した。


《主、“分離”のコツを教えてやろうか。“分離”は対象の成分内容がわかっていれば簡単にできる。“スキャン”すればいいのさ》

「そうか、だから通信石を作るときの分離は簡単にできたのか!」


 ディオは大岩に手を向けて“スキャン”してステータスウインドウを表示させた。

 銅鉱石岩・・・銅を多く含んだ岩  銅30%、ただの岩70%


 ビンゴだ!初めから銅を含んだ岩に当たるなんて。1%くらいを想定してたから、ラッキーだ。


 大岩に手を向けたまま、今度は“分離”を唱えた。すると大岩にヒビが入り、粉々に砕けたかと思えば、その粉々に砕けた岩の屑の上にどっしりと銅の塊がずどんと落ちてきた。


 純銅・・・銅の塊 純度100% 重さ約0.8kg


 見た目の大きさの割に随分と軽いんだな・・・純銅を持って来たアイテムボックスのポーチに入れながらその軽さに驚いた。


「アウルム、村全体に囲うとしたらどのくらいの銅が必要になる?」

《そうだな、主はどうやって村を囲おうを思ってるんだ?》

「村を囲う柵に銅を混ぜて繋げようと思ってた」

《柵に銅を混ぜてしまうとせっかくの純度が下がってしまう。そうすると魔力の伝導率も下がってしまうから、銅を粉状にして柵の上部にだけ薄く塗すのはどうだろうか。柵と柵と繋げる部分だけ銅が付いていれば魔導回路として機能するだろう。》


「そうか、そうだよな、母さんも鉱石は純度が高い方が良いって言ってたし、その方法でやってみよう。」

《うむ。そうすると、村の面積に対して全て囲うとなると多く見積もって10kgはあった方が良いだろう。》


「10kg?!」

 この大きさでまだたった0.8kg・・・。10kg採取しようとしたらここら一体の崖を崩すことになるんじゃ・・・

《今の大岩だけでなくここら一体銅鉱石の採掘に向いているようだ。足元の岩からも分離で少量ずつだが採れるだろう。》

「にしても10kgは気が遠くなりそうだな・・・」

 ディオは目の前に広がる崖を見て、これからの作業を考えて天を仰いだ。


「ただいま~・・・」

 日が暮れそうな頃にようやく家に帰ったディオ。

「おかえりディオ!・・・なんかやたら疲れてるわね?大丈夫?」

「魔導回路の原料を採りに行ってて・・・岩を砕きまくったから流石に疲れたかも。」


「ディオが疲れたって言うほどだから余程のことね・・・その割にはあまり汚れてないけど?」

「ああ、家に入るには汚すぎるから家に入る前に“浄化”で綺麗にした・・・」

「あ、そう・・・。」ディオにとって“浄化”はただの土払いと同じって事ね・・・。

 ルルカは突っ込む気力も失せたようだ。


 “分離”で銅を採り出した後、その一帯はそれはもう荒れて荒れて、違う場所まで崖崩れが起きそうだったので、銅を採り出した後の岩をまた再形成して崖の補修をしてきた。


 さすがに10kg分の採掘は骨が折れる・・・。

 アイテムボックスに入るかどうか悩んだけど、後々粉末状に使うのだからと全部粉末状にしてアイテムボックスに収まった。

 明日は柵の原料を採りにまた森に行かなくちゃな・・・。


「おお、ディオ、帰ったか。」

「ただいま父さん。」


 ディオがコップにお茶を注いでいると作業部屋からヴォルが出てきた。

「あれ、父さんが作業部屋使うんだね。」

「ああ、通信石があるからな。親父とちょっと話してた。」

 たまに父さんと連絡取り合ってるって母さん言ってたけど、作業部屋に通信石があったのか。


「あっ、ディオ。森へ行くのは良いけど、明後日は領主様のパーティーだからね。忘れないでよ?」

「忘れてた・・・」明後日って事は明日には柵を完成させた方が良いな・・・。


「領主のパーティーとは何だ?」

「あっ!ダーリンに言ってなかったわね!この前領主様のところのお嬢様を助けたのよ。そのお礼にってパーティーにお呼ばれしてるの!」

「ほほう。それは大層だな。楽しんで来い。」


 ヴォルはルルカの頭をぽんぽんと撫でた。ルルカはそれに嬉しそうにヴォルに抱き着いていた。

 子どもかっ!といちゃつく両親を横目に心の中で突っ込んで椅子に座ってお茶を飲んだ。


 翌日、朝食を摂るや否や、ディオは森へと向かった。

「柵にするなら堅い木の方が良いよな?」

《別にどんな木であろうと良かろう。“硬化”をかければ問題ないと思うが。》

「あ、そっか。」

 アウルムと話しながら、身体強化で跳び進んで森の奥へ向かい、数本切り倒しても大丈夫だろうという奥地に到達すると、早速風魔法でスパスパと切り倒していった。


「さてと・・・ここから柵の形に切り出して、銅の粉を薄く塗せばいいんだな。」

《“念写”と“造形”のスキルを使えば良い。》

 出た。また初耳のスキル。


「“念写”と“造形”?」ステータスウインドウをスクロールして探すと確かにある。

 念写は頭の中に映し出したものや描いたものを対象物に書き出すスキルで、造形は想像したものや設計図を基に材料を組み立てるスキル・・・

 これ知ってれば温室の製作もっと楽だったな・・・!


「“念写”は書き出すスキルなら紙が必要か・・・?しまったな、紙は今もってないし家に帰るのも面倒・・・」

《今切り出した木の皮にでも念写すればよかろう》

「そういう使い方もあるのか・・・」

 切り倒した大木は苔むしていて、皮は剝いだ方が良いだろうと思っていたからちょうどいい。

 風魔法で大木からくるりと皮を剥げば紙の代用品としては十分だ。


 柵のイメージは土に埋める部分の長さと、土の上に出てる部分は大人は跨げるけど小さな子どもは乗り越えられない高さが良いよな。隙間の間隔は変に子どもたちが手を挟まないように狭い間隔の方が良いかな・・・。


 まず頭の中で必要な条件を考え、イメージを膨らませていく。そしてデザインが固まった頃に、剥いだ樹皮に向かって“念写”を放つ。


 すると樹皮に頭の中で考えていたデザインそのままの柵が写し出された。

「おお~・・・」自分でやった事だけど、初めて試すスキルに感嘆とする。


 で、次に“造形”か・・・これは“念写”で写し出したデザインをこの大木を原材料にして造り出す・・・“造形”!


 するとポンッとデザイン通りの柵が出来上がった。対比して大木の一部が削られているようだ。

「おおー。すごいな!」なんかテンション上がるな!

 でも造り出したのは柵1つ。村を囲う量を作るには・・・うう、また気が遠くなりそうだ・・・。


 その様子を、今日は近くの小枝に留まって休んでいたアウルムが見て溜め息を吐いた。

《主は本当に自分の力の使い方を全然分かっていないのだな。》

「え?」


 アウルムはやれやれと言った感じで休めていた羽を広げディオにパタパタと近づいてきた。

《セルピナ様が俺を遣わせた理由がよくわかる。》

イラッ・・・


「はいはい、俺は全然使いこなせてないですよ。で?どうするのが一番ですかね、アウルムさん」

《はぁ・・・まずその1つ出来上がった柵の上部に銅の粉末を薄く塗布する。それから“硬化”で強度を上げてから“状態維持”をかけて柵の劣化を防ぐ。》

「“腐食防止”はかけなくて良いのか?」


 ディオの言葉に再びアウルムが溜息をついた。

 イラッ・・・こいついちいち・・・主は俺なんじゃないのかよ・・・


《“状態維持”は“腐食防止”より上位のスキルだ。“状態維持”がかかっているなら腐食も劣化もしないだろう。》


 じゃあ温室を作った時の俺の“腐食防止”は意味なかったのか・・・。

 自分のスキルを把握していないと無駄なことが起きるものだなと少し反省した。


《“状態維持”をかけたらその柵を“複製”で一気に量産すればよい。主は錬金術の加護もあるのだからな。》

 態度は癪に障ることもあるが、アウルムのアドバイスは完璧だ。確かにその方法なら一気に量産ができる。


 皮を剥いだ木材と、銅の粉、そして基にする柵。

 ディオはそれらを並べると手を向けて、“複製”のスキルを放った。数が数なので、しばらくスキルの放出を行った。スキルの連続使用は魔力を大量に消耗するが、“魔力回復”の加護のおかげでどうにか最後まで作ることができた。


 が、これで終わりではない。明日作業ができない分、今日中にやらないと。

 大量に作った柵をアイテムボックスにしまい、身体強化で村まで急いで戻った。


 始点となる村の門まで来ると、

「じゃ、やるぞ」と意気込んですぐさま柵の取り換えを始めようとしたのだが、思ったより古い柵がしっかり刺さっている・・・

 一つ一つ抜いて交換してたら間に合わないぞ・・・!

《主、“置換”のスキルだ》

 まーた丁度良いスキルがあるのね。


 “置換”・・・指定したものとものを置き換えるスキル

 まさに今この状況にお誂え向きのスキルじゃないか。よし、物は試しだ!時間もない!急ごう!

 ディオは“置換”スキルで古い柵と新しく作った柵を交換しては次、次、次、と身体強化も続けながら高速で柵の入れ替えを進めていった。


「はぁ、はぁ・・・終わった・・・」

 一周して、終点である門の反対側の柵まで全て変えた頃には日が暮れていた。さて、家に帰らないと・・・

《主よ、肝心の条件を付けた魔石の準備をしていないのではないか?》


「あ・・・」

《これではただ魔導回路で村を囲んだだけで何も起きぬぞ。ただの柵と同じだ。》


「ですよね・・・・・」

 仕方ない・・・明後日やろう・・・・・。


 そうしてディオはやり切った感を失ってテンションが下がったまま家路に着いた。




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